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第22話 再びジョエル王子に



 ***




「あんなこと言われたら逃げるしか無いでしょ!!!」


 馬車の中でクロエは冷や汗をかいていた。今まさに隣国へ逃亡中だ。しばらく家には帰るつもりはない。恐らくディオンの既成事実とやらを父は容認するだろう。でなければ伯爵家で堂々と不貞を働くことが出来るはずがない。


(そんな恐ろしい状況耐えられない!!)


 前の席に座るゲルトは複雑そうな顔をしていた。


「そうはいっても、結婚を断った上に最近婚約したジョエル王子の元に行くクロエ様には感服します」


「ゲルト、喧嘩売ってるなら買うわよ?」


「いえまさか、イダダ!ほっぺたつねらないで!」


「私は婚約祝いを持って行くだけよ」


 そう、今向かっているのはジョエル王子の元だ。


 クロエは城に着くと、色とりどりの花束を持って満面の笑みで祝福の言葉を贈った。


「婚約おめでとうございます、ジョエル王子!」


 勿論当の本人はやや困惑気味な笑みで花束を受け取った。


「まさか婚約を一番に祝ってくれたのがクロエ嬢だなんて、少々複雑です」


「もしかして私に未練が?」


 ニタリと笑ったクロエに、


「いえ、全然」


 と、ジョエル王子もキッパリ返した。


「やっぱり」


「え?」


「だって王子、私のことそんなに好きじゃなかったでしょう?」


 クロエは元々、ジョエル王子がそれほど自分を好いているとは思っていなかった。一目惚れした訳でもなしに、あの短期間でどうして自分に婚約を申し込んだのか考えていた。


「・・・・・・すみません、実は少し妥協も込みでした」


「もしかして失恋後でした?」


「はは・・・・・・」


(図星か)


 苦笑してはいるものの、悲痛さが隠しきれていなかった。


 ジョエルの容姿とあの直球過ぎるアプローチがあれば、普通の女性なら誰でも了承していたはずだ。クロエもロジェが居なかったら少し揺れたかもしれない。


「重ねてあなたにフラれたのは、内心かなりショックだったんですよ」


「うふふ、言ったでしょう、私は悪女だって。今回の婚約者はよく考えて選びまして?」


「はい、()()()方を選びました」


 クロエは驚いて目をぱちくりさせた。ここまで来てまだ心から愛していない相手を選んだか。


(前の方によっぽど本気だったのね)


 どんな叶わぬ恋だったのだろうか。でもそれを聞くのはフェアじゃない。


「ジョエル王子は理性的なんですね」


「王子の立場では、自分を捨てなくてはならない時もあるんですよ」


「ちなみに王子は一人っ子ですが、兄弟を欲しいとか思ったことないですか?」


 唐突な質問にジョエルは少し言いよどんだ。


「そうですね、居ても多分、争いしか起こりませんよ。ほとんどが亡くなりましたし」


 その言葉で、認知していない兄弟が居ることは知っているのだと分かった。


「じゃあ、ディオンのことも知ってますね」


「はい。残り一人の兄弟で、僕の肉親です」


 肉親という言葉に引っかかった。


(ジョエル王子は、ディオンを本当に兄と思っているのかしら)


 するとジョエルが何を察したのか、広間から客間へと招いた。そして人払いを命じて、テーブルを挟んで向かい合って座った。ゲルトはクロエの後ろで立って控えている。


「国王である父は、最初なかなか子供が出来なかったそうです。そしてその油断から、地方視察や他国に行った時に調子に乗って沢山の女と寝た結果、カエルの卵方式にボコボコと産まれてしまったようで。あんまりにも考え無しの父に、元正妻、つまり元王妃は呆れて王宮を去り、僕の実母が後釜に据えられたんです。僕は母親似とよく言われますが、本当によかったと実感してます。あんな下の緩い王にはなりたくありませんから」


 かなり辛辣加減な言葉にクロエはおののいた。ジョエル王子はクロエに対しては絶対に柔らかい物腰を崩さないのに、父に関しては別だった。


「えーっと、王子の父上、国王陛下の話ですよね?」


「ええ。でも誰だって呆れる話でしょう?」


(まあ確かにそうなんだけど)


 性格にえげつなさは無いが、どことなくディオンと兄弟感はある。


「王子に兄弟はあと何人残っていますか?」


「兄のディオンだけです。彼は唯一、国外に出来た子供ですし、他国で暗殺しようと目論む人間も居ません」


「でも彼の母親は殺されたんですよね?」


 するとジョエル王子の顔色が曇った。


「そもそもの話、何故ディオンのことを調べていらっしゃるのですか?」


「・・・・・・実は───」


 かいつまんで話した事情を聞くと、ジョエル王子は絶句した。ディオンとの縁談があることと、強引に迫って来て婚約既成事実を作られそうだという点だけ話したのだが、身内の話だから気まずいのか。もしくは縁談の理由を言っていないので、若干父の色事と重ねてしまったのかもしれない。


「それは・・・・・・災難でしたね・・・・・・」


「ええ。でもまあ未来の夫となるなら、少しは彼のことを知っておかなければと思いまして」


 嘘も方便である。


「ディオン本人から聞いてはいかがです?ちなみに、あなたの好きだと言っていた方はどうなったのですか?」


「勿論私は今でも、その別の方が好きですよ。でも縁談なので一応無視出来ないし、ディオンには自分で調べろと言われたので、あなたに直接尋ねに来たのです」


 ジョエル王子は軽く目を見張った。果たして何に驚いたのかは分からなかったが、彼はこの話を切り上げた。


「それはお疲れ様でしたね。今夜は部屋を用意してます。どうぞごゆるりとお休み下さい」

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