42.質疑応答
「んで、オルンよ。朝に質問した答え、ここなら教えてくれるだろ?」
ルクレとの掛け合いが終わったウィルクスさんが、俺に声を掛けてきた。
ここなら話して問題ないだろ。
「あぁ、もちろん。黒竜を倒せたのは、二つのオリジナル魔術によるところが大きいかな。オリジナル魔術だから詳細は省くけど、一つ目が【瞬間的能力超上昇】という魔術。効果は1秒未満というほんの一瞬の時間だけ、装備や魔術の性能とか威力を、最大で100倍まで引き上げることができるというものだ」
「え? 百倍!? すごい……。ねぇ、セルマはできる?」
レインさんが感心しながら、セルマさんに質問する。
レインさんは見た目があれだけど、話し方とかは年上の女性って感じだ。
これ言ったら失礼だけど、ギャップがすごい。
「……いや、私には無理だな。どうすればできるのか、見当もつかない」
セルマさんが驚きの表情で、呟くように言った。
例のバグは偶然見つけたものだ。
普通に探しても見つからない。
だから、そのバグを利用したチートに思い至ることは、まずないと思う。
「続いて二つ目が、普通の支援魔術よりも身体能力を向上させることができる魔術。こっちは段階的に引き上げることができるから、名称は特に付けていない」
厳密には魔術じゃないけど、第三者目線で見れば、大幅な強化をしているようにしか見えないし、魔術ということにする。
こっちも不具合を利用したズルだから、詳細は語れないわけだしな。
「普通の支援魔術よりも、と言うとどれくらい?」
ルクレが質問してくる。
「黒竜と戦っていた時は、約三十二倍能力を引き上げていたな」
「なにそれ、ズルい! そんだけ能力上がれば、勇者パーティが九十四層に行けたのも納得だよ! というか、なんでそれで実力不足とか言われてるの?」
ルクレだけが声を上げたけど、他の三人も口に出さないだけで、ルクレと同じことを思っているみたいだ。
まぁ、確かにズルだからね……。
「確かにすごい効果だけど、これにはデメリットがある。まず、これは俺自身にしか発動できない。仲間の能力を引き上げることはできないんだ。だから勇者パーティ時代もメンバーたちは俺の普通の支援魔術しか受けられていない。俺の支援魔術の上昇値は約二倍だから、実力不足と言われるのも仕方ないことだと思ってる。それとこれは、能力を引き上げるのに相当量の術式構築が必要になるから、長期戦にはあまり向かない。深層探索でも常にこの状態で戦えるわけじゃない。黒竜戦の時のようなバフは、まずやらないかな。必要に迫られたらやるけど、頭めっちゃ痛くなるし……」
黒竜戦で【全能力上昇】の【五重掛け】を使っていたのは、あくまで短期決戦に持ち込もうとしていたから。
想定していたよりも長い戦闘時間になっちゃったけど、迷宮探索は何時間も迷宮に潜ることになる。
迷宮探索中、常に戦闘があるわけでは無いけど、トータルの戦闘時間は黒竜戦より確実に長くなる。
今後の迷宮探索では一種類や二種類の【重ね掛け】は使うけど、六種類の【重ね掛け】はしないと思う。
「なるほどな。勇者パーティが九十四層に行けた理由がわかったな。その能力上昇が無くても、【瞬間的能力超上昇】だっけ? その魔術だけでも相当なアドバンテージだ。セルマの姉御があそこまでオルンを絶賛していた理由が、ようやくわかったぜ」
「あぁ、そこまでシビアな魔術だと思っていなかったが、百倍もの恩恵が得られるとも思っていなかった。本当にすごい魔術だ」
「【瞬間的能力超上昇】の方もあくまで最大で百倍ってだけで、毎回百倍にしているわけじゃないよ。百倍の術式構築は脳への負担が大きいから」
「他に質問はある? 可能な限り答えていくつもりだけど」
「それじゃあ、私から質問いいかな?」
他に質問があるか聞いたところ、レインさんが声を発した。
「もちろん」
「オルン君は勇者パーティにいたとき付与術士だったんだよね? 付与術士と前衛アタッカー以外にも、できるポジションはあるの?」
「Bランク上位からA下位ランクくらいのレベルでいいなら、全部できる」
「へぇ、すごいね。それなら探索中も色んなことができるってことだね!」
「ただ、俺は何故か上級以上の魔術が使えないから、後衛アタッカーだけは本当にレベルが低くなると思う」
「え、どうして? オリジナル魔術が開発できるくらい魔術に精通しているなら、上級魔術だって発動できるでしょ?」
俺は魔術についてかなり深く理解しているつもりだ。
本来であれば、特級だろうと発動できてもおかしくないのに、何故か発動できないんだ。
その原因が全くわからない。
まぁ、【瞬間的能力超上昇】や【増幅連鎖】があるから、高威力の魔術自体は無理やりだけど使える。
「原因がわかんないんだよ。何故か使えない」
「そうなんだ。いつか使えるようになったらいいね!」
「そうだな。今のところ使えなくても不便ないからいいけど、いつかは使えるようになりたい」
「はーい! ボクからも質問いい?」
話が途切れたタイミングで、今度はルクレが質問してきた。
「いいよ」
「異能は持ってるの~?」
「うん、持ってるよ。【魔力収束】っていうやつ。効果はそのまんま、周囲の魔力を一点に収束させること」
ルクレの質問に答えながら手を自分の胸の高さまで上げる。
手のひらを上に向けてから、魔力を収束させる。
周囲の魔力が手のひらに集まってきて、黒い球体を形作る。
「おぉ! すごい!」
「……それってどんな使い方ができるんだ?」
黒い球体を見たウィルクスさんが質問してくる。
「基本的にはこれで空中に即席の足場を作ったり、この塊を拡散させた衝撃を利用して攻撃したりしている。あとは魔術に組み込んで使ったり、かな」
「ほぉ、結構汎用性あるのな。んじゃ、これで異能持ちは三人になったわけか」
異能を持っている人はかなり少ない。
トップクラスの探索者でも持っている人はあまりいない。
「ウィルクスさんも異能を持っているの?」
「ウィルでいいぜ。あと、さん付けも要らない。んで、質問の答えだけどノーだ。持っているのはセルマの姉御とルクレだな」
二人の方へ視線を向ける。
異能はトップシークレットだ。
秘密にしている人が多い。《夜天の銀兎》の情報を集めていても、二人が異能を持っているという情報はなかった。
教えてくれるなら聞くが、無理やり聞き出すことはしない。
「ふっふっふー、教えてあげよう! ボクの異能は【魔力追跡】だ! 効果は地味なんだけどねー。魔法や魔術の残滓が追えて、発射地点や発動した者が、どこなのかが分かるんだ。ね? 地味でしょ?」
「いやいや……。凄い有用だろ」
迷宮探索時に魔法が飛んできても、どこから撃ってきているか分からないことが結構ある。
魔法は必ずしも魔獣の近くから撃ち出されるものじゃない。
例えば魔獣から俺たちを挟んだ反対側から、魔法で攻撃してくるケースもある。
そんな時にルクレの異能があれば、二撃目が撃たれる前に対処することもできる。
術者を探す手間が省けるというのは、精神的にかなり楽になるはずだ。
「ありがと。でも、セルマさんの異能の方がすごいよ? ね! セルマさん?」
「ハードルを上げないでくれ……。私の異能は【精神感応】だ。私と任意の人とで目に見えないパスのようなものを繋いで、声を発することなく意思疎通が図れる、というものになる」
え、なにそれ……。
俺が勇者パーティ時代に一番欲しかったもの、それが離れていても会話ができたり意思疎通ができたりする物だ。
当然、そんなものは市場に出回っていないし、スポンサー経由で色んなところを調査してもらったけど、結局見つけることはできなかった。
この異能が迷宮探索において、どれだけ優秀なものかは言わなくてもわかるでしょ。
いや、日常生活でもとんでもなく役に立つけどさ。
例えば戦闘。
迷宮の戦闘は連携が重要になる。
上級の探索者パーティであれば、慣れや少しの声掛けで連携ができるが、それでも完璧な意思の疎通を毎回できるわけではない。
戦闘中、前衛と後衛の距離が離れることもあるし、そうなると誤射することもあり得る。
それを防げるセルマさんの異能は、迷宮探索における効率や生存率の上昇に直結する非常に優秀な異能だ。
俺が知る異能の中で、【精神感応】は迷宮探索の有用さという点だけで見れば、群を抜いて一番いい。
まぁ、異能は全部優秀だし、活躍できる場は確実に存在する。
「それって、思っていることが全部筒抜けになるの?」
「いや、感覚的なもので説明しづらいのだが、相手に伝えたいと念じないと、声は届かない。だから全部が聞こえるわけではない」
なるほど、考えていることが全部伝わらないのは、正直ありがたい。
他人には聞かせたくない心の声ってものは、誰しもあるもんな。
「距離に制限は?」
「ある。私を中心に半径数キロと言ったところだ」
かなり広いな。
日常生活では多少不便する距離かもしれないけど、迷宮探索でパーティメンバーが数百メートルも離れることはほとんどない。
つまり、迷宮探索に関して言えば、距離は気にしなくても大丈夫か。
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