52.再見① 説教
エステラさんに言われた部屋に入るとそこは、昨日の集合場所だった作戦室を一回り小さくしたような部屋だった。
そして、予想通り第十班の三人が椅子に座っていた。
俺が部屋に入ってくるまで三人で雑談をしていたようだが、俺が入ってきた瞬間会話を止めて、全員が緊張した顔持ちで俺を見てくる。
以前は見下すような態度だったローガンだが、俺が黒竜を倒すところを自分の目で見たためか、この前のような感じはしない。
むしろ、畏怖の念を抱いているように感じる。
「……四日ぶりだな。元気にしてたか? 聞いていると思うが、今日からお前たちを教導することになった。改めてよろしく頼む」
努めて明るい声で声を掛ける。
俺が挨拶を終えると三人が席を立った。
「先日は失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした!」
「「申し訳ありませんでした!」」
ローガンが先日の態度について謝罪をしてから頭を下げると、ソフィアとキャロラインもそれに続く。
いや、ソフィアはやらなくてもいいだろ。
ホント真面目な子だな。
「こんな僕たちを相手にするのは嫌でしょうが、どうか、僕たちにご指導いただけないでしょうか。お願いします!」
ローガンが俺に教えを乞うてくる。
なんか拍子抜けした……。
見下すにしても、怖がっているにしても、マイナスからのスタートだと思っていたのにな。
まぁ、こっちの方がやりやすくていいけどさ
……さて、なんて返答するのがいいかな。
「別に気にしてない。俺とお前たちでは大人と子どもくらいの実力差があるから、子犬が吠えている程度にしか思っていなかった」
敢えて意地悪にそう言う。
「うぐっ……、そうですね。確かにそれくらいの実力差があります……」
ローガンの心に俺の言葉がグサッと来たのか、険しい顔をしている。
「……教導探索では、俺たちの関係はあくまで、その場限りのものだった。だから、注意はしたけど、ある程度好きにさせていた。――でも、これからは違う。同じクランの仲間として、お前たちにモノを教える立場の人間として、真剣にお前たちと向き合う。厳しいことを言うかもしれない。突き放すこともあるかもしれない。それでも、俺はずっとお前たちの味方であり続ける。だからお前たちも、全力で俺にぶつかってきてほしい」
これは宣誓だ。
言葉にすることでより一層身が引き締まる思いになった。
俺にとっての師匠はじいちゃんだから。
じいちゃんのように、温かく見守り、時に厳しく、悩んでいたらアドバイスを与える。
そして、どんな時でも味方で居続けてくれる。
そんな理想の師匠に俺もなりたいと思っている。
三人が頷いたのを確認してから、話を続ける。
「俺はこれから、お前たちに今まで俺が得た知識を、技術を教えていく。ただし、それに差し当たって、一つ念頭に置いておいてほしいことがある。……いや、二つか。まず一つ目、常に思考を巡らせろ。物事には色んな解決法がある。ひとつのやり方に捉われるな。何気ない会話、何気ない光景が、思いがけない解決法になることもある。そして二つ目、俺の言うことが正しいと思うな」
一つ目に関しては三人とも理解を示したが、二つ目は意味がわからないようで、全員の頭にはてなが浮かんでいる。
「俺は決して全知全能じゃない。俺の言っていることが絶対に正しいとは思わないでくれ。俺だってこれまで幾度も失敗や間違いをしてきている。俺の言葉を鵜吞みにするのではなく、嚙み砕いてから自分の知識に、経験にしろ。疑問に思ったことは何でも質問してくれて構わない。わかったか?」
「「「はい!」」」
三人から気持ちの良い返事が発せられる。
◇
「それじゃあ、俺が最初にやることは、――説教だな」
「うっ……」
ローガンが、説教という単語に反応を示す。
「耳が痛い話だとは思うが聞いてくれ。お前たち3人は才能に溢れている。将来、このクランを代表する探索者になれる可能性も持っている。だけど、先日の態度はダメだ。仲間に対してもだが、部外者にあんな態度を取っていれば、《夜天の銀兎》自体の品格を疑われることにもなる。お前たち一人ひとりが、クランの看板を背負っていることを自覚しろ」
あの態度は流石に失礼だった。
あんな態度を取り続けていれば、孤立することになるだろう。
一人は寂しいし、辛い。
それが回避できるのに、わざわざ孤立するように立ち振る舞う必要はないだろう。
「お前たちが、もしSランクパーティになれたとしても、あんな態度を取り続けていれば、助けてくれる人は居なくなっているぞ。それに、人を見下しているヤツは、視野が狭くなると俺は思っている。相手を敬うことができて、自分と違う意見も素直に受け入れられる、そんな人には自ずと人が集まってくるし、成功していくと思わないか?」
他人を見下して横柄な態度を取っている人に、付いて行こうと思う人はいるだろうか?
人は1人では生きていけない、他人と手を取り合うためにも、自分から歩み寄っていく姿勢が大切だと思う。
「『初心忘るべからず』、お前たちはどうして探索者になったんだ? 自分の力をひけらかして、悦に浸るためか? そうだ、と言われたら困るけど、違うよな? 今までのお前たちの態度や行動が、掲げている目標を達成するために適したものなのか、今一度よく考えてみてほしい」
俺の伝えたいことは一通り伝えた。
先日とは違って、俺の言葉が多少なりとも響いているようだ。
三人はシュンとした表情で、下を向いている。
俺は表情を緩めて、努めて優しい声で、
「今回はちゃんと俺の言葉が響いているようで安心したよ。それなら、まだ間に合う。今からでも自分の行動を見直していけば、お前たちの評価も上がっていくと思うぞ。なんたってマイナスからのスタートだ。あとは上がるしかないだろ?」
「あはは……。確かに、そう、ですね」
ローガンが苦笑いをしながら肯定する。
「そうだな、せっかくの機会だし、お前たちが探索者になった理由を聞いてもいいか? お前たちの夢や目標を聞かせてほしい。まずはソフィアから」
「は、はい! えと、私は、お姉ちゃん――セルマ・クローデルのようになりたいと思っています。与えられたことをやるのではなく、自分のやりたいことを、自分の意思で決めたいです! ま、まだ、それが何かは決まっていませんが、このクランに来て、色んな人と接する機会が増えて、如何に私の知っている世界が狭いかを思い知らされました。だから、私は、目標や夢を見つけるために探索者になりました」
ソフィアについて、一つ疑問に思っていることがある。
彼女はセルマさんの妹だ。
つまり伯爵家の娘ということになる。
それであれば、彼女は何故、貴族院に行っていないんだろうか。
貴族院とは十歳から十五歳の貴族の子どもに対して、教育を施す場所だ。
セルマさんも貴族院を卒業してから探索者になっていたはず。
セルマさん以外の貴族で探索者をやっている人たちも、全員貴族院を卒業してから探索者になっている。
貴族が探索者をやっている理由は、大迷宮の到達階層が、貴族社会でもステータスになるからみたいだ。
詳しいことはわからないけど。
クローデル家も何やら複雑な事情を持っていそうだな。
「うん、いいと思うぞ。探索者、それもクランに所属しているとなれば、様々なことが学べるはずだ。俺も協力するから、一緒にソフィアの夢を探していこう」
「は、はい……。よ、よろしく、お願いします……」
ソフィアの顔が真っ赤になる。
ちょっとカッコつけすぎたかな……。
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