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178.オルン&《翡翠の疾風》 VS. 魔獣の大群

 漆黒の矢は一直線に魔獣の群れへと飛んでいき、連中の上空で爆発するかのように魔力が拡散した。

 その中心に重力場を発生させることで、拡散した魔力は巨大な球体へと形を変えて周囲のものを飲み込んでいく。

 そして、飲み込まれたものは魔力と重力による破壊の奔流によって消滅する。


 しばらくその場に留まっていた漆黒の球体が消え去ると、それに飲み込まれた魔獣の群れは文字通り全滅していた。


「なんて攻撃だ……」


「すごい……!」


 黎天による魔獣の殲滅を目の当たりにしたローレッタさんとルーシーさんが呆然としながら言葉を零す。


(もう少し起点を上にするべきだったか)


 俺が放てる最強の攻撃である黎天。

 その攻撃が与える周囲への影響は絶大だ。

 起点を上空にすることで、以前レグリフ領で放った時のように地面をごっそりと抉るようなことはなかったが、それでも木々やらが飲み込まれ一部自然を破壊してしまった。


 確実性を取った結果だから、これによってルーシーさんに責められることがあれば甘んじて受けるつもりだったが、彼女が俺を責めるとこはないようだ。


「……【零ノ型(モント・ヌル)】」


 右手に持つ魔弓を形の無い流動的な魔力にしてから、それを操作してマフラーのように細長くしてから首に巻き付ける。


 第一波は黎天で全滅させることができたが、これで終わりではない。

 第二波とももうじき接触するはずだ。


 ストックしていた収束魔力は【魔剣合一(オルトレーション)】と黎天で全て消費してしまった。

 新たに収束魔力を用意するのに時間がかかるため【魔剣合一(オルトレーション)】を解除することもできず、武器の形のまま持っていればルーシーさんは落ち着かないと考えて、応急的にこの形をとった。


 まぁ冬場だし、そこまで違和感は無い、かな?


「ひとまずの脅威は去りました。ルーシーさんには魔獣を感知する術があるようなので承知していると思いますが、これから第二波がやってきますので、油断はしないようにしてください」


 しばらく呆然としていたルーシーさんだが、俺の言葉で我に返る。


「っ! はい。わかっています。あの……、失礼ですが、第二波でも先ほどの攻撃をしていただくことは……」


 まぁ、そうなるよな。


「申し訳ありません。先ほどの攻撃をもう一度放つには相応の時間を必要としますので、乱発はできないのです」


 これは嘘ではない。が、本当でもない。

 収束魔力は俺の異能によって作り出している特殊な魔力(・・・・・)となる。

 そのため、必要に迫られれば即座に用意することはできる。

 しかし、それは相応のリスクを伴うためできれば取りたくない手段だ。


 時間を掛けることで、じいちゃんに改良してもらった収納魔導具も相まってリスク無しで収束魔力を用意できる。

 今回の氾濫の裏に教団の人間が居る可能性が高い以上、全貌が見えるまでは常に余力を残しておきたい。


 そもそも第二波が迫ってくるよりも《翡翠の疾風》が揃う方が早いため、第二波では彼女たちを当てにさせてもらう。


「そ、そうですよね。でも、逆に安心しました」


 ルーシーさんが俺の返答を受けて、恐怖感を少し和らげていた。

 彼女の立場を考えれば当然か。


「ローレッタさん、第二波には《翡翠の疾風》の皆さんをメインに対処できればと思いますが、実際のところどうですか? 《夜天の銀兎》では、貴女たちは大量の魔獣の相手が苦手と分析しているのですが」


 俺の問いかけを受けたローレッタさんが苦笑する。


「流石だね。確かに私たちは多数の敵との戦いを苦手としている。しかし、それは探索者としての私たち(・・・・・・・・・・)であれば、だ。現在の私の仲間は魔導兵器を装備しているから、あの程度の魔獣たちであれば問題なく対処できるはずだよ」


 なるほど、そういうこと(・・・・・・)だったのか。

 《勇者》に拘っているのもウォーレンさんを意識してのことだったのかもしれないな。


「わかりました。では、第二波の対処はお任せします。《翡翠の疾風》は普段通りに戦ってください。そちらの動きに合わせって俺も遊撃的に動きますので」


「いいのかい?」


「えぇ、連携の確認をしている暇は無いでしょうし、自分で言うのもなんですが、戦闘中に他人に合わせるのは苦手ではないので」


 《黄金の曙光》に居たころに散々仲間に合わせてきたからな。

 その経験があったお陰か、曙光を追い出されてからも《夜天の銀兎》の第一部隊や《英雄(フェリクス)》とすぐに合わせることができた。

 これもある意味でアイーダさんが言っていたことに通じる部分だな。

 物事に無駄なことなんて一つも無い。


「わかった。それではオルン君には――」




 ローレッタさんと第二波の対処について話していると、後方から馬車一台と馬に乗った三人の女性がものすごい速さで近付いてきた。


「ルシラ殿下! ご無事ですか!?」


 近付いてきた女性――《翡翠の疾風》のディフェンダーであるマライアさんが焦った口調でルーシーさんに声をかける。


「はい。問題ありません。マライア、心配してくれることは嬉しいですが、外では『ルーシー』と呼ぶようにお願いしていたはずですよ? 誰が聞き耳を立てているのかわかりませんから、今後は注意してください」


「も、申し訳ありません、ルーシーさん!」


 やはりルーシーさんの正体は、ノヒタント王国の第一王女――ルシラ・N・エーデルワイスか。


「オルン、貴方は私のことに気づいていたと思いますが、そのままでいてくれますか?」


「えぇ、承知しています。ここにいるのはローレッタさんや《翡翠の疾風》の知人であるルーシーさんですよね?」


「助かります」


(彼女がこの国の王女であると確定した以上、彼女の無事を最優先事項として動くべきだろう。可能ならすぐにこの場から逃がしたいが……)


 俺は《翡翠の疾風》の一人が御者をしていた馬車に視線を向ける。

 その馬車の中には何かを詰めている麻袋がいくつか見える。

 十中八九それは魔石だろう。


 ローレッタさんの先ほどの発言から《翡翠の疾風》は王国内で魔獣の氾濫が頻発していることを把握していた。

 そして、王女の護衛の一環として、少し離れたところで多くの魔石を積んだ馬車を走らせることで、仮に氾濫が起きたとしても魔獣が王女の方に向かわないようしていたと考えるのが自然だ。

 しかしその対策空しく魔獣の群れは王女の方へと直進してきた。


 そのためここで第二波が来る前にルーシーさんだけを逃がせば、魔獣の群れが方向転換する可能性が高い。

 彼女を逃がすのはリスクが高い。

 ここで俺と《翡翠の疾風》全員で魔獣の群れに対処するのが一番彼女の安全を確保できるはずだ。


 《翡翠の疾風》もルーシーさんも俺と考えは同じなのだろう。

 ローレッタさんから状況を聞いた他の翡翠メンバーもルーシーさんを逃がそうとはしていない。


「ルーシー、怖いとは思うがここでジッとしていてくれ。ここには《翡翠の疾風(わたしたち)》だけでなく、オルン君もいる。私たちが君を絶対に護るから」


 仲間たちと方針を固めたローレッタさんがルーシーさんに声をかける。


「はい。貴女たちを信じています。オルンも、巻き込んでしまってごめんなさい」


「いえ。先ほども言いましたが、俺にもここで魔獣を暴れさせたくない理由があるので」


 そうこうしているうちに第二波である魔獣の大群を視界に捉えた。

 その数は第一波なんかとは比べ物にならない数の魔獣の大群だった。

 俺が迷宮の氾濫を実際に見たことがあるのは一回だけだから比較対象が少ないが、話に聞く氾濫の情報を加味してもこの数は異常だ。


「第三波はなさそうなので、目の前の魔獣たちに集中して問題ありません! 皆さんよろしくお願いします!」


 何かしらの方法で魔獣の存在を察知できるルーシーさんが第三波の可能性を排除する。

 俺の警戒網にも目の前の魔獣の大群以外に魔獣の存在は引っかかっていないため、ひとまずは目の前の魔獣どもに集中してよさそうだ。


「それでは、行くぞ!」


 ローレッタさんの号令を皮切りに、彼女を除く翡翠の四人が魔獣の大群目掛けて魔導兵器を使用して広域殲滅魔術を放つ。

 大半の魔獣はこれによって魔石へと姿を変えるが、攻撃が当たらなかった一部の魔獣は動揺することなくこちらに向かってくる。


 討ち漏らした魔獣を狩るのは俺とローレッタさんの仕事だ。


「――【弐ノ型(モント・ツヴァイ)】、【封印緩和:第三層レストレーション・トリプル】」


 首に巻いていた漆黒の魔力を二振りの魔剣に変えてから、自身に刻まれている術式の改竄と氣の活性によって身体能力を引き上げる。

 俺の間合いに入ってきた魔獣は、即座に急所に漆黒の軌跡が走り黒い霧へと変わる。

 そして、その足元に魔石だけが残っていた。


(話には聞いていたが、ローレッタさんの戦い方はこうして実際に見ても目の錯覚を疑ってしまうな)


 魔獣どもを狩りながら討ち漏らした魔獣を迎撃しているローレッタさんの戦い方に驚きを覚える。


 彼女も今の俺と同様に二本の剣を操っている。

 しかし、俺の持つ双剣が長剣の半分程度の長さであるのに対して、彼女は右に大剣、左に長剣という常識では考えづらい組み合わせだ。

 しかも、その二本の剣をまるで重さを感じさせないほど流麗に扱い、魔獣どもを容赦なく両断している。


 ローレッタさんは女性としては長身だ。

 更にバフによって身体能力を向上させることも可能。

 だとしても限度がある。

 常識的に考えればそんな戦闘スタイルは成立しない。


 それを成立させている理由は、彼女が剣士であると同時に特異魔術士(・・・・・)であるためだ。

 彼女の特異魔術は【自重増加(ウェイトアップ)】そして【自重減少(ウェイトダウン)】。

 二本の剣を絶え間なく最適な重さ(・・・・・)にすることで、ようやく成立する彼女にしかできない戦闘スタイルとなる。


 翡翠の四人が魔獣の大群に絶え間なく魔導兵器を駆使して魔獣の大半を魔石に変える。

 討ち漏らした魔獣も俺とローレッタさんを中心に殲滅することで、ルーシーさんの元まで辿り着く魔獣は一体も現れず、順調に魔獣の数を減らしていく。


  ◇



最後までお読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただけると嬉しいです。


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[気になる点] 王様死んだやろ なんで触れない 外交が上手くいってるってどゆこつ
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