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第18話 誕生日パーティー

 絢爛豪華な調度品、新品のカーペット、そして艶やかな花々が飾られた。今日はクロエの二十歳の誕生日パーティーが催された。


 クロエは少し伸びた髪を結い上げ、ノースリーブでスリットの入った赤いドレスに身を包み、首元には同系色の宝石が施されたネックレスを付けていた。


 伯爵家の屋敷には親戚や招待客がクロエに多くの贈り物を用意してわんさか集まった。半分は父への機嫌取りも兼ねてだと思うが、クロエは素直に好意と受け取って始終笑顔を浮かべていた。


「クロエ様お誕生日おめでとうございます」


「本日もお綺麗ですわね」


「二十歳だなんて、時の流れは早いものです」


 などなど。よくある定型文で褒め称えられる。年齢性別は様々だったが、一人だけ珍しい客人を見つけた。


 ほとんどが爵位を持つ人間だどいうのに、彼だけは違う。平民であり、学園時代からクロエの知る人物。彼はクロエと目が合って、ニコッと優しげな笑みを浮かべた。その顔は誰かに似ている気がした。


「お誕生日おめでとう、クロエさん」


「ディオン先生?」


 ディオンは学園時代の歴史担当の教師だ。歳は二十八、ルックスが良く、融通の利くことで生徒達からは人気だった。


「久しぶりだね。卒業して三年、立派になったね。あ、これ、プレゼント」


 渡されたプレゼントは胴ほどの幅のある黒い箱で、クロエの髪と同じ金色のリボンが巻かれていた。


「ありがとうございます。大事に使いますね」


 そう言ってクロエはゲルトにプレゼントを渡した。


「で、どうしてここに?」


「君のお父さんに呼ばれたんだ」


「父上に?」


 途端にクロエの顔が曇った。しかしディオンは気にせずニコニコとした笑みを浮かべている。


「学園でお世話になりましたーってね」


「・・・・・・・・・・・・」


「クロエさん?」


「その顔、やめて貰えますか。何か裏があるのバレバレなんですよ」


 クロエの呟きに、ディオンはわざとらしく「ん?」と首を傾げた。クロエはため息をついた。どうやら人前ではこのスタンスを貫き通すようだ。


「ちょっと外に出ましょうか」


 そう言って主賓であるクロエはディオンを庭に通ずるテラスへ引っ張った。


「で、本題をどうぞ。父上がそんな親切心で先生を呼ぶ訳がない」


 ディオンは困った顔をしながら軽く頭を傾かせた。


「率直に言うと、君のお父さんから君と結婚して欲しいと言われたんだ」


 クロエは内心頭を抱えた。


(またか!!!)


 どうして父は自分の意志を分かってくれないのだろう。少し前まではあんなに理解があったのに、最近はここぞと縁談を推し進めてくる。そして何より厄介なのが、クロエの目の前に居るこの男だ。


「それ、私が断ると分かってて言ってますし、何か切り札も用意してる。違いますか?先生」


「ふふふ。君って鋭いよね。でもどうして分かるの?」


「何度言わせるんです?あなたの顔を見ればその腹黒さが丸見えなんですよ」


 するとその言葉で彼は観念したようだ。()()()()()()()()()()()()ということに。


「心外だなぁ、昔の君ほどじゃないよ」


 先程までの優しげな笑みはどこへやら、目尻がつり上がって、怪しげな薄ら笑いを浮かべている。途端にクロエは壁に追い込まれ、腕で退路を塞がれた。


 ここはテラスだが誰も庭に出ていないので死角になっている。しかしクロエは真っ直ぐにディオンを見据えていた。


「ビビらないな」


「この程度でビビるものですか」


 ディオンはニッと口の端を吊り上げて笑った。


「よく言った。はっきり言おう───()と結婚しろ」


 その言葉にむしろクロエはせせら笑う。


「とうとう本性を表したわね」


「前からお前のことは面白い女だと思っていたんだ。ただ少し考えの足らない馬鹿で、無謀な動きが多かった。今でもそれは変わっていない」


 不意にディオンは言葉を切って、少しためてまた口を開いた。


「───でもなんだろうな、お前は『違う人間』になった。厳密に言うとユーグ王子謀反事件の時だ」


「!」


「それから何があったのか、今までのクロエではなく、違うクロエになった」


 クロエは驚かざるを得なかった。この男、隠している本性はともかく観察眼は本物だ。特にクロエの心情の変化のあった時期まで特定していることには感服すらした。


「今のお前となら結婚してもいい」


 クロエは無理矢理に虚勢を張った。


「何勝手なこと言っているんだか。昼間の陽射しに当たって頭でも沸いたの?」


「だろうな。自分でも今何を言っているのか分からない」


 クロエはドンッとディオンを突き押して、距離を取った。


「例えそれが本当であったとしても、私は今も昔も変わらないことがある。それはあなたが嫌いということよ。善人ヅラして、裏では生徒達の弱みを握って色々情報集めてたの知っているんだから!」


「へぇ、物知りだな。そこまで俺に熱心だったなんて、やっぱり類は友を呼ぶのか?」


「誰があなたと同じよ。吐き気がするわ」


 ディオンは意地悪気な笑みを浮かべた。


「なぁ、()()お前なら分かるだろう?どうして俺がお前の親父に選ばれたのか」


 クロエは嘲笑で返して、腕を組んだ。


「あら、切り札は先に見せるタイプかしら」


「それもそうだな。タネ明かしは今度のお楽しみだ。・・・・・・それにしても、お前の親父は重度の心配性らしいな」


「それは否定しないわ。目の黒いうちに嫁がせたかったのに、もう曇ってるみたいね」


「まあ今夜はせいぜい楽しめ。お前の為に用意されたパーティーだからな」


 手をひらめかせ、ディオンはそのまま帰って行った。


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