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第1話 嫌いな女は転生者



 執事のゲルトは主である()()を一生懸命に追いかけていた。


「クロエ様!どうして用意したドレスを着てくれないのですか!」


「うるさいわね、私はそんな女々しい格好していられないのよ!」


 ワンピースの裾を持って、ドタバタと走る彼女を追いかける。短いブロンドの髪が太陽の光にキラキラと反射して眩しかった。


「だからって・・・・・・綺麗に伸ばしていた美しいブロンドの髪をバッサリ切り捨てるなんて!それにそんな平民みたいな服を着るのはやめて下さい!」


 クロエは振り返って叫んだ。


「ブロンドも華美な服も要らない!私は・・・・・・私は、『ロジェ』が愛してくれたらそれでいいのよ!!!」



 ***



 クロエは昔から、とにかく人の上に立とうと必死だった。


 生まれながらの金髪ブロンドを褒め称えられ、唯一無二のその美貌で何人も学園の男子生徒をとりこにしてきた。記憶力も良くて、乾いた砂が水を吸収するように知識が頭に入ってきた。だから常に成績は首席。


 そう、クロエはどんな時でも絶対に一番になりたかった。今まで何に関しても必ず首位を勝ち取ってきた。


 でもどれだけ地位や権力を手に入れても()()()()。そこらへんの石ころが集まって来ても何も嬉しくない。何を知っても無気力。一番であっても何か変わるわけではない。


 ついにクロエは、この国でただ一人の王子ユーグを手にいれようとした。彼ならきっと、自分の何かを埋めてくれる。そんな気がしていた。


 彼を籠絡しようと途中まで事は簡単に運んだ。ユーグはクロエの魅力に惹かれていて、内心ほくそ笑んでいた。


 ───けれどその策略は突然崩壊する。ある日入学したリリアーナが、ユーグ王子と距離を縮めていく。彼女はとても()()で、強力な後ろ盾は()()()()。なのに()()()彼女の周りには多くの人が集まる。


 焦ったクロエはリリアーナのお付の騎士ロジェと出会った。彼は学園で特例で認められた特殊な存在だ。何が特例なのかと言うと、学園ではどんな身分の者でも側付きを常時控えさせることは禁じられていた。王子ですら寮の中でしか側付きを使うことは許されない。


 更にその騎士の実家は由緒正しい家柄なのに、生涯仕える主をリリアーナと定めたのだが・・・・・・その辺の話は長くなるので今は省略しておく。


 とにかくリリアーナが気に入らなかったクロエは、騎士ロジェに言い寄って利用してやろうと考えた。いつだってクロエは男を利用して、思うがままにしてきた。


 しかし結果、ロジェにはコテンパンにフられ、クロエの自尊心はズタズタに引き裂かれてしまう。それもそうだ、クロエはリリアーナを陥れようと画策していた張本人なのだから。冷めた表情の裏で、ロジェのリリアーナへの忠誠は本物だった。


 それからクロエは常にリリアーナと敵対していた。リリアーナの周りの人間はどうしようもなく自分クロエを嫌いになる。そもそも何故リリアーナをここまで目の敵にして、心の底から憎んでいるのか。()()()()()()()()()()()()()()


 しかしある時、ユーグ王子に国王への謀反むほんの疑いがかけられる。実の息子でありながら父親に謀反など企てるはずがない。それはクロエも分かっていた。


 ユーグ王子を助けようと必死だったリリアーナはクロエに協力するように頭を下げてきた。


 勿論答えは『ノー』だ。大嫌いなリリアーナ、いくらユーグ王子の為とはいえ、協力する筋合いは無い。それにここで彼が落ちるなら、彼はここまでの存在だったのだと考えていたからだ。


 するとリリアーナはとんでもないコトを言ってくれた。



「聞いて下さい、クロエ様。ここはゲームの世界なんです」



「・・・・・・はぁ?」


 クロエはせせら笑った。言っている意味がまるで分からない。気でも狂ったのか。その時はそう思った。


「あなたは私の恋路を()()に邪魔する『悪役令嬢』、そう()()()()()()んです!」


 その言葉を聞いて、クロエはハタとあることに気が付いた。クロエは腕を組んで、努めて冷静な声で尋ね返す。


「・・・・・・私に分かりやすいように説明しなさい。つまりここは、そうね、例えば神が()()()()世界だとでも言うの?」


 リリアーナはコクリと頷く。


「その通りです。私はこの世界とは違う世界で暮らしていました。そしてある時この身体に生まれ変わったんです。私はこの世界の『結末』を知っています」


「じゃあ何、ユーグ王子が謀反を企てていないと自信満々に言うのは、あなたが別の世界でこの世界の全てを知っているから?」


「はい」


 リリアーナはハッキリと返事をする。


 クロエの中で何が崩れていく音がした。恐らくリリアーナは嘘をついていない。何故なら、彼女の言うことが本当なら、今まで自分の中で渦巻いていた疑惑が全て繋がるからだ。


 そして、自分の思考が全て、()()ゆがめられていたとのだとハッキリ理解した。


(じゃあそれを知ってるってことは、この世界は実質、神様とその使いのリリアーナの思うままことじゃないの)


 全てを知っていて、誰彼構わず愛される彼女リリアーナ。これほど無敵最強なんでもありの『平凡な少女』。そんなものあってたまるか。


 何より今彼女が自分に声を掛けていることが気に入らない。


「どうして嫌われ者の私に言うのよ。全て知っているあなたなら、私が居なくたってなんだって解決出来るでしょう」


「いいえ、私はあくまで黒幕を知っているだけ。どうしてもクロエ様の力が必要なんです」


 リリアーナはクロエの手を強く握った。


「お願いします、クロエ様!私に協力して下さい!このままじゃユーグ王子が殺されてしまいます!」


 ありふれた茶髪に、サファイアのように青い瞳。いつもこの瞳に吸い寄せられて、そしてふつふつと怒りが湧いてきていた。対してリリアーナの周りの男は、この瞳を見て顔を赤らめる。そんなイヤな瞳。きっと彼女の瞳は呪われている。


 そして今では分かる、それは決まった絶対的魔力がこもっている。彼女は特別な存在。張り合うだけバカバカしいこと。それが真実なのだ。


 ───だからクロエは、この世界に全力で逆らって生きてやると決めた。


「・・・・・・いいわ、協力する。でもあなたの為じゃない。ずっと憧れだったユーグ王子の為よ」


 そう、クロエは元々ユーグ王子に好意を抱いていたわけじゃなかった。純粋に尊敬と憧れの対象だった。けれどもいつからか、権力の象徴にしか見えなくなっていた。まるで()()()()()()()()()()()()()()()






 こうして親の権力を使ったクロエとリリアーナは、見事ユーグ王子の冤罪を晴らした。そしてリリアーナは、晴れてユーグ王子と婚約することとなったのだ。


 クロエは素直に祝福した。


 本当はここで一悶着ひともんちゃく起こして婚約を破談に導きたい感情に駆られたが、それはきっと神がそう仕組んでいるのだ。きっと人間ぽっちのクロエが何をしようとユーグ王子は振り向かない。


 これを機にクロエは、今まで信じられないほど感情的だった精神が妙に落ち着いた。何もかも神に運命を定められていたのだと思うと、全てに落ちたからだ。


 ならば徹底して理知的に生きてやる。リリアーナのことは気に入らないが、多分これも気のせい。とにかく好きに自分の道を行くと決めた。


 でもただ一人だけ、リリアーナと今まで関わった人間の中に()()()好きだと分かった人物が居た。


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