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147.【sideルエリア】諦観

竜群を殲滅した三人が去った後、その場所には別の三人が佇んでいた。


 その内の一人である赤衣の少女ルエリア・イングロット――愛称はルエラ――が長剣を巧みに振るい、目の前にあった巨石を切り刻んでいる。

 斬られた巨石は音を立てて崩れていき、周囲に土煙が舞い上がった。


「にしても、あの三人はとんでもない強さでしたね~。あんなのと対峙したら僕なんか一瞬で死んでましたよ~。協力してくれてありがとうございました、フィリーさん」


 ルエラが巨石を取り除いている光景を見ながら、同じ顔をした赤衣の少年フレデリック・イングロット――愛称はフレッド――がこの場に居る最後の一人であるフィリー・カーペンターに間延びした口調で話しかける。


「礼には及ばないわ。今回の件はわたくしにもメリットのあることだったに過ぎないのだから」


 フレデリックとフィリーが会話をしていると、


「いやぁ、助かったよ、ルエラ。……それにしてもこの光景はすごいなぁ。ある意味で幻想的とも言えるかな」


 土煙の中からボロボロの服を着た無傷の男――オズウェル・マクラウドが現れる。

 それからオルンたちと竜群の戦闘の爪痕である、いくつものクレーターや凍結した地面などを見たオズウェルが感嘆の声を上げる。


 ルエリアがオズウェルに近づくと、新たな赤衣をオズウェルに手渡した。


「ありがとう。それで、あの三人は何処かに行っているのか?」


 赤衣を受け取ったオズウェルが、それを羽織りながらルエリアに問いかける。


「えぇ。フィリーのお陰で、三人ともここに帰ってくることは無いわよ、《博士》」


 ルエリアから《博士》と呼ばれたオズウェルが彼女の返答を聞くと、驚きの表情でフィリーの方へ視線を向ける。

 フィリーを視界に捉えたオズウェルが口を開く。


「これはこれは、《導者(どうしゃ)》じゃないか。手間を掛けた(・・・・・・)ようで悪かったね」


 オルンたちは、竜群との戦闘を終えたときにはオズウェルの存在を忘れていた(・・・・・)

 それはフィリーの異能である【認識改変】によるものだ。

 フィリーはオルンたちが竜群を殲滅している際に、異能を行使して少しずつ彼らの思考をオズウェルから別のものに逸らしていた。

 その結果、オルンたちはオズウェルを放置してそれぞれ次の目的地へと移動するに至ったのだ。


 そのことを瞬時に理解したオズウェルがフィリーに詫びを入れる。


「別に。今回は良い予行演習(・・・・)の機会だっただけのことよ。貴方を助けたのはそのついでに過ぎないわ」


「またそうやって憎まれ口を叩いちゃってさ。その性格は勿体ないと思うなぁ」


「……うるさいわね」


「まぁ、いいや。それにしても、半年前の件でわかっていたけど、《異能者の王》――オルン・ドゥーラを物理的に殺すのは既に不可能に近いねぇ。やっぱりあの時(・・・)に殺しておくべきだったんじゃない?」


「生かしておくことを決めたのはあの方よ。あの方の意を否定する気?」


「俺はベリアがどうなろうが知ったことではないってスタンスだしなぁ。俺は俺の目的のために力を貸しているに過ぎないし」


 飄々と答えるオズウェルの言葉にフィリーがしかめっ面をする。


「はぁ……、貴方も相変わらずのようね」


「まぁ、それは置いといて、実際のところどうするの? あれはもう教団の障害と言っても過言じゃないけど」


「……物理的に殺せなくても壊せるもの(・・・・・)はあるわ。それに、貴方にも何か考えがあるんじゃないの?」


「あ、わかっちゃう? 実は俺にも考えがあるんだよねぇ。物理的に殺すのが不可能に近いということは、つまり不可能ではないってことだ。いやぁ、不可能に挑むってのはやっぱり意欲が湧くねぇ。うんうん」


「その気持ちは全くわからないけど、その方法については後で聞かせてもらうわ。今は戻りましょう。何かの拍子で彼らが戻ってくるなんてこともあり得ない話ではないし、今回生じた誤差(・・)についても修正する必要があるわ」


「それもそうだね。ルエラとフレッドも帰るよ。俺たちの護衛よろしく」


「わかりました~」


 フィリーとオズウェルの会話を黙って聞いていたフレデリックが、声を掛けられるといつもの間延びした声で返事をする。


「了解。――ねぇ、《博士》」


 ルエラも同様に返答した後に、オズウェルに話しかける。


「何かな?」


「もしも、もしもよ? 処分したはずのキャロラインが生きていたとしたら、その時はどうするの?」


「……ん~、そうだねぇ。どうもしない、かな。もう彼女は用済みだし」


「……そう」 


 オズウェルの回答を聞いたルエリアが無表情を取り繕いながら小さな声で呟く。

 しかし、その表情は彼女を良く知る者が見れば、安堵した表情であるとすぐに見抜けるものだった。

 事実、実弟であるフレデリックにはルエリアの気持ちが手に取るように分かった。


 そして、ルエリアを実験対象(・・・・)として十年以上見てきたオズウェルの冷酷な瞳が、彼女の僅かな変化を捉えていた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

第四章も残り4話となりました。

オルン視点2話、シオン視点1話、フェリクス視点1話の予定です。


次話もお読みいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 処分したはずのキャロラインが生きていたいとしたら は 処分したはずのキャロラインが生きていたとしたら の 間違いかと思いました。勘違いだったらすみません。
[一言] うーん、敵の攻撃が陰湿になるルートになったみたいで、今後読んでて不快になりそうだな…
[一言] これはオルンの心(精神?)を破壊する方向にシフトする感じか? オルンに関わりのある周りの人間の方が今後危険になる可能性が高いな そうなると弟子やクランの人々、探索者たちの全体的な戦力向上が急…
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