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161.93層攻略① 第一部隊 VS. 白蛇

「……辿り着いたな」


 第一部隊が目的地へと到着したところで、セルマさんが呟く。


 俺たちは本日、南の大迷宮の九十三層を攻略すべく大迷宮へやってきた。

 そして事前に定めたルートを辿り、数時間ほどかけてボスエリアの扉の前まで到達した。


 今朝も九十二層の攻略に向かうときと同様に《夜天の銀兎》の団員たちから声援を受けたけど、その出来事が随分と昔のことに思えるほどに時間が通常よりも長く経過していると感じる。

 それも無理はない。

 九十一層ほどではないが九十三層も魔獣の数がかなり多い階層のため、戦闘は可能な限り避けるために常に周囲の警戒を怠っていなかったのだから。

 そのおかげもあって肉体的疲労はそこまででないが、精神的疲労は蓄積している。


「みんなお疲れ様。あまりのんびりもしてられないけど、今は準備をしながら気力を回復させよう。周囲の警戒はローテーションでいいよね、セルマ?」


「あぁ。それで問題ない」


 レインさんがしばしの休息を提案し、セルマさんがそれを承諾する。


「んじゃ、最初の警戒はオレがする。後衛陣はしっかり休んでおけよ。オルンもいいか?」


「うん、大丈夫」


 真っ先にウィルが周囲の警戒に名乗りを上げる。

 それから俺を指名してきたが、ウィルの考えはわかっているため特に断ることもなくボスエリアの扉から少し離れたところで周囲を警戒する。


「ついに九十三層攻略も佳境かー。最後まで気を抜かずに乗り切ろうぜ、オルン」


 周囲の警戒を維持しながらウィルが声を掛けてきた。


「そうだな。……ウィル、打ち合わせでも言ったけど今回の敵は今までとは毛色が違う。初っ端の作戦が嵌まればウィルにとっては更に戦いにくい状況になると思うけど、最後はウィルに頼ることになるはずだから」


「ははっ! わかってるって。どんな状況だろうがオレは全力を尽くすだけだ。オルンの方こそしくじるなよ?」


「あぁ。ウィルが最高の仕事ができるように舞台は俺が整える」


「頼もしいな。今回も頼りにしているぞ、エース」




 それから俺とウィルもつかの間の休息を挟み、最終準備として全員が防寒具を身に纏う。

 厚着をすると戦闘に差し支えることになるから塩梅が難しいけど、この程度の防寒具であれば戦闘に支障は無い。


「うぅ……、あつーい……。ジメジメするー……」


 防寒用の外套を羽織ったルクレが愚痴を零す。


 九十三層は熱帯地域を連想するほどに温暖な階層で、尚且つ湿度も高い。

 そんなところで防寒具を羽織れば非常に暑苦しくなるのは当然のこと。


 俺自身も今羽織っているコートは普段の七分袖から長袖に変わっていて、更に厚みのある生地となっていることも相まって熱がこもりやすくなっている。

 そのため何もしていなくても汗が出てきそうになる。


 それでも俺たちの作戦を遂行するなら厚着になっていた方が良いため、今回の戦いではこの装いとなっている。


「少しの我慢よ、ルクレ。集中力は切らさないでね」


「うん、それは大丈夫! レインさんも大変だと思うけど頼りにしてるよ!」


「えぇ。お姉ちゃんに任せなさい!」


 ルクレの言葉にレインさんは胸を張りながら意気揚々と声を発する。

 レインさんに気負いは感じられない。

 今回の戦闘ではレインさんが中軸となる可能性が高い。


 そのためいつも通りのお姉さん然とした雰囲気で居る彼女を見られて安心した。

 これなら大丈夫だろう。


「……全員準備はいいな?」


 セルマさんが俺たち全員に顔を向けて準備が整っているか確認してくる。

 俺たちはその問いに首を縦に振ることで応じる。


「では、行こうか。ボス退治だ!」


「「「「おぉ!!!!」」」」


  ◇


 俺が迷宮内とボスエリアを隔てる扉に触れると、ゆっくりとその扉が開き始める。


 その光景を見ながら「……ふぅ」と大きく息を吐く。


 それから氣を全身に巡らせて、


「――【封印解除(カルミネーション)】」


 俺を縛り付けているものを解き放つ。


 扉が開いてボスエリア内の様子が見られるようになったところで、即座に中の状況を確認する。


 約一年前、《黄金の曙光》で訪れたときと変わらない。

 地面には草が生い茂っていて、広い間隔を空けながら低木が何本も立っている。

 そして、ボスエリアの中心付近にそいつは居た。


 超巨大な丸太と見間違いそうなほどに太い胴体で地面を這い、三角形の頭の先端からは火が揺らめいているかのように赤く長い舌を出している巨大な魔獣――〝白蛇〟がとぐろを巻きながらこちらを睨んできていた。


「白蛇はボスエリアの中心にいる! 予定通り全員を跳ばすぞ!」


 いち早く状況を全員に伝えながら、澄んだ頭の中で最速で術式を構築する。

 俺の声を聞いた四人が白い短剣の形をした魔導具を取り出していることを傍目に確認しながら、俺も同じ短剣を出現させ、魔術を発動する。


「【空間跳躍(スペースリープ)】!」


 俺が発動した魔術により四人が瞬時に転移し、ボスエリアの外壁に沿うように等間隔で白蛇を囲うかたちとなる。


『よし、全員短剣を地面に突き刺せ!』


 セルマさんが【精神感応】を使用したことで、頭の中にセルマさんの声が響く。

 彼女の言葉の通り、全員が転移した直後に白い短剣を地面に突き刺す。


 ボスエリアの五か所に突き刺された短剣の柄の部分から冷気の白煙が勢いよく吹き出し、あっという間にボスエリア内が白煙に包まれる。


 直後、セルマさんの支援魔術によって体温が更に上がっていくことを感じていると、セルマさん、レインさん、ルクレの三人が魔術を発動したことで風が巻き起こり先ほどまでの蒸し暑さが嘘のようにボスエリア内の気温が一気に下がる。


 白蛇はヘビの魔獣だ。

 魔獣は地上にいる動物と同様の特徴を兼ね備えていることが多い。

 そこで爬虫類の天敵であるとも言える寒い空間を作り上げた。


 これは先日のシオンとの共闘から着想を得た作戦のため、《黄金の曙光》で討伐した際には行っていない。

 そのためフロアボスである白蛇に有効であるか不明であることや寒い空間となるとこちらの動きも鈍くなるといった、不安要素やデメリットも存在するがそれでもやる価値があると判断して実行した。


 俺たちがボスエリアに入ってから数秒ほど。

 未だに白蛇に大きな動きはない。

 そして風が止む頃には景色は一変していて、ボスエリア内は冬景色となっていた。


 さて、この作戦の有用性は如何に。


混沌の斬撃(カオスエッジ)!」


 白煙が晴れたところで、最初に動いたのはウィルだった。

 ウィルが双刃刀を振うと、様々な魔力が混在している斬撃が白蛇に襲いかかる。


 それに対する白蛇の反応は、俺が記憶しているものよりも鈍いものだった。


『ウロコに変化は無いが、反応は鈍くなっている。個体差の可能性もあるけどこのまま戦闘続行で問題ない』


 すぐさま今得た情報を全員に共有する。


『わかった。このまま戦闘を続ける。レイン、ルクレ攻撃開始だ! ウィルとオルンは可能な限りヘイトコントロールを頼む!』


『『了解!』』


『あいよ! オルン、あのヘビをぶっ叩くぞ!』


『あぁ!』


 セルマさんの指示に従って、レインさんとルクレが水系統や氷系統を中心とした魔術で白蛇に攻撃する。


 俺はシュヴァルツハーゼを【魔剣合一(オルトレーション)】で魔剣に変えながら、白蛇との距離を一気に詰める。


 白蛇が反応するよりも早くに剣の間合いまで迫った俺は、【瞬間的能力超上昇(インパクト)】と【重力操作】を併用した最大の斬撃を叩き込む。


 これで決着となるならそれに越したことが無いと考えて初撃から全力をぶつけたが、そう簡単にはいかない。


 白蛇のウロコは黒竜とは真逆と言えるものだ。

 黒竜が硬質的なものに対して白蛇は非常に軟質的と言える。

 俺の斬撃はまるで衝撃を吸収されたかのように力が逃がされるような感覚があった。

 軟質的でありながら頑丈である体表に対して、俺の最大の斬撃は大したダメージにはならなかった。


 更に攻撃を受け止められたことにより、俺の動きはその場で一瞬止まることになる。

 そんな隙を見逃してくれるほど生易しい相手ではない。

 白蛇の魔法によって、地面から先端の尖った幹が顔を出すとすごい速さで俺に迫ってきた。


「くっ!」


 即座に体勢を整え、魔力の足場を蹴って白蛇に離れながら急成長している幹の進路から逸れる。

 俺と白蛇の間に枝のない巨木が現れると、その幹には等間隔にいくつも穴が空いていた。

 その穴から先鋭な小枝が大量に撃ち出される。


「【伍ノ型(モント・フュンフ)】!」


 既に過去に見ていたためこの攻撃は予想できていた。

 難なく体を丸めて盾に身を隠すことで攻撃を凌ぐ。


「こっちを見やがれ、ヘビ野郎!」


 白蛇が俺の方へ意識を向けていた隙にウィルは眼前まで迫っており、その頭に双刃刀を振り下ろす。

 本来の白蛇であれば難なく躱せたであろうが、この寒い環境による身体能力の低下によって躱しきれずに直撃する。


 いくら衝撃を逃がしやすい体表であろうが、頭となれば全てを逃がすことはできない。

 俺の【瞬間的能力超上昇(インパクト)】を乗せたウィルの攻撃が、白蛇の頭を地面に叩きつける。


 しかし流石はフロアボスといったところだろう。

 白蛇が頭を地面に叩きつけられながらも、奴の尻尾が正確にウィルに襲いかかる。


 空中で身動きの取れないウィルでは躱すことができない。

 このままでは直撃し、かなりのダメージを負うことになる。


 だが、ウィルにとって攻撃を往なすことは朝飯前だ。

 それは身動きの取れない空中であろうと変わらない。


 身体能力の低下と俺の【重力操作】による妨害で鈍くなった尻尾の攻撃をウィルが難なく往なす。


 念話で【反射障壁リフレクティブ・ウォール】による離脱を提案し、ウィルが了承したため魔術を発動する。

 灰色の壁に触れた俺とウィルが白蛇と距離を取る。


 するとそれを待っていたかのように、レインさんとルクレの魔術による攻撃が再び白蛇に襲いかかる。



最後までお読みいただきありがとうございます。


2点ほどお知らせがあります!


1点目が本作のコミカライズ版第2巻が5月9日(月)に発売されます!

第2巻の表紙はソフィアとキャロラインの二人となっていて、第1巻同様素敵な表紙となっています。

中身もよねぞう先生の素敵な作画で描かれていますので、是非ともよろしくお願いします!

表紙イラストは活動報告で公開していますので、気になる方はご覧ください。


2点目のお知らせですが、本作をカクヨム様でも投稿することにしました。

一部修正を加えていたりエピソードを追加していたりしますので、時間がありましたら読み返しがてら覗いていただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927862983239368


お知らせは以上となります。

次話もお読みいただけると嬉しいです。


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