312.【sideルダイン連邦】東の大迷宮
四聖暦六三〇年九月。
キョクトウと海を隔てた隣国――ルダイン連邦の首都は、熱狂に包まれていた。
それは、東の大迷宮が攻略されたためだ。
その偉業を祝う式典は荘厳にして華やかであり、広場を埋め尽くした民衆は歓声を惜しまなかった。
式典は滞りなく進み、最後に連邦議長グンナルの演説が始まる。
壇上に立った彼は、人類の最優先課題である大迷宮攻略を成し遂げた五人の若き探索者たちに、深い敬意を示した。
――攻略を達成したのは、いずれも成人を迎えたばかりの十五歳の少年少女。
新たな伝説の始まりに、民衆は喝采を送る。
続いて、グンナルは世界情勢に言及した。
東の大迷宮を制したルダイン連邦は、次なる標的を抱える南のノヒタント王国や北のジュノエ共和国を支援すべきだと。
大迷宮攻略は人類共通の課題であり、国の垣根を越えて力を合わせねばならない――そう高らかに説く。
だが彼は、さらに声を張り上げた。
「……しかし、大迷宮に匹敵する脅威が、我らの隣で芽吹いている!」
人々がざわめく。
議長は言葉を区切り、重々しく告げた。
「隣国キョクトウが、――《魔王》の手に落ちた」
その言葉に広場はどよめいた。
民衆も噂程度には耳にしていたのだ。
実際、先日から連邦とキョクトウの海路には制限が掛けられていた。
それが国の頂点に立つ議長の口から語られたことで、現実味を帯びる。
隣国が《魔王》に支配された――それを脅威と受け止め、顔を曇らせる者も少なくない。
「情報によれば、《魔王》オルンが、キョクトウ内に涅き怪物を解き放ち、武力を以てかの国を支配下に置いたという。ならば、かつてからの友好国を救うのは誰か。――我らルダイン連邦である!」
その声に、広場は怒涛のような歓声で応えた。
熱狂はさらに膨れ上がり、国民の心に『キョクトウ奪還』という大義名分が深く刻まれていく。
後日。
議会においても、グンナルの演説は追い風となった。
『友好国を救うため』という名目のもと、ルダイン連邦はキョクトウへの武力派兵を正式に可決した。
――だが、それは悪意によって歪められた事実であった。
議長グンナル――その正体は、【シクラメン教団:第二席】《雷帝》と呼ばれる、邪神に与する悪魔だ。
ゆえに彼は知っていた。
キョクトウを混乱に陥れたのが《魔王》オルンではなく、【シクラメン教団:第一席】《導者》フィリーであることを。
それでも彼は真実を覆い隠し、悪魔と連邦の利を一致させるため、虚構を大義としたのだった――。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次話もお読みいただけると嬉しいです。






