300.出店巡り
◇
通りに出るとすぐに、目当ての屋台は見つかった。
屋台の親父さんに頼んで、りんご飴を奉納の舞が始まる頃までに用意してもらえるようお願いをすると、快く引き受けてくれた。
「それじゃあ改めて、俺たちも楽しむか」
そう口にした瞬間から、足取りが自然と軽くなった気がした。
まず立ち寄ったのは、くじ引きの屋台だった。
大きな木箱の中には、色とりどりの玉が詰められており、景品にはぬいぐるみやアクセサリー、何やら妙に豪華な魔導具まで並んでいる。
その一つにオリヴァーが目を止めた。
「あんな金ピカの指輪、絶対いらないでしょ」
シオンがくすっと笑いながら突っ込む。
「見た目はアレだけど……使えそうな気はするんだよな」
「そうやって変な魔導具拾ってくるの、昔からだよな」
オリヴァーと一緒にパーティを組んでいた時、彼が『どんな用途があるんだ?』と問いたくなるような魔導具をいくつも買っていたことを思い出した。
「じゃあ、誰が一番いいのを当てられるか勝負しようか?」
「面白そうですね」
「じゃあ、順番はどうする?」
「せーので一斉に引く?」
シオンの提案に全員が頷き、木箱の前に並んだ。
それぞれが手を箱の中に差し入れ、目を閉じる。
「せーのっ!」
その掛け声とともに、四人が玉を引き上げる。
「……白」
「白……」
「俺も白だ」
「……赤、引きました」
一拍の静寂を破って、ルーナが引いた玉の色に、皆の視線が集中した。
「本当に引くとは……」
俺が声を漏らすと、屋台の店主も満面の笑みでうなずいた。
「姉ちゃん、やるねぇ! 一等は……これだ!」
勢いよく差し出されたのは、先ほどから目を引いていた〝あの〟金ピカの指輪だった。
「……本当に当たるとは思わなかったです」
ルーナはやや困ったように笑いながら、受け取ったやたら主張の激しい指輪を手のひらに乗せて見つめた。
「どうしましょう……私にはちょっと派手すぎますね」
そう言いながら、ちらりとオリヴァーに目を向けた。
その視線に気づいて、オリヴァーがわずかに眉を上げる。
「……何だ?」
「いえ、私は使わないので。見た目に惹かれてたの、オリヴァーさんでしょう?」
ルーナがややからかうように言うと、オリヴァーは一瞬口を開きかけてから、閉じた。
そのまま、少しだけ視線をそらす。
「……確かに、ちょっと気になってた。けど、そうやって渡されると、何か負けた気がするな」
「いいじゃないですか。素直にもらってください」
ルーナはくすっと笑って、手にした指輪をそっとオリヴァーの手に載せた。
その仕草はさりげないのに、なぜかやけに優しく見えた。
「ありがとう……もらっておく」
オリヴァーがぼそりと呟く。
◇
次に挑戦したのは、射的だ。
的は瓶やら鈴やら、妙に精巧な木彫りの動物などが並び、見た目以上に難しそう。
「……全然落ちてくれない」
シオンが小さく唸った。
三発すべてを当ててもびくともしていない景品をじっと見つめている。
「魔法なら全部撃ち落とせるのに」
「それ言っちゃダメだろ」
俺が苦笑すると、シオンはぶすっと唇を尖らせた。
◇
続いて向かったのは金魚すくい。
俺とシオンはポイを二、三枚すぐに破って沈没。
ルーナも慎重にやっていたが、なかなかコツが掴めない様子だった。
そんな中、オリヴァーが静かに腕を伸ばし――。
「ほいっと!」
あっさり一匹、さらにもう一匹と、静かな手つきで、結局三匹をすくっていた。
「……オリヴァーの意外過ぎる才能だ」
シオンのツッコミに、オリヴァーは少し困ったように目をそらす。
◇
最後に立ち寄ったのは型抜き。
砂糖菓子を慎重に削って、指定の形を綺麗に切り抜くという、見た目以上にシビアな遊びだ。
「うわっ、割れた」
「また割れた」
「……難しいですね、これ」
三者三様に脱落していく中、俺は黙々と型を削り、あっという間に形を切り抜いていた。
「……すご」
「これを初見で成功させるなんて、流石ですね……」
シオンが呆れたように言いながらも、どこか嬉しそうに目を細めた。
ルーナも肩をすくめて微笑む。
「これ、景品もらえるんですよね?」
そう言って型を差し出すと、店主が頷いた。
「あぁ! こっちの好きなの持っていきな」
並べられた景品の中に、ひときわ目を引くモノがあった。
それは透き通るような青白い石で象られた、小さな雪の結晶の飾りだ。
俺は迷わずそれを選んだ。
「では、これを頂きます」
「ねぇ、何貰ったの?」
シオンが少しだけ首を傾げて覗き込んでくる。
「……これ」
俺は手に取った結晶の飾りを、そっとシオンに手渡した。
「え?」
「シオンに似合うと思って。良かったらもらってくれないか?」
そう言うと、シオンは少しだけ驚いたように瞬きし、すぐにほんのり頬を染めてうなずいた。
「……うん。ありがとう。すごく、嬉しい」
受け取った飾りを大事そうに両手で包み込みながら、シオンは穏やかに微笑んだ。
それを見て、俺も自然と微笑み返す。
そのやり取りを少し離れたところで見ていたルーナが、オリヴァーに小声で呟いた。
「……あれ、わざとですよね?」
「わざと、だな。百パーセント」
「でもまあ、ああいうの、悪くないですね」
ゆっくりと夜の色が濃くなっていく。
奉納の舞が始まる時間が近づいていた。
「さて、そろそろ天霊神社に向かおうか」
俺がそう声をかけると、三人とも静かに頷いた。
途中でりんご飴を買って、俺たちは天霊神社へと歩を進めた。
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