18.【side勇者パーティ:オリヴァー】スランプ
「おらぁぁああ!」
俺は鬱憤を晴らすように剣を全力で振るい魔獣を倒す。
どうにか全部の魔獣を倒せた。
(くそ! イライラする)
俺がイラついている大きな要因は、今日から新たにパーティに加入したフィリーが、すぐにバフを切らせているから。
最初こそオルンを大きく上回る効果の支援魔術に興奮していた。
だけど、こうも戦闘中に何度も体の感覚を崩されたら、鬱憤も溜まってくるってもんだ。
支援魔術のバフが切れると、当然身体能力は元に戻ることになる。
しかも戻るのは緩やかにではなく、一瞬で、だ。
静止中や歩いているときはともかく、戦闘中は激しい動きをしている。
そのときにバフが切れると、全身に大量の錘が付いたような感覚に襲われる。
羽のように軽くなって、しばらくしたら全身に錘を付けたような感覚になり、また羽のように軽くなる。
そんなのを繰り返していたら肉体的にも精神的にもかなりの負担となる。
あいつは支援魔術を使えるようになった初日の探索で、1時間もすれば、戦闘中にバフを切らすことが無くなっていた。
もう大迷宮に潜ってから数時間が経過するぞ?
「ご、ごめんなさい。すぐに感覚をつかみますので!」
フィリーが申し訳なさそうに俯きながら謝罪をしてくる。
……確かにあいつの順応性の高さは異常と言って差支えないレベルだった。
その点は認めていた。
普通の支援術士がバフを切らさないようにするには、もう少し時間が掛かるのかもしれない。
「ああ。頼むぞ。それと俺やデリックは前衛だから死角が多くなる。俺たちの死角にいる魔獣の次の動きを教えてくれ。付与術士は全体が見えるんだから、それくらいならできるだろ?」
「む、むむむ無理です! 現状では支援魔術だけでいっぱいいっぱいで……」
これがフィリーにとってこのパーティでの初めての探索だ。それに俺は自分の魔力抵抗力が高いことは自覚している。
確かに優秀な付与術士とはいえ、十年近く一緒に探索をしていたオルンと同じ仕事内容を求めるのは、少々酷だったかもしれない。
フィリーを責められないため、次に俺をイラつかせているアネリに怒りの矛先を向ける。
「アネリ、ここは深層だぞ!? 目的は連携の確認だとしても、遊んでいい場所じゃないこともわからないのか!」
アネリは今日これまで、まともに魔獣を倒していない。攻撃魔術は発動しているが、そのどれもが、下層の魔獣にダメージを与えられれば御の字と言うレベルの弱い魔術しか使っていない。
そのしわ寄せが、俺とデリックに寄せがきている。
「ちゃんとやってるわよ! いつも通りよ! それなのに何で!? どうしてこんな弱い攻撃魔術しか発動できないのよ!?」
アネリがヒステリックに叫ぶ。
態度も見るに嘘を付いていないようだし、どういうことだ?
「人に当たるなよ、オリヴァー。お前だって今日は調子が悪いじゃないか。まぁ、俺もだけどな。これがスランプってやつか? 五人中三人が急にスランプになるなんて、ツイてないとしか言いようがねぇな」
デリックの言う通りだった。俺自身攻撃力が低くなっている。いつもここぞ! と言うときに振るう剣は、どんなに硬い相手でも簡単に斬ることができていた。
だけど今日はそれができない。
身体能力はフィリーの支援魔術のおかげで、格段に上がっているはずなのに、何故だ?
デリックに関しても、今まではどんな攻撃がきても態勢を崩すことが無かった。
だけど今日は、魔獣の攻撃に対してすぐに態勢を崩していて、まともに攻撃を受ける場面もあった。
「くそっ! 日課のソロ探索だって怠っていなかった! だというのに、どうしてこんなに弱くなっているんだ!?」
パーティリーダーとして、自分の弱音は吐き出さないようにしていたが、鬱憤も溜まって冷静を欠いていた俺は、ついグチを零してしまった。
「…………そんなこともわからないのですか?」
一昨日の歓迎会が終わったときから、これまで一度も口を開いていなかったルーナが、心底呆れたような口調で問うてくる。
「ルーナは俺たちの不調の原因が分かるのか!? ……そういえばお前だけいつも通りだったもんな」
ルーナの発言にいち早く反応したデリックがルーナに質問する。
原因が分かっているなら是非とも教えてほしい。
俺はこの大迷宮を攻略しないといけない。
こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだ。
「…………はぁ。本当にわかっていないのですね。呆れて物も言えません」
それっきりルーナは再び口を閉じる。
「ちょっと! 教えなさいよ! 仲間が困っているのに何なのその態度は!?」
ルーナの態度に腹を立てたアネリが、ルーナを問い詰める。
「……仲間、ですか? 確かにまだそうでしたね。……はぁ、仕方ありません。貴方たちが弱くなった原因は――――っ!?」
ルーナが理由を話そうとしたその時、雷鳴のような咆哮が上空に響く。
「なんで……」
咆哮の聞こえた方を見上げた俺たちの誰かが呟く。
もしかしたら俺だったかもしれない。
視線の先に居たそいつは、全身が黒曜石のような光沢のある黒い鱗に覆われた、巨大な爬虫類を思わせる体をしている。
更にその背中からは巨大な体を覆い隠せそうなほどの翼が生えている。
禍々しいという表現がぴったりの魔獣だった。
俺はこいつを知っている。
「なんで、お前がここにいるんだよ!? ――黒竜!!」
九十二層のフロアボスである黒竜が、俺たちをはるか上空から見下していた。
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