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勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第十章

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334.【sideキョクトウ】他の戦域

  ―キョクトウ西部:交易都市ツラナミ沖―

 

 蒼い海上では、キョクトウ軍とルダイン連邦軍の船隊が激しく砲火を交わしていた。


 炸裂する魔導砲弾が波間を穿ち、爆炎と蒸気が入り混じる中、キョクトウ軍の防衛線は寸分の乱れもなく保たれている。


 その中に、カティーナとヒューイの姿があった。

 二人は最前線の軍船に乗り込み、指揮を執る武官を補佐している。


 ヒューイは遠距離から魔導兵器の照準を誘導し、カティーナは防壁魔導具を展開して敵の主砲を受け止めた。


 炸裂と同時に波が砕け、光の壁が水柱を弾き飛ばす。


 キョクトウ側の被害は最小限に抑えられていた。


「……やっぱり、おかしい」


 カティーナが小さく呟いた。


 戦況は明らかにキョクトウ側が優勢だ。

 軍船の数も、兵装も、士気もこちらが上。


 それに、ツラナミ沖の潮流は複雑で、外海からの侵攻には不向きなはずだった。

 連邦がそれを知らないとは考えにくい。


 ならば、なぜこの規模で攻めてきたのか――。


 まるで、敗北を前提にした陽動のようだ。


 そんな考えが脳裏を掠め、カティーナは無意識に唇を噛んだ。

 海の向こうで立ち上る黒煙が、彼女の胸中の不安をそのまま映しているようだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

  ―キョクトウ南部:首都ハネミヤ近郊の海岸線―

 

 白波が寄せる砂浜に、ルダイン連邦の兵士たちが無数に倒れていた。

 その場で立っている連邦兵は、指揮官と思しき一人のみ。

 目の前の光景を信じられない光景を前に、彼は震える声で呟いた。


「あ、あり得ない……。小娘と……犬一匹に……連邦の精鋭部隊が、全滅だと……?」


「犬って言われてるよ、サクラモチ」


 フウカが肩越しに声を掛ける。

 その頭上には、淡い桜色の光を帯びた小さな狐が浮かんでいた。


「犬でもねぇし、サクラモチでもねぇ!」


「サクラモチ、わがまま」


「誰のせいだと思ってんだ!」


 二人の軽口が波音に溶ける。


 しかしその光景を見た指揮官のこめかみが怒りに震えた。


「ふ、ふざけやがって……!」


 冷たい殺気が空気を裂く。


 目の前の少女――フウカの眼差しが、氷のように静まり返った。


「ふざけてるのは、どっち?」


 淡々とした声。

 だがその奥には、確かな怒りと殺意が潜んでいた。


「……っ! こうなれば仕方ない! 全員、例の――〝強化血清〟を服用しろ!」


 気圧された指揮官が、怒鳴るように命じた。


 地に伏していた兵士たちがふらつきながらも収納魔導具から瓶を取り出す。

 瓶の中にはどろりとした赤い液体が入っていた。


 それを一斉に飲み干した途端、兵たちは苦しげに喉を押さえ、呻き声を上げた。


 皮膚の下を黒い筋が這い、肩や腕からは骨のような棘が突き出した。

 血肉が焼け爛れる音とともに、兵士たちの身体は常人の数倍にまで膨れ上がる。


 その姿は、理性を喰われた鬼を模した怪物だった。


「ひでぇな……。無理やり鬼にするなんて」


 サクラモチが低く呟く。


「でも、成ったのが私の前で良かった」


 フウカが静かに刀を抜いた。

 刀身が薄桜色に染まり、刃から妖力が桜吹雪のように舞い散る。

 彼女の光彩にも、桜の花が咲いた。


「サクラモチ。次は――本当の姿(・・・・)で戦って。私と一緒に戦えることを、証明して」


「……ったく、生意気な小娘だ」


 呟きとともに、サクラモチの身体が淡い光に包まれる。

 その体が倍以上に膨れ上がり、丸く結ばれていた尻尾が九つに分かれた。

 桜霞を纏う九尾の狐が姿を現す。


「全員、祓う。サクラモチは私のサポート」


「了解だ。……できるだけ優しく、だな?」


 フウカは無言で頷いた。


 海風が桜の香を運び、光の花弁が戦場を覆う。


 刀閃と妖力の波が交わるたびに、〝鬼〟たちの咆哮は苦悶から静寂へと変わっていった――。

 

  ◇ ◇ ◇

 

  ―キョクトウ北部:農業都市ホナエ近郊の森林地帯―

 

 静寂を切り裂くように、木々の間を抜けて進軍する連邦の別働部隊があった。

 彼らの目的は霊山への到達。


 湿った土を踏みしめながら進んでいたその一人が、突如として悲鳴を上げる。


「――なにっ!?」


 次の瞬間、兵士の身体が逆さまに吊り上げられた。

 足に絡みついた細い糸が、獣用の罠のように枝へと繋がっている。


 仲間たちが慌てて周囲を見回すが、どこにも敵の姿はない。


 兵士たちの死角を縫うように、吊るされた兵士に接近する人影があった。


「悪ぃが、ここから先は進入禁止だ」


 軽く拳を振り抜いた瞬間、吊るされた兵士は白目を剥いて気を失った。


 現れたのは、ハルトだった。


「俺の眼と、テルシェのクモの巣から逃れられると思うなよ」


 得意げに口角を上げるハルト。


「……人をクモ呼ばわりしないで頂戴」


 テルシェがハルトに気を取られていた兵士たちを無力化しながら苦言を呈する。


 指先には光る糸――【魔糸操作】の異能で作られた罠が張り巡らされている。


 ハルトはその光景に軽く笑い、倒れた兵士を木の根元にそっと降ろした。


 命を奪う必要などない。

 ただ動きを止めれば、それで十分だった。


 連邦軍の別働部隊の動きを察知していたハルトは、ツラナミで艦隊戦の指揮を整えたあと、南をフウカに任せ、自らはテルシェと少数の兵を率いて北へと向かっていた。


「こっちはあと二、三小隊ってところか」


「えぇ。森の奥にも糸を張っておいたから、もうすぐ掛かるわ」


「助かる。……にしても、よくこんな広範囲を管理できるな」


「これくらいできなければ、シオン様の侍女は務まらないわ」


 軽口を交わしながら、二人は木々の奥へと進む。

 やがて遠くから、枝を踏み割る足音と鎧の擦れる音が聞こえてきた。


 ハルトは静かに拳を握る。


「――よし。次、行くか!」


「了解。……派手にやりすぎないでね」


 頷き合った瞬間、風がざわめき、森が動いた。


 音もなく張り巡らされた魔糸が光を反射し、罠に掛かった兵たちが次々と宙へと舞い上がる。


 その中心で、ハルトの拳が雷鳴のように響いた。


 木々の間に残ったのは、糸に絡まったまま気絶した兵士たちと、静かな森の音だけだった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただけると嬉しいです。


1点お知らせです。

先日、本作のコミカライズ版第19巻が発売されました!

ルーナの《夜天の銀兎》加入やオリヴァーとの和解など、本巻も見どころ満載の1冊となっていますので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです。

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