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16.【side勇者パーティ:オリヴァー】不安要素の無くなったパーティ

「初めまして。フィリー・カーペンターです。まさか勇者パーティの一員になれるとは、思っていませんでした。勧誘してもらえて大変光栄です」


 オルンをパーティから追放して二日が経った。


 オルンの後任として、彼女が今日から俺たちのパーティに加入することになる。

 これであの全能感を常に味わうことができる。


 フィリーは三カ月前まで西の大迷宮で活動をしていた探索者だ。

 だけど、別の探索者によって西の大迷宮は攻略され、魔獣が現れなくなった。

 そのため、より難易度が高いと言われている、南の大迷宮があるこの街に来たらしい。


 大迷宮は大陸に四つ存在するが、難易度は違う。

 四つとも全て百階層で構成されているらしいが、西と東には深層が無い。

 そのため深層がある南と北の方が攻略の難易度が高いと言われている。


「西の大迷宮を攻略できなかったとはいえ、百層まで到達した付与術士はフィリーだけなんだろ? そんな付与術士がパーティに入ってくれるなんて、こちらこそ光栄だ」


「だな! これで俺たちは更に南の大迷宮の攻略を進めることができるな!」


「一日でも早く皆さんのお力になれるよう、精一杯頑張らせていただきます!」


 今日が初顔合わせだったため、俺と盾役(デリック)魔術士(アネリ)、フィリーが屋敷のリビングに集まっている。

 ルーナは実家の用事があるということで、一昨日の迷宮探索が終わってから帰ってきていない。――と思っていたらリビングの扉が開き、ルーナが入ってきた。


「ただいま戻りました。……お客様ですか? 貴方たちが応対とは珍しいですね」


 これまで来客の応対はオルンがやっていた。

 オルンがパーティを抜けたことを知らないルーナの反応は当然のものだろう。

 客ではなく仲間だがな。


「まぁ、それは良いです。お客様が居る手前申し訳ありませんが、至急確認したいことがあります。少しだけ良いでしょうか?」


「あぁ、大丈夫だ。このまま話してくれ」


「え、ですが……」


 部外者が居るところで話したくない内容なのだろう。

 だが、フィリーはパーティメンバーだから聞かれても問題ない。

 タイミングを見てオルンが抜けたことを伝えないとな。


「問題ない」


「……そう、ですか。では、今朝オルンさんが《夜天の銀兎》のメンバーと一緒に大迷宮に潜ったという情報を耳にしたのですが、何故そんなことをしているんですか? 私は聞いていませんでしたが」


 オルンが《夜天の銀兎》と?

 早速《夜天の銀兎》に鞍替えしたのか?


「身の程をわきまえろって言ったのに、何でさっさと兎のところに行ってるのよ……!」


 俺が思考の海を漂っていると、隣に座っていたアネリが呟いた。

 どうやらかなりお怒りのようだ。


「ははは。全くだな。自分がまだSランクで通用してると思っているのかよ!」


 デリックもバカにしたような口調で、アネリに同意する。


 この場でその発言はしてほしくなかった。

 まだルーナには、オルンの件を話していない。


 勿論事前に追放させたいことは伝えていたけど、彼女はオルンの追放に反対していた。

 それを彼女がいない場で強行したのだ。彼女からの非難は避けられない。

 だからこそタイミングを見て話そうと思っていたのに……。


 思った通りルーナが怪訝な表情をしている。

 話がこじれる前に言った方がいいか。


「ルーナは知らないと思うけど、あの器用び――、オルンは一昨日パーティを抜けたわよ」


 俺が説明しようと思っていたのに、先にアネリに言われてしまった。


「は? オルンさんがパーティを抜けた? ついに私たちは見切りを付けられたってことですか?」


 ルーナは戸惑いを隠せない表情で、声を震わせながらそう呟く。


 ルーナの発言が(かん)()ったのか、デリックが大声を上げる。


「おい! なんで俺たちが捨てられたみたいな言い方をしやがるんだ? 逆だろうが! 常識的に考えて! 俺たちが! あの器用貧乏を! 追い出したんだ!!」


 その発言に表情を失くしたルーナが俺の方を向き、


「それは事実ですか?」


 問いかけてくる。


 背筋が凍ると思うほどの、心底冷たい声音だった。


「あ、あぁ。事実だ。それで彼女が新しくパーティに加入する付与術士だ」


 もうどうにもなれ! とやけくそになった俺はルーナにフィリーを紹介する。


「は、初めまして。フィリーと申します。よろしくお願いします!」


「……私は反対していたと思いますが、何故私が居ない間にこんなことになっているのですか?」


 ルーナはフィリーの自己紹介を無視して俺に問いかけてくる。


「おい! 新しい仲間がよろしく言ってるのに、無視してんじゃねぇよ!」


 デリックがルーナの態度をしかりつける。


 それに対しルーナはデリックを一瞥(いちべつ)するだけで、すぐに俺の方に視線を戻す。


「無視してんじゃねぇぞ! おら!」


 その態度が気に食わなかったデリックが、ルーナに掴みかかろうと席を立とうとしたため、咄嗟に肩を抑える。


「落ち着け、デリック! それはダメだ!」


 俺が抑えたことでデリックは舌打ちをするも、席に留まった。


「ルーナも分かっているだろ? オルンの実力ではこの先通用しないと」


 俺は諭すようにルーナに話しかける。


「…………わかりませんね。このパーティの中軸はオルンさんです。オルンさんが居たから私たちはここまで来れたんです。それに実力に関しても申し分無かったはずです。むしろオルンさんが居なければ、私たちはこれ以上先に進めません!」


 どうにもルーナはオルンのことを過大評価している節がある。

 ……恋は盲目とも言うし、仕方ないのかもしれないが。

 にしても、オルンのどこが良いんだ?


「さっきからうるさいわね! アンタの色眼鏡じゃあの器用貧乏は優秀なのかもしれないけど、世間であいつは評価されていないの! それにもう済んだことよ? 今更喚いたって変わらないの! 嫌でも飲み込みなさいよ!」


 ついにアネリが爆発した。

 アネリはオルンに個人的な恨みがあったし、この結果に満足しているはずだ。

 それをルーナが否定するのだから、アネリが怒るのも無理はない。

 確かにオルンはお節介が過ぎていたと、俺も思う。


「…………確かに、今更の話かもしれませんね……」


 ルーナが覇気のない声でそう呟くと、部屋を出て行こうとする。


「ルーナ、これから取材がある。出て行かれるのは困る」


 これから記者にフィリー加入の話をするのだ。

 今まではオルンが受け答えをしていた。

 それだけは役に立っていたあいつだけど、今はいない。

 であれば俺が受け答えをすることになるが、俺も慣れていないためルーナにも同席してほしかった。


 デリックとアネリはコミュニケーション能力に難があるしな……。


 俺の言葉を聞いたルーナは冷えきった目をこちらに向けてきた。


「取材、ですか? どうせフィリーさんの話ですよね? であれば、何も聞かされていない私は、居ても居なくても変わらないじゃないですか。今は一人にさせてください」


 そう告げるとルーナはリビングを後にした。

 階段を上る足音が聞こえたため、どうやら自室に行ったようだ。


「なんなの! あの態度! 感じ悪っ!」


「全くだ! あいつのオルン大好きって感じの言動には嫌気がさすぜ!」


 こいつらは思ったことを口に出しすぎだ。

 もう少し周りに気を配るってことをしてほしい。


「あ、あの……、私、ルーナさん? と仲良くできるでしょうか?」


 フィリーが今の俺たちの会話を聞いてルーナが気難しい人だと思ったようだ。


「それは大丈夫だと思うぞ。今は気が動転していたが、あいつは良いやつだからきっと仲良くなれるはずだ」


「そうですか。それを聞けて安心しました」


 あいつが抜けたことによる混乱は少しあったが、ルーナも時間が経てば、普段の調子を取り戻してくれるだろうし、そうすればこのパーティに不安要素は無くなる。


 俺は、勇者だ。

 一日でも早く大迷宮を攻略する義務がある。

 大陸中に俺の名前を(とどろ)かせるためにも!


最後までお読みいただきありがとうございます。


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で構いません。


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