51.教育方針
この記事による今後の影響について思考を巡らせていると、ドアからノック音が聞こえてきて、現実に引き戻される。
(もうそんな時間か)
時間を確認すると八時三十分を回っていた。
ドアを開けると予想通りセルマさんがドアの前に立っている。
「おはよう、オルン。準備はできているか?」
「おはよう、セルマさん。うん、大丈夫。いつでも行けるよ」
「そうか、では早速行くとしよう」
「わかった。ちょっとだけ待って」
手に持っていた新聞を収納魔導具に入れて、クランのロングコートを羽織ってから部屋を出る。
◇
「新聞を購読しているのか?」
探索管理部へと向かう途中、セルマさんが質問してきた。
「まぁね。やっぱり情報は大切だから」
「それには同感だ。やはり読んでいる新聞はアドリアーノ社のものか?」
アドリアーノとは、勇者パーティの情報を事実上独占している新聞出版社の名前だ。
「いや、三社全部に目を通しているよ。それにアドリアーノは基本的に勇者パーティのことをメインに取り扱っている。俺が勇者パーティにいたときは、俺が取材に応じていたから、当事者である俺が読んでもほとんど得られるものは無かったよ」
勇者パーティにいたときも、一応目は通していたけど、重要視はしていなかった。
「そう言えばそうだったな。お前は取材を受ける立場だったな。なぁ、アドリアーノの記事の真偽はどれくらいなんだ?」
「流石にそれは言えないかな」
「そうか、ダメ元で聞いてみただけだ。気にしないでくれ。あと、新聞は外に買いに行っているのか? うちでは希望者の部屋に指定の出版社の新聞が毎朝届くように手配できるぞ?」
「え、そうなの? それはすごくありがたい」
「共有のバックナンバーはあるが、個人的にスクラップブックを作りたいって人もいるからな。毎月の給料から代金は天引きさせてもらうが、手配しておこうか?」
「お願いしていい? 希望する出版社はアドリアーノとブランカ、カルテーリの三社で」
「了解した。では、部屋の扉の隣に設置しているポストに、新聞を投函するようにしておく。手配に数日かかるかもしれないが、それまでは今まで通り自分で買ってほしい」
「それくらい何の問題も無い。ありがとう」
◇
そして目的地である探索管理部の区画に着いた。
そこは色々な書類があって、あまり整理整頓されているとは言えない。
まぁ、毎日のように相当な量の情報が集まっている場所のはずだ。
散らかっているのは、仕方ない部分もあるのかな?
そこらへんにあった書類をちらっと見てみると、内容は大したものではなかった。
重要な書類はきちんと保管されているのかもしれない。
奥へすたすたと歩くセルマさんに付いて行く。
その途中ですれ違った団員と挨拶をしていく。
そしてようやくエステラさんの元へと着いた。
「エステラ、おはよう」
「んにゃ? あぁ、セルマっち、おっはよ~。新人君もおはよ~」
「おはようございます」
「相変わらず、すぐに散らかるな。お前がだらしないからだぞ?」
セルマさんが苦言を呈する。
すぐに、ってことは、定期的に片付けてこの散らかり様ということか。
「耳が痛いにゃ~」
エステラさんはちゃんと響いているのかわからない、微妙な反応をする。
「全く……」
セルマさんが呆れたようにため息をつく。
どうやら、いつものやり取りのようだ。
「にゃはは~。さて、新人君、早速来てくれてありがとね♪ いきなりだけど、今日から教育をお願いしてもいいかな?」
「それは構いませんが、教育の方針とかはありますか?」
「ん? 無いよ?」
「え……」
「新人君に――ん~、教育係に任命するのに新人君じゃダメか。んじゃ、オルっちって呼ぶね」
「はあ、構いませんけど。それで、教育方針が無いとは?」
「オルっちに全部お任せ! 探索者として一人前にしてあげて。半年後にパーティメンバーだけで中層を攻略できるくらいに鍛えてくれたら、文句なし! あの子たちをオルっち色に染めちゃいなさいな!」
(ハードルが高すぎる……。まぁ、予想通りの面子ならどうにかなるか?)
頭の中で皮算用をしていると、エステラさんの雰囲気が真面目なものに変わる。
「こほん、冗談はここまでにして。……オルっちが勇者パーティ時代に、探索者としてだけではなく、パーティ運営をやっていたことは知っている。そういうのも教えてやってほしいのさ。あの子たちには次の代の中心を担ってほしいから。無茶なお願いをしている自覚はあるけど、任せたよ、曙光のマルチタレント!」
ま、できるだけのことはやってみるか。
まずは打ち解けるところから始めないといけないが、上手くできるだろうか……。
でも、これは本人たちの希望でもあるみたいだから、大丈夫、なのかな?
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