表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第十章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

321/325

319.【sideシオン】露天温泉② 女湯

 オルンたちのバカ騒ぎは、女湯の方にまで届いていた。


「……なんだか、あっち騒がしいね」


 シオンが口元に小さな笑みを浮かべる。

 湯気に包まれた白い肌はほんのりと紅潮し、短くまとめられている銀色の髪が月の光を受けて淡く輝いていた。


 湯に身を沈め、ふっと息を吐く。

 その姿は、普段の涼やかな印象を火照りによって和らげているように見えた。


「どうせハルトが騒いでるだけ」


 フウカが普段は見せないような、とろけるような表情で呟く。

 湯の温かさに身を委ねて、刀を握っているときの鋭さはすっかり影を潜めていた。


「ふふふ。楽しそうで良いじゃないですか」


 ルーナも湯に浸かりながら、頬を緩める。

 どこか羨ましそうに、けれど同時に優しげに微笑んでいた。


 男湯とは違って、まったりとした雰囲気の中で三人が湯船に浸かっていると、フウカの頭に巻かれていたタオルが、ふいにずるりと緩んだ。


 するりと滑り落ちかけた布を、ルーナが素早く手に取る。


 そのままフウカの頭に巻き直した。


「もう、せっかくきれいな髪なのですから、きちんとまとめておかないとダメですよ」


 湯気に濡れた長い濡羽色の髪を器用に纏め直しながら、ルーナが微笑む。


「ありがと」


 フウカも素直に礼を返した。


 湯に浸かりながらこうして髪を任せる姿は、どこか幼さを感じさせる。


 その様子を眺めていたシオンが、ふと呟いた。


「二人とも、髪長いよね」


 ルーナが自身の藍色の髪を指先でつまみながら微笑む。


「ええ、そうですね」


 穏やかな声で肯定する。


「ルーナは、ずっと長いの?」


 シオンが小首をかしげる。


「はい。小さいころから、だいたいこれくらいの長さでしたね」


 ルーナは湯面に揺れる自分の髪を見やり、懐かしそうに目を細めた。


「そうなんだ。そういえば、フウカは昔短くしてたよね」


 シオンが、出会ったばかりの数年前のフウカの姿を思い出しながら口にした。


「うん。刀を振るのに邪魔だったから」


 フウカはあっけらかんと答える。


「でも、シオンと出会ったときは、願掛けも兼ねて伸ばし始めてた。キョクトウを取り戻すまでは切らないって、自分で決めてたから」


「そう、だったんですね」


 ルーナがフウカの濡羽色の髪を見やりながら、静かに相槌を打つ。

 フウカの髪に込められた思いを知り、ほんの少しだけその姿が違って見えた。


「では、もう切ってしまうのですか?」


 湯面に映る月を見つめながら、ルーナが問いかける。


「……そのつもりはないけど、気が向いたら切るかも。湯浴みのとき、こうやって纏めるの面倒だし」


 フウカは肩まで湯に浸かり直し、長い髪を湯気に漂わせながら答えた。


 そして今度は、シオンへと視線を向ける。


「もしかしてシオン、髪伸ばすつもりなの?」


「んー……どうしようか迷ってる」


 シオンは短い銀髪の毛先を指先で弄びながら、曖昧に答える。


「長い髪も似合うと思いますよ。シオンさんの髪、すごくきれいですから」


 ルーナが真っ直ぐな声で言うと、シオンの白い頬が湯の熱と相まって赤みを増した。


「そ、そうかな……」


 視線を逸らし、照れ隠しのように小さな声で返す。


「私もシオンの長い髪、見てみたいかも。オルンも喜ぶんじゃない?」


 フウカがさらりと名前を出す。


「えっ……!」


 シオンはさらに赤くなり、湯気に紛れるほど慌てて顔を背けた。


 彼女が髪を伸ばそうか悩んでいる理由に気づいたルーナが納得したように口を開く。


「なるほど、そういうことですか。ですが、オルンさんなら、どちらでも気にしないと思いますよ?」


 ルーナが柔らかな声で言葉を添える。


「髪の長さなんて関係なく、オルンさんがシオンさんのことを本当に大切にしていることが、こちらまで伝わってきますから」


「……っ」


 シオンは耳まで赤くし、けれどその表情には確かな嬉しさがにじんでいた。


「明らかにシオンさんに向ける視線と、他のみんなに向ける視線は違いますからね」


 ルーナが穏やかに補足すると、シオンは湯の中で身じろぎしながら、ますます俯いてしまう。


「……あんまり、からかわないでよ」


 それでも口元に浮かぶ笑みは隠せなかった。


 自然と話題はシオンとオルンの関係に移っていく。


「そういえば」


 不意にフウカが口を開いた。


「オルンとデートとかしてるの?」


 普段のフウカらしからぬ問いに、シオンは目を瞬かせて驚く。


 小さく息を吐いてから、頬を緩める。


「二人の時間は作ってるよ。そんなに多くはないけどね。でも珍しいね、フウカがこんなこと聞いてくるなんて……」


「そろそろ月見の時期だから。オルンを誘ってみれば? 月見デートするなら手伝ってあげる」


「……本当にどうしたの? 変なもの食べた?」


「そんなわけない。失礼なこと言わないで」


 フウカはむっとした顔を見せたが、すぐに口元を緩めた。


「……月見といえば月見団子でしょ? 食べられる機会なんてそうそうないし、逃したらもったいない」


「ああ、そういうこと」


 シオンが呆れ半分に笑う。


「ふふふっ。フウカさんは花より団子ですね」


 ルーナも一緒に笑う。


「……? バカにされてる?」


 フウカがコテンと首をかしげる。


「ううん。フウカらしいなって思っただけ」


 シオンは楽しげに笑った。


 湯気の中で、どこか和やかな雰囲気のまま会話を続ける。


「そう言えば、ルーナはどうなの? 意中の相手とかいたりするの?」


「えっ、わたしですか?」


 問いかけにルーナは小さく瞬きをした。


 すぐに答えられず、湯面に視線を落としてしばらく考える。


 けれど、やがて静かに首を振った。


「残念ながら、いませんね」


 ルーナは素直に答えた。


「そっか。……まぁ、無理に探すものでもないと思うし、良い人と巡り合えるといいね」


「そうですね」


「そんなことより、どうするの? オルンをデートに誘うの?」


 再びフウカが問いかけてくる。


「えっ、う、うん……。じゃあ、誘って、みようかな」


 シオンが赤くなった頬を隠すように視線を逸らす。


「ふふふっ。フウカさんは月見団子が食べたくて仕方ないみたいですね。それではフウカさん、私たちは私たちで、お月見をしましょうか」


「うん。楽しみ」


 ルーナの声に、三人の笑みが重なる。


 湯けむりに包まれた女湯には、夜の月明かりと笑い声がやわらかく溶けていった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物語の進行としては致し方ないのかもしれませんが、まったりの時間が長く少しじれったい感じがします。閑話的要素は1話挟む程度にすると骨休めって感じですか。この後の展開も楽しみにしています。
あまり描かれていないと思うのですが、シオンとオルンの関係って周囲の人はどこまで把握しているんですかね?フウカとルーナは付き合っていると知っているみたいですがみんな知っている感じですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ