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第30話 騎士家のパーティー



 ***



 クロエはお約束のごとく父の書斎に呼び出された。


「あーもうお父様に呼び出されて良いニュースであったためしが無いんですが。今日はどんな悪いニュースですか」


 机の上に置かれた謎の封書に目をやりながら、クロエは嫌味を言った。


「お前にとってはともかく、私にとって悪いニュースだったことは少ないがな。しかし、今回のことはお前も喜ぶかもしれない」


「なんですか」


「あの騎士家でパーティーが開かれるそうだ。その招待状がこれだ」


 騎士家と聞いてクロエは目が飛び出しそうなくらい封書を凝視した。


「それロジェから届いたの!?」


「正しくは彼の父親だが」


「よっっっし!!!」


「もっと女子らしい喜び方をしなさい」


 ガッツポーズをしたクロエは、父に軽くたしなめられた。ロジェの屋敷でプライベートの生活を垣間見る機会なんてそうそう無い。この機会にじっくり眺め倒そうと決めた。


「それにしても、どうして私が呼ばれたのかしら」


 それもロジェ本人ではないところが気になる。


「嫁探しだろう」


「うそ!?本当に!?」


 クロエの目があまりにキラキラ輝くので、思わず父はった。今までの縁談とはえらい態度の違いだ。


「ロジェはあの家唯一の直系男子だからな。子を絶やしたくないと考えるのは当然だろう」


 ロジェの祖先は初代国王に仕えた有名な騎士で、由緒ある家だ。その祖先は初代国王に仕えた功績が称えられ、未来永劫有効な勲章が与えられた。


 その為爵位は無いが、その勲章によって社交界の中でも立場が保証されてる。


 そして父の言う通り、ロジェは唯一の一族の直系男子だ。よく考えれば彼が結婚しないという可能性は無いに等しかったのだ。


「つまり私がロジェの妻になる可能性が出てきたってことよね!?」


 父は呆れながら頷いた。


「ああ。お前が本当にロジェをものに出来るかどうかは分からないが、この際結婚してくれるならそれでいい。きっとパーティーには他の令嬢達も招待されていると思うが、頑張ってチャンスを掴んできなさい」


「はい!絶対選ばれてみせるわ!」


 クロエはメラメラと闘争心を燃やしていた。


(この勝負、絶対負けられない!)


 早速ゲルトを呼び出して、服装と化粧の作戦会議を行うのだった。



 ***



 パーティー当日、ゲルトに手を引かれて馬車から降り立つと、誰もがクロエに視線を引かれた。端麗な顔立ちを引き立たせる髪型と化粧に、ミントグリーンの爽やかなドレス。首元やイヤリングの宝石も上品目に小さいものを選んだ。


 そして何よりクロエは自信を伴った堂々とした態度で、それであって歩く一歩一歩に優雅さを兼ね備えていた。


 まずクロエに出迎えたのはロジェの父親だった。彼は現国王に仕える騎士で、騎士団とは別系統で騎士を動かせる特別な地位にあった。


 父の後ろにロジェが控えているのを軽く見やって、クロエはドレスの裾を持ってゆったりとこうべを垂れた。


「お初にお目にかかります、伯爵家より参りましたクロエと申します」


「初めまして。あなたがクロエ様ですね、お話は伺っています。息子と懇意にして頂いてるとか」


「いやですわ、懇意だなんて。まあそうですね、ロジェ様とは仲良く(?)させて頂いてます」


(ちょっとビミョーなところだけど)


 案の定ロジェが顔に「誰が仲良しだ」と書いていた。しかし時と場合と場所を考えて彼はいつもより発言を控えているようだった。


 ふとロジェの父はクロエのドレスに視線を移した。


「今宵は華やかな服装の方が多いようですが、あなたはとても控えめでいらっしゃる。趣味が良くて個人的に好ましい装いです」


「ありがとうございます」


 クロエはにっこり微笑んだ。それもそうだ、クロエはあえてめかまなかったのだから。


 父とロジェの暮らす屋敷の内装は派手だが、奥方は控えめな性格で慎ましい生活を送っていると聞く。


 当人であるロジェも女々(おんなおんな)した格好を嫌っているのを知っていたクロエは、さり気なさと上品さを追求した結果がこれだった。


(私のリサーチは完璧なのよ!)


 今頃周りの十数人の女達はほぞをかんでいるのが分かる。この時点ですでにクロエは一歩リードしていると確信した。


 そしてこの後、招待された令嬢は一人一人ロジェとダンスを踊っていく。その途中でどんな会話や質問をしても構わないし、逆に自分をアピール出来るのはその時だけだ。


 真っ先にロジェと踊ったのは真っ赤なドレスを着た令嬢だった。艶めかしい化粧と胸元を意識させるデザインのドレスだが、どれだけアピールしてもロジェは彼女になびいていなさそうだった。


 そして何人かが踊り終えると、ようやくクロエにダンスの順番が回ってきた。差し出されたロジェの手を取って、曲の開始と共にステップを踏んだ。


 そういえばロジェと初めて踊ったのは去年の舞踏会だった。あの時も渋々といった感じが拭いきれなかったが、今回はいつもと少し違う、表情が曇っていた。


「・・・・・・今日元気無いわね、ロジェ」


 クロエに言われてハッとしたロジェは、直ぐに平常心を取り戻した。


「いえ、いつも通りです」


「そう」


 とはいえ、何か悩みごとを抱えているように見えた。ふとクロエは前回の舞踏会と違って、今自分があまりダンスを楽しめていないことに気付いた。


(あれ、今日はあんまり楽しめない)


 前はロジェの顔を見るだけで楽しかったのに、今日はロジェの様子が気になって仕方ない。そうしてクロエも通常運転にはなりきれないまま、ダンスは終わってしまった。


 しかしロジェの父からの印象は良かったようで、見送りの際の態度はかなり友好的なものだった。


「今日はありがとうございました、クロエ様。今後ともよろしくお願いします」


「え、あ、ええ!勿論です!」


 笑みを抑えながらも、心の中でガッツポーズしていた。


(好感触ね〜!これは勝ったわ!)


 クロエはルンルンとした足取りでゲルトの待つ馬車に向かった。しかしその帰り際、二人の令嬢が話している会話が耳に入ってきた。


「ダメねー、いくら頑張ったところでロジェ様のお父様はクロエ様贔屓だわ」


「そりゃあそうよ、伯爵令嬢ですもの。最初から勝負は見えているのよ」


「やっぱり権力には勝てないのね。あーあ、私も伯爵令嬢だったら良かったのに。こんな出来レースなら来るんじゃなかった」


 クロエはそのまま気にせず通り過ぎた。何を言われても辛くはなかった。自分の持っているものを最大限に使って、努力もした。それは確かなのだ。


───でも。


(あれ、どうしてかしら。どうして()()()()()の)


 勝ったものが勝者。欲しいものがあるなら、なりふり構ってられないと思ってた。それなのに。


『お前はきっと、ロジェに対してまだ恋なんだろうな』


 ディオンの言葉が思い出された。欲しい欲しいと願っている自分。


(私は・・・・・・欲しいだけ?でもそれを愛にするには、どうしたらいいの?)

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