表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第九章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/323

302.約束の結実

 

  ◇

 

 神楽鈴の音が、再び静かに境内に響いた。


 篝火の炎がわずかに揺れ、まるでそれに呼応するかのように、風がそっと櫓の上を撫でていく。


 舞が、始まった。


 二人の少女は、息を合わせるように一歩、静かに足を踏み出す。


 白と緋の巫女衣装が揺れ、灯籠の明かりの中で幻想的な軌跡を描く。


 先に動き出したのはナギサだった。


 手にした神楽鈴を高く掲げ、音を響かせながら、丁寧に舞を踏む。


 その所作は慎ましくも端正で、心を鎮めるような静けさを帯びていた。


 続いてフウカが扇を広げる。


 一対の扇は、表に淡い桜霞の意匠が描かれ、動きに合わせて柔らかく光を反射する。


 彼女の動きはナギサと対照的に、しなやかで流れるようだった。


 片手を翻すたびに、扇が夜の空気を裂き、舞の軌跡を美しくなぞっていく。


 互いが向かい合うように旋回し、そのまま背中合わせに立つ。


 ナギサが鈴を振れば、フウカの扇が広がる。


 鈴音が祓いを、扇の流れが祝福を、そう感じさせるような呼吸が合っている。


 その流れの中で、ふとフウカが顔を上げる。


 灯籠の光に照らされながら、ほんの一瞬、見えた彼女の表情には――満面の笑みが浮かんでいた。


 それを見つめていたハルトさんが、わずかに口元を綻ばせる。


「……やっと、笑ってくれたな」


 小さな声だったが、それは確かに、彼女の兄のような存在からの、心からの安堵だった。


 やがて、舞は終盤へと向かう。


 フウカの扇がひときわ大きく翻り、桜の花びらのような魔力が宙を舞った。


 それに合わせてナギサの鈴がひと際強く鳴らされる。


 二人はゆっくりと歩み寄り、重なるように並ぶ。


 そして最後の一歩を踏み、頭を垂れた。


 ――舞の終わり。


 だが、そこでフウカは静かに身を起こし、もう一歩だけ前へ出る。


 彼女の手には、すでに扇はなかった。


 代わりに、手にあったのは――薄桜色の刀身を輝かせている妖刀、白櫻だった。


 篝火の明かりを受けて、白く染まった刀身が、静かに揺れる空気を裂く。


 観衆の誰もが息を呑んで、その姿を見つめていた。


 フウカは、ゆっくりと構えを取る。


 瞳は真っ直ぐに、夜空を見つめていた。


「……この国が、また前に進めるように」


 誰に向けるでもない、けれど確かな祈りのような声。


 そして、白櫻が振るわれた。


 風を斬り裂く鋭い音が、夜空に響く。


 桜霞のような妖気が、刀身からほのかに舞い散った。


 振り抜かれた白櫻が、やがてその刀身を静かに納める。


 音もなく鞘に納まったとき、風が再び境内を吹き抜けた。


 そして、静かな拍手が――一人、また一人と鳴り始める。


 今度のそれは、戸惑いではなかった。


 敬意と、感謝の音だった。


 フウカは、それを一身に受けながら、ただ静かに頭を下げた。

 

  ◇

 

 拍手の余韻が、静かに夜空に消えていく。


 舞は終わった。

 人々は誰からともなく、天霊神社の参道をゆっくりと下り始める。


 普段は足を踏み入れることのできないこの聖域――霊山の中腹にあるこの神社が、霊舞祭の最終日だけ民に開かれる。


 だからこそ、この夜の訪れは特別だった。


 静かな感動と敬意を胸に、誰もが言葉少なに帰路についていく。


 俺たちは、神社の裏手にある舞台袖でフウカの到着を待っていた。


 やがて、白い装束を脱ぎ、肩に羽織を掛けた彼女が、狐面を片手に持って歩いてくる。


 その表情は、どこか照れくさそうで、けれど清々しかった。


 俺たちが駆け寄ると、彼女は一歩だけ立ち止まり、小さく口元をほころばせた。


「お疲れ様、フウカ」


 俺がそう言うと、シオンが目を潤ませたまま、真っすぐ彼女に向き合った。


「……すごく綺麗だった。舞も、宣言も、全部……感動したよ」


 シオンの言葉は、まっすぐだった。


「ありがと。――そんなことより、りんご飴は?」


 けれど、それに返ってきたフウカの一言は、どこかズレていて、でも、実に彼女らしかった。


 ぽかんとするシオン。


 俺たちは全員吹き出した。


「……変わんねぇな、お前は」


 そう言ったのは、ハルトさんだった。


 その声には、呆れではなく、どこか安堵と愛しさが混じっていた。


「櫓の上からハルトが食べてたの見てたから。ハルトだけ先に食べるなんてズルい」


 むくれた表情で糾弾するフウカ。


「フウカさんの分もちゃんと買っていますよ」


 そう言いながら、ルーナがりんご飴を差し出す。


「ありがと」


 フウカが目を輝かせながらそれを受け取る。


 俺は改めて思った。 


 本当に、変わらない。


 でも、確かに――何かが、報われたのだと。


 


 石段を下りる俺たちの背を、夜風がそっと撫でていった。


 提灯の灯りが並ぶ参道に、夏の夜のざわめきが戻っていく。


 三本目のりんご飴を舐めていたフウカが、ふいに立ち止まった。


「……やっぱり、夏の風は気持ちいい」


 顔を上げて夜空を仰ぐその横顔は、どこか晴れやかだった。


「夏が、好きなのか?」


 俺が何気なくそう尋ねると、フウカは少しだけ考える素振りを見せてから、


「…………ふつう」


 と、気の抜けたように答えた。


 俺が肩をすくめて笑いかけると、彼女はそのまま小さく息を吸って、


「でも、また(・・)……好きになったかも」


 そう呟いて、前を向いた。


 灯りの向こうへ、ゆっくりと歩き出す。


 何が『また』なのか、俺にはわからなかったけれど、ただ、今彼女が笑っていることが嬉しかった。


 蝉の声もない静かな夜に、風だけがふわりと通り抜けた――。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第九章はあと1話残っていますが、次話は第十章へとつながる要素が中心になるので、ここで一区切りと言えるかもしれません。

次話もお読みいただけると嬉しいです。



ここで2点告知があります!


1点目

先日コミカライズ版16巻が発売されました!

武術大会のクライマックスでもあるオルンvs.オリヴァーの戦いがよねぞう先生の素敵な作画で描かれておりますので、ぜひお手に取ってご覧ください!


2点目

アニメ放送日が、2026年1月に決定しました!

あと4か月もすれば放送が始まると考えると、私自身まだ実感が湧きません。

それでも、一視聴者として皆さんと一緒に楽しめればと思っています。


今後も続報があり次第お知らせいたしますので、どうぞ楽しみにお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ