277.【sideナギサ】霊舞祭
うぅ……。難しすぎて、頭から湯気が出そうだよぉ……。
家臣たちからの報告を聞きながら、私は心の中で弱音を吐いていた。
「三か月ほど前より発生している迷宮の氾濫による混乱も収束したと言って良いでしょう。また、魔獣被害によって懸念されていた食糧問題についてですが……。――ナギサ様、聞いていますか?」
次から次へと与えられる膨大な情報の量に圧倒されていると、わざわざ報告のために来てくれた家臣が怪訝な表情をこちらに向けてくる。
「だ、大丈夫です! 続けてください!」
私は慌てて背筋を伸ばし、家臣の目をしっかりと見据える。
大変だろうと、ここで挫けるわけにはいかない。
これは、フウカ姉さまたち東雲家からキョクトウを簒奪してしまった朝霧家の責務なんだから。
国を支える立場である以上、どんなに大変でも、乗り越えなければいけない。
家臣は一瞬眉をひそめたけど、すぐに報告を続けた。
「……承知しました。食糧問題につきましては――」
それからも私は家臣たちの話に付いていくために、彼の報告に集中していると、突如私の良く知る気配を捉えた。
「っ! ご、ごめんなさい! 急用ができました。報告はまた後で聞かせてください!」
家臣にそう告げてから、私は部屋を出て急ぎ気配のある場所へと向かった。
◇
「フィリー様。お、お帰りなさいませ……!」
捉えた気配の主であるフィリー様へと近づいて声をかける。
「あら、ナギサ。わざわざわたくしを出迎える必要は無いっていつも言ってるじゃない。貴女も成人してキョクトウの政に積極的に参加しているのでしょう? わたくしのことは気にしなくて大丈夫よ」
フィリー様は私を気遣うようなことを言ってくれた。
表情にも柔らかい笑みを浮かべていて、とても友好的に見える。
それに釣られて、つい気を緩めようとしてしまう。
でも、忘れてはいけない。
――フィリー様に、人の心が無いことを。
この人を自由にして何度民がひどい目に遭ったことか。
フィリー様にとって私は利用価値のある人間のようだから、私に直接ひどいことをしてくることは無い。
だからフィリー様がこの国にいるときは、彼女から民を護る防波堤になるように私が監視しないと。
……あれ?
いつものフィリー様は表情を取り繕っていても、瞳はどこまでも冷たい。
だけど、今日はその冷たさを感じなかった。
「お、お気遣いありがとうございます……。あ、あの、フィリー様、何か良いことでもありましたか?」
「あら、分かるかしら? 実はようやく悲願を為せそうなのよ」
「ひ、悲願、ですか……?」
「ふふふっ。そう警戒しなくても大丈夫よ。今すぐに始めるものでもないから。しばらくは羽を伸ばそうと思っていてね。ちょうどこの国で祭りがあるでしょう?」
「……霊舞祭のことですか?」
「えぇ、それよ。たまにはわたくしも純粋に祭りを楽しもうと思っているの。だから、祭りの邪魔をするつもりもないし、霊舞祭まではキョクトウの人間にも手を出さないと約束するわ」
「ほ、本当ですかっ!?」
「えぇ。だから霊舞祭に不備が無いように、しっかりと準備に励みなさい。楽しみにしているのだから」
フィリー様は危険な人だけど、約束はきちんと守ってくれる人ではある。
これまで一度も、私との約束を違えたことはない。
フィリー様の監視をしながらの霊舞祭準備は大変だからすごく助かる。
「わかりました! フィリー様にも楽しんでいただけるよう、全力を尽くします!」
「えぇ。本当に愉しみにしているわ」
最後までお読みいただきありがとうございます。
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第九章開幕です!
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