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第5話 意外な招待状



 ***



 しかししばらくして、問題はきちんと起こった。


「クロエ」


「なんですかお父様」


 父の書斎に呼び出されたクロエには、呼ばれた理由に身に覚えが無かった。差し出されたのは一通の封書だった。質感からして高価な紙だと見て取れた。


「隣国のジョエル王子から王家の紋章付きの招待状が届いているんだが、これはどういうことだ?」


「それは・・・・・・意味が分かりませんね!」


 身に覚えがあり過ぎたことを思い出し、誤魔化そうとニコーっと笑ったクロエに父は机を叩いた。


「ふざけるのはよしなさい!」


「本当よ!お父様本当に分からない!どうしてジョエル王子が私を呼んでいるの!?ただちょっとロジェと仲良くなりたくて勇者の剣を引っこ抜いて旅行を満喫しただけなのに!」


「分かった。頼むから私にも理解出来るように説明しなさい」


 かくかくしかじかと説明を受けた父は額を押さえた。


「なるほど。・・・・・・まさか、ジョエル王子はクロエに気があるのか?」


「あっても困ります」


 その言葉を聞いて父は片眉を上げた。


「まだあの騎士を狙っているのか?」


「いつまでも狙っていますわ」


 ホホホと笑うが、父はため息をついた。


「お前の恋路に口を出すつもりはないが、早めに私を安心させてくれ」


 クロエには三つ下の弟が居るので、公爵家の跡継ぎに問題は無い。だからクロエもこうして自由を許されている。


「こういう時は弟が居て良かったなって思います」


「もっと他の時に思いなさい。で、これはどうするんだ」


 父は封書をヒラヒラ振る。そんなの答えは決まっている。


「興味無いのでお断りして下さい。遠いとか疲れが溜まってるとか適当に理由を付けて」


「お前は親不孝だな。相手は王子だぞ。この家の発展と安泰に繋げようと思わないのか」


「なんとでも言って下さいな。では私はこれで」


 クロエはきびすを返してパタンと父の部屋の扉を閉めた。



 ***



「旦那様はなんと仰ってましたか?」


「隣国からパーティーの招待状が来たらしいのだけど、丁重にお断りするようお願いしてきたわ」


 ゲルトは軽く目を見張って、


「そうですか」


 とだけ呟いた。ゲルトの態度にクロエはいささか疑問を覚える。


「やけにあっさり引き下がるのね。もっと聞きたいことないの?」


「大体想像がついたので。それに、俺の予想だとコレはもっと面倒なことになりますよ」


「何それどういうこと?」


 ゲルトはため息をついた。それはもう深い深いため息だ。


「そのパーティーはいつでしたか?」


「一週間後」


「じゃあ二週間後のユーグ王子誕生パーティーはどうされますか?」


「そりゃ行くわよ。もう言っちゃったし」


「・・・・・・来ますね、ジョエル王子。ユーグ王子の誕生日パーティーに」


「え?まっさかー!」


「まさかねー」


「アハハハ」


「ハハハハハ」


 と、笑っていられたのはこの時だけだった。



 ***



 ───二週間後。


「あなたに会いたくて来ちゃいました」


 ちゃーんとユーグ王子の誕生日パーティーにジョエル王子も出席していたのだった。しかも綺麗にウィンクまでキメてくれる。


(ウソん・・・・・・)


 ゲルトの予想に半信半疑だったクロエは正直驚きを隠せなかった。何故だ、何故来たジョエル王子。


「お元気でしたか?クロエ嬢」


「ええまあ、それなりに」


「パーティーの件は気にしていません。こうしてまた会えたのですから」


 しかしクロエからしたらジョエル王子どころではないのだ。今日は王城の庭でバラを眺めながらのパーティー、そして誰もが否応なしに正装を求められる特別な会。


 久々に装飾華やかなドレスを着た訳、それは勿論、ロジェの正装を見る為だった。


(ロジェが正装の騎士服を着るのなんて一年に数回なんだから!今は隣国の王子がなんだとか言ってられないのよ!)


 と、思いながらも引っこ抜いた剣の借りがあるのでジョエル王子に毒づくわけにはいかない。


 とは言えバレないように目の端でロジェを追っていたが、ロジェは人混みに紛れてしまった。


(あああロジェが行っちゃう・・・・・・)


 せめて視界の端では収まってて欲しい。目が乾燥するので目薬代わりにしたい。見てるだけで潤う。


 クロエはやんわりとその場を離れる手立てを考えた。


「あの、ジョエル王子、今日はユーグ王子のお誕生日ですから。是非ご挨拶をなさって下さい」


(秘技、他人を巻き込む術!)


 言われて気付いたのか、


「あなたの言う通りですね、そうしてきます」


 とジョエル王子はユーグ王子の元へと向かった。確かジョエル王子は二十三で、ユーグ王子は二十。歳も近いのでしばらくは話が弾むだろう。


 ジョエル王子が居なくなるとクロエはさっさとゲルトの影に隠れてロジェを眺めた。彼の騎士正装は黒を基調としており、背の高さと肩幅、雰囲気と相まって死ぬほど似合っていた。


「見て、ゲルト。ロジェが美しい。はー、尊い・・・・・・」


「はいはい。ジョエル王子は退散しましたか?」


「今はね」


 今は、という言葉にゲルトは苦笑いした。


「あー、しつこそうでしたもんね」


「パーティー断った時点で脈無しなのよ。どうして気付かないのかしら」


 ロジェばかり見ていたので気にしなかったが、ふとロジェの隣で佇むリリアーナが目に入った。リリアーナとユーグ王子は並んで座っており、ロジェは彼女の側で控えていた。その光景に胸が苦しくなった。


「もし私が今ユーグ王子の婚約者だったとしても、ロジェは私の傍には居てくれないわよね」


「クロエ様・・・・・・」


 ロジェの主はリリアーナなのだ。自分で選んだ特別な主。それは決してクロエではない。もしもロジェが主を選んだ時、選ばれたのが自分だったらとは考えずにはいられなかった。


 リリアーナはユーグ王子と、クロエが追いやったジョエル王子と仲睦まじく会話している。それは羨ましくない。なのに心の中はモヤモヤする。


(あなたはいつも、欲しいものが手に入るのねリリアーナ)


 するとゲルトはちょいちょいとクロエの肩を叩いてハッとした。


「クロエ様、あちらに席を取ってあります。食事も持ってきますから是非少し休んで下さい。こっそりロジェも見える位置ですよ」


「ありがとうゲルト。あなたはいつも優しいわね」


「当たり前です、俺はいつだってクロエ様の味方なんですから」


 クロエは微苦笑した。


(そうだわ、誰もが私に味方しないわけじゃないわ。何を悲観的になっているの私)


 いつも大切なことを忘れそうになる。ゲルトは本当にクロエに親切にしてくれる。だからヘクターがゲルトを虐めると必ず庇う。優しいゲルトを悲しませることは断じて許せなかった。


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