表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/37

第26話 猫の手も借りたい

 ***



 クロエはゲルトに手当されながら、手が震えていた。


「ディオンはもしかしたら、私との揉み合いで昔の記憶を思い出したのかもしれない」


 走り去ったディオンの顔が頭から消えない。悲痛な、泣きそうな顔。『母親』だとか『あの女』と呼んでいたのに、ディオンは『お母さん』と言っていた。


 彼が母親を殺してしまったのは少年だった頃の彼。その罪に押し潰されずに過ごせるはずがない。


「どうしよう、私のせいだわ」


 クロエの震える手に、ゲルトはそっと手を重ねた。そのあたたかさに涙が溢れ出てきた。


「クロエ様のせいじゃありません。あれは不可抗力です」


「でも思い出すべきじゃない記憶だったのよ!」


 ジョエル王子だって、兄であるディオンを心底心配していた。自分が憎まれてでも彼の心が軽くなるように努めていた。なのにそれを自分が全てぶち壊してしまったのだ。


「クロエ様があの決闘を申し込まず結婚していたからと言って、あの男が救われたとは思いません。

 過去というのは、いつか必ず自分で折り合いをつけなくてはならないものなのです。ディオンには今がその時だっただけです」


「でもディオンはもしかしたら、ヤケになって隣国に行くかもしれない」


 たとえ国境を封鎖しても、抜け道はいくらでもある。そもそもそんなことをするには、ディオンに反逆する意思があると示さなければならない。


「ディオンを探さなきゃ。あの人、本当に国王とジョエル王子を殺すかもしれない!でもどうしたらいいの!?」


 俯いて涙をこぼすクロエに、おずおずとゲルトが気まずそうに提言した。


「クロエ様、非常に癪な話なのですが・・・・・・()()()に相談してはいかがですか?」


「え?」


 クロエはゲルトを見やった。


「・・・・・・リリアーナ様です。クロエ様はよく、リリアーナ様と話した後、何かを解決することが多いですよね?」



 ***



 日が沈みかけ、王宮は明日に備えて慌ただしかった。ギリギリまで準備することがあるのだろう、人の動きが絶えない。いつも感じていた時間のゆとりが全く存在していなかった。


 その上クロエはリリアーナの周りの人間から要注意人物として見られていたので、あまり歓迎されなかったが、そんなこと気にしていられなかった。


 ほとんど無理矢理押し付けた形での訪問となるが、リリアーナだけは気にした素振りは見せなかった。


「結婚おめでとう、リリアーナ」


「ありがとうございます。・・・・・・でも、その顔からして、単に祝いに来てくれた訳じゃないんですね?」


 探るようなその目にクロエは頷いた。


「あなたの担任だったディオンって教師、覚えている?」


「はい、覚えています」


 途端にクロエの視線が鋭くなった。周りの人払いは済ませてある。


「彼はあなたの()()()()()()だった?」


 ここは彼女リリアーナの為に用意されたら箱庭だ。ならば担任である彼が無関係でいられるはずがない。


「・・・・・・ええ、そうです。彼も私の『攻略対象』でした」


「聞きたいことがあるの。もしもディオンがピンチに陥った時、どこに隠れるか見当がつくかしら?」


 当然の質問にリリアーナは若干首を傾げ、悩ましそうな顔をした。


「ええっとですね、思い当たる節はあります。でも、正確にはどこかは分かりません」


 ビンゴだ。これでディオンの居場所が絞り込める。


「どんな些細なことでも構わないわ。後は私が調べるから」


「確か、使い潰された石造りの古城で、近くにアネモネが咲いている場所です。近くに川もあったかと」


 城跡となればかなり限られてくる。地形と照らし合わせて調べれば割り出せる。


「ありがとう。恩に着るわ。事情は後日また話すから」


 そう言って去ろうとしたクロエをリリアーナは引き止めた。


「あの、ディオン先生は過去にお母様を・・・・・・」


 途中で切られた言葉にクロエはハッとした。それだけ聞けば、ジョエル王子の話が本当だったことは明白だ。


「ええ知っているわ。この話は私に任せて。あなたは幸せの中で佇んで、ユーグ王子のことだけ考えていなさい」


「大丈夫なんですか?」


 クロエはニッと笑った。


「誰にモノ言ってるの?・・・・・・と言っても、私があなたにこんな口をきけるのも今日が最後ね」


 明日になればとうとう、彼女は王子の妃となる。なんの未練も無いが、複雑であることに変わりはない。学園では立場が下だった彼女は、いつかこの国の頂点に立つ。


 こんな日が来るなんて、あの頃は全く思っていなかった。


 テーブルの上に誰かからの花束がいくつも置かれていた。使用人も忙しくて中々花を生ける時間が無いらしい。そこからクロエは花を一本抜いて、リリアーナの髪に挿した。


「結婚おめでとう、リリアーナ。ユーグ王子の期待を裏切らないでね」


「勿論です、クロエ様」


 リリアーナはしっかりと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ