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勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第八章

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245.秘密のサイン

 それから俺は端的に術理を介して得た情報を彼女に伝えた。


 普通なら妄言として一蹴されそうなことを言っている自覚はある。

 何せ、《英雄》なんて有名人が誰にも気づかれることなく、王国内で一番警戒が厳重とされている王城まで単身でやってくると言っているのだから。


 だが、彼女は俺の言葉を無視することはなかった。

 それは恐らく、長距離転移が実在すると知っているからだろう。


「――以上が、これから起こりうると考えられるシナリオです」


「……《英雄》が単独で王都を襲撃だけ(・・)でもとんでもないことですが、本当にそんな未来が訪れるのですか?」


 俺が語った未来にルシラ殿下は半信半疑だった。


 まぁ、そうだろう。

 魔獣が地上に(・・・・・・)溢れかえる世界(・・・・・・・)が待っているなんて、予想だにしないはずだ。


「確実に訪れるとは断言できません。ですが、確度は非常に高いと考えています。なので、私はこの状況を利用するつもりです」


「聞かせてください」


「この状況になるということは、世界全土に混乱が広がるでしょう。その場合は一刻も早く情勢を安定させるためにも各国が団結する必要があります」


「そうですね。戦争は当然、足の引っ張り合いをしていたら魔獣を前に共倒れとなるでしょう。反対に国が手を取り合えられれば、そうなったとしても対処できると思います。ですが……」


 ルシラ殿下の言葉に頷いて、再び口を開く。


「はい。考え方の違う国同士を団結させることは容易ではありません。そして時間が掛かれば掛かるだけ傷つく人が増えます。ですので、手っ取り早く手を組んでもらうために、『共通の敵』を用意します」


「共通の敵、ですか?」


「はい。この事態を俺が引き起こした(・・・・・・・・)ことにするんですよ。と言っても、教団――探索者ギルドは最初からそのつもりでしょうから、それに乗っかるだけですが」


「……は? え? 何を言ってるんですか!?」


「地上に魔獣が蔓延る事態を、天災ではなく俺が引き起こした人災にした方が早く事が進みます」


「ですが、そんなことをすれば、オルンは――」


「――覚悟の上です。……俺は本来なら大切な物を多く喪うはずでした。それが恩人のお陰でやり直せる機会を得られたのです。今の俺にベターな結末なんていりません。ベストの結末に辿り着くために必死に足掻きます。そして、笑って、その先の未来を生きます。それが、俺の恩人が望んでいることですから」


 じいちゃんが消える直前、彼は笑いながらこう言った。『オルンがこれからの人生を笑って過ごせることを、心から祈っておるよ』と。

 じいちゃんが命を懸けてくれたから今がある。

 そんなじいちゃんの望みは、俺が笑って過ごす未来なんだ。

 だったら、無理でも無茶でも無謀でも、その未来を目指して進む以外の道は俺の中に無い。


「…………わかりました。オルンの意思を尊重しましょう。オルンの言う通りです。本来であれば、王国は帝国に負けていたのでしょう? その未来を回避してベストの結末を目指すというのであれば、是非もありません。私はオルンを信じます。私、人を見る目には自信があるんですよ?」


「……ありがとうございます」


「ふふふっ。オルンはやはりオルンですね。それでは、その方向で話を進めましょうか」


 俺が見てきたルシラ殿下は、常に笑みの中に何かしらの意味を含ませているように感じていた。

 だけど今の彼女が俺に向けてきている笑顔は、他意の一切ない純粋なものに見えた。


  ◇


 それから俺とルシラ殿下は、《英雄》が王都にやってくる日に行うことについて話を詰めた。


「大枠はこれで問題無いでしょう。一番の不確定要素は、やはり【認識改変】の異能者であるフィリー・カーペンターですね。彼女が介入してきた場合、面倒なことになるのは明白でしょう」


「それについても対策は考えています。ルシラ殿下、普段から身に着けている護身用の魔導具はいくつありますか?」


「普段から身に着けているのは二つですね」


「可能であれば、片方を貸していただけませんか? その魔導具に【認識改変】を無効化する機能を組み込もうかと」


「……そんなことが出来るのですか?」


 俺の異能である【森羅万象】は理解した異能なら行使することができる。


 そして、俺は二度【認識改変】を受けている。

 一度目は、ベリアたち《シクラメン教団》が俺の故郷である黎明の里を襲撃してきた時。

 二度目は、昨年の夏にエディントン伯爵の依頼を受けて迷宮調査のためにレグリフ領を訪れた後に起こった《英雄》の侵攻時。

 その二度の経験で、俺は【認識改変】を行使できるようになっている。

 と言っても、【森羅万象】で得た能力にはいくつか制限があるため、むやみやたらに乱用することはできない。

 ここでルシラ殿下の護身魔導具にその機能を施せば、しばらくは【認識改変】を行使できなくなる。


「えぇ。ですが、【認識改変】を無効化する魔導具はルシラ殿下のみにお渡しします」


「他の者も妨害して、【認識改変】を対策されていると彼女に思われないためですね」


「はい。まぁ、そもそもこれで確実に防ぐことが出来るかは未知数な部分もありますが」


「でしたら、合言葉のようなものを決めておいた方が良さそうですね。あぁ、でも、のんびり言葉を交わしている余裕があるかわからない以上、合言葉よりも動作の方が良さそうですね」


「私もお互いにだけ伝わるサインのようなものを決めておきたいと考えていました。言葉よりは動作の方が自然に取り入れやすいかと」


「わかりました。そうですね……、では、『左目を左手で隠す』というのはどうでしょう? 日常的に行う動作ではなく、それでいて不自然すぎるものでも無いと思うのですが」


「それなら問題無いかと」


「では、これを秘密のサインとしましょうか。ふふふっ、秘密の共有なんてドキドキしますね」


 話すべきことを話し終えたところで、再び彼女のお茶目な部分が顔を出した。


「私は心配という意味で落ち着かないですがね」


「大丈夫ですよ。オルンの魔導具もありますし、私はサインを忘れません。ですが、もしも私が忘れていたら(・・・・・・)、その時は容赦なく私を切り捨てていただいて構いません。ですが、国民だけは、どうかお願いします」


 そう言いながら彼女は俺たちに深々と頭を下げた。


「わかっています。私もこの国は好きですから。ノヒタント王国の人間を一人でも多くの救えるよう全力を尽くします」


「その言葉が聞けて安心しました」


 顔を上げたルシラ殿下は、安堵とともに肩をなでおろした。

 

  ◇

 

「それではオルンさん、私たちは先にツトライルへ帰りますね!」


 ルシラ殿下への根回しが終わり、俺は前回と同様ツトライルに帰るソフィーたちの見送りにやってきた。


「みんな、一緒に帰れなくてごめん。このメンバーなら心配いらないだろうが、道中気を付けて」


「私たちよりもオルンの方が心配だ。ルーシーからの密命ということだが、本当に危険はないのか?」


 俺の言葉を聞いたセルマさんが、心配そうな表情で問いかけてくる。

 今回も俺はルシラ殿下の密命を受けたとして、ここから彼女たちとは別行動となる。


「あぁ。命の危険があるような依頼ではないよ。パパッと済ませて俺もすぐツトライルに帰るから、心配しないで」


「そうか。何かあれば私でもクランでも良いから連絡を寄こしてくれ。すぐに駆け付ける」


「僕たちもです! 師匠なら難なく終わらせてしまうとは思っていますが、万が一にでも、何か困ることがあったら、遠慮なく僕たちを頼ってください!」


「ありがとう、セルマさん、ログ。心強いよ。もし何かあったら必ず助けを呼ぶことにする」


「ししょー、早く帰ってきてね! やっぱりししょーにはあたしたちの快進撃を間近で見て欲しいから!」


「そうだな。帰ってきたらお前たちに追い抜かれている、なんてならないように、一日でも早くツトライルに帰れるよう頑張るよ」


 あまり俺の知る未来から逸れないように、前回と同じ会話を続ける。


 だが、俺の中の感情は全く違うものだ。

 前回は自分の過去を知るということで不安な気持ちもあった。


 対して、今は彼女たちとの別れを惜しむような、そんな気持ちに襲われている。


 だけど、これが俺の選択した道だ。

 この道の先に後悔することが待っていたとしても、歩みを止めないと俺は誓ったから。


 メンバー全員と一通りの会話を終えたところで、《黄昏の月虹》の面々が馬車へと乗り込む。


 ルーナが馬車のステップに足を掛けたところでこちらに振り返った。


「――オルンさん」


「ん?」


「…………いえ、どうしてでしょう……、ここで何か言わないといけない気がしてしまって」


 ルーナはそう言いながら言葉を探しているようだった。


「……大丈夫だ、ルーナ。さっきも言ったけど、俺もすぐ戻るから」


 俺がそう言うと、ルーナの表情が緩んだ。


「そうですよね。それでは先に帰っていますね、オルンさん」


「うん、また」


 彼女らを乗せた馬車がゆっくりとツトライルに向けて動き出した。


 視界に映る馬車の大きさが徐々に小さくなっていくところを見届けていると、四人の足音が近づいてきた。


「来たか」


 そう呟きながら足跡の聞こえた方へと振り返る。

 そこにはフウカとハルトさん、そしてキャロルの兄姉であるルエリアとフレデリックが居た。


「……オルン・ドゥーラ。……そう。つまりそういうこと(・・・・・・)だと思っていいの?」


「あぁ、その認識で問題ない。お前たちの身柄は俺が預かる。酷い扱いをするつもりはないが、協力はしてもらいたい」


 落ち着かない様子でありながら、強がっているように振舞うルエリアが問いかけてくる。


 彼女たちは昨日の時点でフウカの監督下に置かれていた。

 前回は彼女たちと合流することは無かったが、今回は彼女たちをヒティア公国に連れていく。


 《博士》の部下であったりキャロルの兄姉であったりと、二人の存在は俺にとって無視できないものだ。


 《博士》が処分されたことで《シクラメン教団》に居場所は無いだろうし、彼女たちは現在かなり微妙な立場に置かれている。

 俺が後ろ盾になれば、《アムンツァース》のメンバーも彼女たちにちょっかいを出すことは無いだろう。


 フウカの話では、昨日時点の彼女たちは歩くのも厳しいくらい消耗しているとのことだったが、今はある程度回復しているようだ。


 未だに激しい戦闘はできないだろうが、その点は全く問題ない。


「今の私たちに拒否権はないんでしょ? 権利を保障してくれるなら私たちの持っている情報は渡すわ」


「ありがとう」


「……《異能者の王》に素直に感謝されるなんて、なんか変な感じね」


「だね~。教団の人間は《異能者の王》のことを諸悪の根源みたいな感じで言ってたから、どうしてもマイナスイメージが先行しちゃうもんね~」


「諸悪の根源って……。いや、連中にしてみればそうなのかもしれないが……。そもそも俺とアウグストさんは別人だからなぁ……」


 改めて教団の俺に対する認識を知らされ、つい苦笑いをしてしまう。

 まぁ、連中にどう思われていようと何も感じないが、連中のこの認識は上手く利用できるかもしれない。覚えておこう。


 なんてことを考えていると、ルエリアがバツの悪そうな顔をした。


「……異能だけでその人を判断するのはダメよね。その、変なことを言ってごめんなさい」


 素直に謝罪をするルエリアを見て驚く。

 幼少のころから長年に渡って《シクラメン教団》に身を置いていたため、多少なりとも歪みはあると思っていた。

 だけど、目の前にいるこの子は至って普通の感性を持っているように感じた。


「気にするな。そう思われるのも仕方ないって思ってるから。同一視されないように俺が努力すればいいだけの話だしな」


 二人との会話が一段落着いたところで、ハルトさんが声を掛けてくる。


「それで、これからどうするんだ?」


「まずはヒティア公国のダウニング商会本店に行ってシオンと合流する。その後はクリストファーさんも交えてこれからの動きを共有しておきたい」


 最初の目的地は前回と同様、ヒティア公国の首都セレストにあるダウニング商会本店だ。


「……? シオンは眠ったまま起きないんじゃないの?」


 フウカがコテンと首をかしげながら疑問を口にする。


「まだ眠ってる可能性もあるが、俺は目を覚ましていると思ってる」


 シオンは前回における今日も眠りに就いたままだった。


 基本的に前回と同じように進んでいる今回も、眠ったままだと思うのが自然だろう。

 だけど、【時間遡行】という時間に干渉できる異能を持っているシオンは例外となる。


 そもそもシオンが眠り続けている理由、それは情報の整理のためだ。

 彼女は眠りに就く前に〝外の魔力〟と〝術理の根幹〟の二つにほぼ同時に触れた。

 片方だけでも膨大な情報の塊で、頭の中で情報を整理することが難しい。

 それを二つ。それらを整理するために、身体が無意識的にそれ以外のことをシャットアウトした結果、眠ったままとなっている、と俺は考えている。


 そして幽世に放り出され強制的に意識を覚醒させられたシオンは、そこでアウグストさんと出会い、〝外の魔力〟と〝術理の根幹〟の二つをアウグストさんから教えてもらって、彼女はそれを理解した。


 それはつまり、情報の整理のために眠っている必要が無くなったことと同義だ。


「そっか。目を覚ましているんだ。それは再会が楽しみ」


 表情の変化が著しく少ないフウカの口角が僅かに上がっていた。


「目的地がヒティア公国なら、転移で行くのが早いな。こっから一番近い転移陣がある場所は、ツァハリーブ王国の王都か」


 ハルトさんがヒティア公国までの道程に言及した。


「いや、それじゃ間に合わない(・・・・・・)


「間に合わない? どういうことだ?」


 ハルトさんが疑問をぶつけてくる。


 朝の時点でフウカとハルトさんの二人にも、ルシラ殿下と同じように接触しながら術理の情報を浚っている。

 前回の二人は、教団がツトライルを襲撃するタイミングと、俺たちのヒティア公国到着のタイミングを合わせるように動いていた。


 しかし、今回は襲撃を受けることを知らないようだ。

 まぁ、あの一連の計画を立てたのがじいちゃんだから仕方ないか。


「そのままの意味だ。それだと俺たちがヒティア公国に着く頃には敗北している」


「そうは言っても、それ以上に早くヒティア公国に行く方法は無いだろ?」


「そんなことない。ここから(・・・・)ヒティア公国まで転移するから」


「……は? いやいやいやっ! 長距離転移ってのはあくまで、『転移陣から別の転移陣まで一瞬で移動するもの』だろ?」


「そうね。それは教団も同じ。転移陣から転移陣への移動はできるけど、転移陣も無しに長距離転移ができるなんて聞いたこと無いんだけど……」


 ハルトさんが驚いていると、ルエリアもそれに追従した。


「長距離転移の原理は、ざっくり言うと術理と地脈を利用するだけだからな。今の俺なら即席の転移陣を作れる」


 ハルトさんの質問に答えながら、術理を介して即席の転移陣を作成する。


「転移陣ってこんなあっさり作れるんだ~……」


 フレデリックが呆れたような声音で呟く。

 こんなにあっさり作れるようになったのは、アウグストさんから術理について教えてもらっているためだ。


 と言ってもリスクが無いわけじゃない。

 通常、転移陣の作成には年単位の時間を要する。

 《アムンツァース》が使用している転移陣には色々と細工が施されているが、この転移陣にはそれらの細工が無い。

 そのためこの転移は《シクラメン教団》に捕捉される。

 遅かれ早かれ俺が長距離転移でヒティア公国へ向かったことを、ベリアは知ることになるはずだ。


 それでも今は時間勝負。ベリアに勘付かれる前にやるべきことを終わらせる。


「これで、俺が教団から危険視されている一端が分かっただろ? さ、全員、転移陣の中に入って」


 四人に声を掛けると、全員が転移陣の上に立ったことを確認してから転移陣を起動した。


 目の前の景色が歪み始める。


最後までお読みいただきありがとうございます。


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本作品の書籍版第7巻が発売されました!

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何卒よろしくお願いいたします!


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数字が大きすぎて実感がいまいち湧かないというのが正直なところですが、この結果もひとえに読者様の応援のおかげです。

改めてお礼申し上げます。


今後も読者様に楽しんでいただける物語を書いていきますので、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします!


次話もお読みいただけると嬉しいです。また、気が向いたら感想もよろしくお願いいたします!

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[一言] 世界観が大好きで読み出したら止まりませんでした!笑 つづきたのしみにしてます!最高です!
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