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166.Sランクパーティの集い

「良い、フウカ? 今日は他所の人たちも集まるんだから自重しなさいよ。いつもみたいなバカ食いは絶対しちゃダメだからね?」


「……? バカ食いなんてしないよ?」


「本当にわかってるのかしら……」


 招待された店へと向かう途中で、フウカと彼女に苦言を呈しているカティーナさん、その後ろで苦笑いを浮かべているハルトさんとヒューイさんが別の路地から現れた。


「お、《赤銅の晩霞》じゃねぇか」


 その四人に気が付いたウィルが声を掛ける。


「おぉ、久しぶりだな、ウィルクス! 他のみんなも! あ、そだ。九十四層到達おめでとさん」


 ウィルの声にいち早く反応したハルトさんが挨拶と共に、九十三層の攻略達成について祝してくれた。


「サンキュー、ハルトさん。そっちも《翡翠の疾風》の店に向かっているのか?」


「あぁ。そうだ。目的地は同じみたいだし、一緒に行こうぜ」


 ハルトさんのその言葉で俺たちは九人で目的の店へと向かうことにした。


 九人で纏まって歩いていると、フウカが一直線にこちらに近づいてくる。


「オルン、久しぶり」


「久しぶりだな、フウカ」


 フウカと直接顔を合わせている回数は多くないが、あまり自分から話しかけるタイプには見えなかったため彼女から声を掛けてきたことに少々驚きつつも返答する。


「最近何か変わったことある?」


 フウカが俺の顔をジッと見つめながら問いかけてくる。

 相変わらず表情に変化が少ないため感情が読めないが、その瞳は真剣なものに感じる。

 少なくとも世間話をしようとしている表情には見えない。


「そうだな……、やっぱり変わったことといえば帝国方面じゃないか? 近々国王と皇帝の会談もあるわけだしな」


「帝国方面のことは今は(・・)どうでもいい。そうじゃなくてオルン自身のことで変わったことってある?」


 昨今で一番の出来事だというのにどうでもいいって……。

 まぁ、確かにフウカはそういうことをあまり気にしていなさそうだもんな。


「俺自身、か。それだったら、例のやつ(・・・・)はかなり上達したぞ」


「例のやつって、氣のこと?」


 氣のことはハルトさんから他言を禁止されているが、フウカは俺がハルトさんから教えてもらったことを知っているため問題ない。

 一応その単語を伏せたが、フウカが簡単に口にした。


「そうだが、口外してもいいのか?」


 俺の疑問を投げかけるとフウカがコクリと頷いてから口を開いた。


「聞いただけじゃ意味は分からないから大丈夫。それ以外は?」


 どうやら彼女は俺から何かを聞きたそうにしているように見受けられる。

 しかし、俺にはその〝何か〟がわからない。


「悪い。それ以外は思いつかないな」


 俺が何もないと答えると、フウカは「……そう」と呟いてから口を閉ざした。


 会話はそこで一旦終わったものの、俺から離れて他の人のところへと向かう素振りは見せていないため、次は俺から話題を提供することにした。


(フウカといえば『食』だよな)


「フウカは今向かっている『そよかぜ亭』に行ったことあるか?」


 俺がフウカに問いかけると、彼女はフルフルと首を横に振った。


「あそこは大衆向けの中でも探索者をメインターゲットにしている店なんだ。俺は過去に何度が行ったことがあるんだけど、かなり美味かったぞ。店自体はそこまで広いわけではないが、探索者をターゲットにしているだけあって、ボリューム満点な料理や疲労回復の効果がある食材を使った料理が多い印象だな」


 そよかぜ亭について軽く説明をしたところフウカが食いついた。

 相変わらずの表情ではあるが、目が興味津々といった具合にキラキラと光らせている。

 その表情を見た俺は、微笑ましく思いながらそよかぜ亭に到着するまでの道中で個人的に穴場だと思っている料理店についてフウカに語った。


  ◇


 目的地であるそよかぜ亭へと到着した俺たちが店の中に入ると、既に《翡翠の疾風》のメンバーが揃っていた。


「やぁ、待ってたよ。ようこそ、そよかぜ亭へ!」


 彼女たちが俺たちの到着に気づくと、エメラルドグリーンの髪をショートカットにしているボーイッシュな女性が代表して声を掛けてきた。

 彼女の名前はローレッタ・ウェイバー。

 《翡翠の疾風》のエースで、俺がこの前の武術大会の初戦で戦った人だ。


 ちなみに深層に到達した《翡翠の疾風》のパーティは全員が女性で構成されている。

 性別によって身体能力にはどうしても差が出てしまう中で、女性のみでの深層到達。

 並大抵の努力ではここまで来られていないはずだ。


 ……といっても、昨今は支援魔術が前提となっているから、戦闘面における男女の差は少しずつ無くなっているんだがな。

 実際に今の南の大迷宮における現役のSランク探索者は女性の方が多い。

 《夜天の銀兎》は五人中三人、《赤銅の晩霞》は四人中二人、《翡翠の疾風》は五人中五人が女性なのだから。

 あとは、この場に居ないけどルーナも女性のSランク探索者だ。


 それからみんなで軽く言葉を交わすとそれぞれ適当な席に着く。


「それでは改めて、今日は突然の招待にもかかわらず足を運んでくれてありがとう」


 全員が席に着くとローレッタさんが目立つ位置に移動してから挨拶を始める。


「交流会の件はウチのスポンサーが圧力を掛けていたみたいで申し訳ない。半強制的に交流会を設けるかたちになってしまったけど、スポンサーを笠に着て無理やり情報を引き出すようなことはしないとこの場で約束する。だけど、深層へと至った探索者同士で情報交換ができる機会は貴重なはずだから、私たちだけでなく《夜天の銀兎》や《赤銅の晩霞》にとっても今回の交流会が有意義な時間となるようにしたいと思っている」


 ローレッタさんは真っ直ぐな目で俺たちに語りかける。

 今回の交流会は、確かに俺たちにとってもプラスとなる要素はある。

 とはいえ、それ以上にマイナスが大きいのも事実だ。


 俺自身、面白くないという感情はあるが《翡翠の疾風》を責める気にはならない。

 今回の件について悪事をしていたわけではない。

 それだけ彼女たちは本気で大迷宮攻略を目指しているということだろう。

 交流会の場に俺たちを呼べるだけの力を持っていて、その力を行使しただけに過ぎないのだから。


「今日は無礼講(・・・)で行きたいと思っている。明日の交流会に向けてというのもあるけど、普段の立場は一旦抜きにしてみんなと仲を深めたいからね。セルマも大丈夫かな?」


 貴族の娘(・・・・)であるローレッタさんが同じく貴族の娘であるセルマさんに確認を取る。

 ローレッタさんはセルマさんに親しげに声をかけているが、彼女らは貴族院の同級生であり、お互い探索者であることからも卒業後も親しくしていると以前セルマさんから聞いた。


 貴族の人間が探索者をしていることもこの国では珍しくない。

 Sランクに到達できる探索者自体が稀だから、Sランク探索者になっている貴族は本当に少ないけどな。

 今はセルマさんとローレッタさんだけだし、過去にSランク探索者だった貴族も俺が知る限りでは片手で足りる程度の人数しかいない。


「あぁ、問題ない。私は貴族の娘だが、この場には《夜天の銀兎》の探索者として来ているつもりだからな」


 セルマさんの返答を受けたローレッタさんが満足気に頷くと、飲み物の入ったグラスを手にした。


「それじゃ、早速乾杯をしようか。料理と飲み物は既に行き渡っているかな?」


 ローレッタさんが挨拶を始めたタイミングで料理や飲み物が運ばれていた。

 俺たちもローレッタさんに続くように自分のところに置かれていたグラスを手にする。


「それでは、Sランクパーティが一堂に会した記念を祝して! ――乾杯!」


「「乾杯!!」」


 ローレッタさんの挨拶が終わり、懇親会が始まった。

 店内がそこまで広くないということもあって、参加者は二つのテーブルに分かれている。


 俺の居るところは六人で席を囲んでいる。

 俺の右隣りにフウカ、左隣にウィル、向かいにローレッタさん、その左右にハルトさんと《翡翠の疾風》のディフェンダーであるマライアさんという配置だ。


「そういえば、兎と赤銅のみんなに聞きたいことがあったんだ」


 当たり障りのない会話が一区切り付いたところでローレッタさんが口を開いた。


「聞きたいこと?」


「そう! 去年の二月くらいに当時のSランクパーティだった曙光、兎、赤銅の三パーティ合同で地上に現れたドラゴンを討伐したときのことについて」


「あー……、そんなこともあったな。そういや、まだあれから一年経ってないんだな。随分と昔の話って感じがするが」


 ローレッタさんの言葉にハルトさんが遠い目をしながら呟くように声を発した。

 

(共同討伐、か。懐かしいな)


 共同討伐は俺が《黄金の曙光》を追い出された直接の原因とも言える出来事だ。

 追い出されたことについては既に割り切っているし、今となっては嫌な思い出ではなくなっているけどな。


 しかし共同討伐のすぐ後にフィリー・カーペンターが曙光に加入したことや、《シクラメン教団》の人間が魔獣を従えていたことなどを思い返すと、あの一件は教団が裏で手を引いていたと考えられずにはいられない。


「だな。オレも随分と前の出来事って気がする。当時は《夜天の銀兎(ウチ)》が内部的に色々とバタついてたってこともあるんだろうが」


「確かにその後にオルン君が単騎で深層のフロアボスを倒したり、《勇者》が暴走したり、帝国の侵攻があったりと本当に色々あったからね」


 ハルトさんの呟きにウィルが同意すると、ローレッタさんが昨年の大きな出来事を挙げる。


「それで、ローレッタさんは共同討伐の何について聞きたいんですか?」


 俺が改めてローレッタさんに共同討伐について振ると、彼女は真剣な表情で口を開いた。


「うん、共同討伐については情報統制がされているでしょ? 探索者ギルドは国から独立した機関だから、スポンサーの伝手を使ってもその出来事については調べることができなかったんだ。だから色々と聞きたいことはあるんだけど、一番の疑問はなんでわざわざ(・・・・)パーティを三つも投入したのかなと思ってさ。話せる範囲で構わないけど、もしかして地上に現れたドラゴンは深層の魔獣なんかよりも強力だったのかい?」



最後までお読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] フィリーの存在を無視して国王がそれも侵略国に赴くってどゆこつ
[気になる点] 「今は」どうでもいいってことは直近の未来ではそう問題にならないってことかな?
[良い点] さて、どんな回答するのか楽しみな所でして。 [一言] 皆、誰しもそうですがリアルの環境が1番大事です。 無理されず、ご自愛くださいますよう。
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