14.反発
セルマさんが新人たちに声を掛け、教導探索二日目が始まった。
「オルンさん、実力不足で勇者パーティを追い出されたんですね。昨日は方向性の違いが原因とか言ってませんでしたか?」
迷宮に入ってすぐローガンから、バカにしているような口調で話しかけられる。
あぁ、昨日はめんどくさくて適当な理由言ったんだったな……。
変に見栄張らなければ、よかったかな……。
とはいえ、言っちゃったものはしょうがない。
「無駄口を叩いていないで集中しろ。ここの魔獣は昨日よりも厄介になっているぞ」
「上層程度の魔獣に僕が後れを取るわけがないじゃないですか。あぁ、実力不足の貴方では上層でも苦戦しちゃうんですね」
はぁ……。弱い犬ほど良く吠えるとは言うが、ここまで耳障りな鳴き声を発するとは。
そもそもあの記事だけで、俺よりローガンの方が実力があるなんて思わないでほしい。
「集中しろと言ったのが、聞こえなかったのか?」
「――っ!? ちっ、わかりましたよ!」
軽く殺気を込めながらもう一度注意すると、ようやく黙ってくれた。
大人げなかったか?
ローガンだけではなくキャロラインの俺に対する態度も、俺を見下しているかのようなものに変化していた。
このガキどもは本当に……。
二人の態度は気になるが、探索自体は順調に進み三十一層へと到達した。
ここから先の戦闘の指示は俺が出すことになる。ちゃんと従っては、くれないだろうなぁ……。
その懸念は的中した。
中層に入って第十班の最初の戦闘。
敵は前方にゴブリン五体、やや離れたところにオーク一体の構成。
「キャロラインはゴブリンを引き付けろ! ローガンはキャロラインに支援魔術、ソフィアは後ろのオークを片付けろ!」
「はっ! 消極的な指示ですね! キャロラインはオークを倒せ! 僕がゴブリンを処理する。ソフィアもゴブリンを一体倒してくれ」
ローガンが俺を無視してパーティに指示を出す。
なんだよ、その役割を無視した指示は……。
キャロラインがローガンの指示に従ったのか、それとも強い魔獣と戦いたかったのかはわからないが、ゴブリンを素通りしてオークへ突っ込む。
ローガンも宣言通りゴブリン四体を倒す。
ソフィアは二つの指示に混乱して何もできずにいた。
「ちっ! 役立たずが!」
ローガンがソフィアに悪態を付きながら、残りの一体も倒す。
キャロラインも少し時間が掛かったがオークを倒し、結果的に無傷で戦闘を終わらせた。
「……なんだ、今の戦いは?」
キャロラインが戻ってきたところで、第十班メンバーに声をかける。
近くにいるセルマさんも俺を止めようとはしていないため、このまま話を続けさせてもらう。
「何って僕たちなりの戦闘方法ですよ。誰一人傷を負うことなく終わらせました」
「今の戦い方が最善だったと?」
俺は怒鳴りたい気持ちを抑えながら、努めて冷静に話をする。
「えぇ。ゴブリン程度なら僕でも対処できます。であれば、強敵であるオークにキャロラインをぶつけるのは、おかしな判断ではないでしょう。オルンさんはセオリーってやつに執着しすぎなんですよ。そんなガチガチの頭じゃ迷宮探索はできませんよ? ああ、だからパーティを追い出されたんですね」
「……。仮に今のお前の戦い方が正しかったとしよう。事実、お前の言う通り負傷者は出てないわけだしな」
「ちゃんと僕の考えを理解できるとは、その素直さは評価できますね」
何様のつもりだ、こいつは。
「だが、お前の指示はダメだった」
「は? どこに間違いがあったって言うんです? 言いがかりはやめてください」
「お前はさっきソフィアをバカにしたな?」
「えぇ、ボクの指示も聞かずに突っ立ってたソフィアが悪いんですから」
「自分のミスを棚に上げて、よくそんなことが言えるな?」
「ボクの指示に問題はありませんでした。ちゃんとソフィアにもゴブリンを一体倒すように言ったじゃないですか!」
「そんな指示で理解できるのは、ストーリーを思い描いているお前だけだ。五体の内、どの四体をお前が倒し、どの一体をソフィアが倒すか、それが分からずに攻撃に移れるわけがないだろうが。事前に戦闘中に二人で集団を倒す場合、どっちが右から倒すかなどの打ち合わせをしているならともかく、それもなかったのであれば、さっきの指示はお粗末と言うほかないな」
「……っ」
悔しそうに睨んでくるが、言い返しては来ない。
「ローガン怒られてる~。あはは!」
俺に責められているローガンを見てキャロラインが笑う。
「お前もだ、キャロライン。なんでオークに突っ込んだ?」
「えー、だってゴブリンはローガンが倒せるって言ってたし、あたしは強い魔獣を殺したいの!」
「お前はディフェンダーだろ。パーティに入っているからには、自分の役割を全うしろ。その上で余裕があるならパーティに迷惑が掛からない範囲で、自由にする分には誰も文句は言わない」
「……はーい」
二人とも納得していないような表情を浮かべる。
今の言葉が二人に響いてくれればいいが。
「セルマさん、すいません、時間を取らせてしまって。探索を再開しましょう」
「わかった。では、再開するぞ!」
◇
今日の最終目的地である三十六層に到達した。
今日も全体的にはトラブルもなく、順調に進めた。
ただ、第十班の二人は、最後まで俺の指示には従わなかった。
これで多少でも苦戦してくれれば、俺の話も聞いてくれるようになるかもしれない。しかし、なまじ個々の能力が高いから、中層に入ってからも苦戦らしい苦戦はしていなかった。
大迷宮から帰還するとセルマさんが解散の声掛けをし、今日は終了となった。
帰ろうとする第十班メンバーを呼び止める。
「お前らが、俺の指示に従いたくないというという気持ちは十分に伝わっている。だけど、これはクランの作戦だ。お前らはクランの団員で、俺はクランに雇われた探索者。あと一日で終わりなんだから、明日は俺の指示に従ってくれないか?」
正直こんなガキどもなんて放っておきたいが、《夜天の銀兎》から正式に依頼を受けている以上、報酬分の働きはしないといけない。
「はぁ……。実力不足でパーティを追い出されるような人に教わることなんてありませんよ。事実あなたの指示では無駄に時間を使うだけじゃないですか」
ローガンが心底あきれたかのように声を発する。
「じゃあ、無駄かどうか、一度俺の指示通りに動いてから判断してくれ」
「聞く前からわかっているんですよ。わざわざ無駄なことをすることはありません」
なんでこいつはこんなに反抗的なんだ?
まさか本当に、俺より自分の方が強いと思っているのか?
だったらこいつの傲慢な性格的に反抗的な態度も納得だけど、どういう思考回路をしていれば、俺より強いって結論に至ったんだ……。
「わ、私はオルンさんの指示に従った方が、良いと思うな……」
「ソフィアは黙って。今日だって新人パーティで唯一、一度も負けませんでした。探索者は結果が全てなんです! だからボクの指示は間違っていません」
「確かに結果が全てだ。その意見には同意する。だが、お前たちにはまだ余裕があるはずだ。余裕があるなら内容も求めていいんじゃないか? 色んなことを試してみろよ。答えは一つじゃないんだから」
「……っ! うるさいな! パーティを追い出されるような弱いやつに指図されたくないんだよ!!」
ついにローガンが爆発した。
どうやら俺が何を言っても、こいつには俺の言葉は届かないようだ。
ここまでやったんだ。もう十分だよな?
「ローガン、いい加減にしろ」
流石に見過ごせなくなったのか、セルマさんが介入してくる。
セルマさんが介入してくることが予想外だったのか、ローガンがかなり怯んでいる。
「――っ。……失礼します」
ローガンはそれ以上何も言わずに去っていった。
キャロラインはそれに付いて行く。
ソフィアはおろおろしていたが、セルマさんがローガンを追いかけるように言ったため、ソフィアも二人の後を追う。
「すまないな、オルン。まさかローガンがあそこまで拗らせているとは……」
セルマさんが謝罪をしてきたため、気にしてないことを伝える。
「ありがとう。明日はオルンの指示に従うように、あとできつく言い含めておく」
「その必要は無いですよ」
「……何故だ?」
「説教すれば最悪の場合、明日の探索に影響が出ます。なので、やるなら教導探索が終わってからにしてください。とりあえず、明日は死なない程度にはフォローしますんで」
「…………オルン、ローガンは私たちの大切な仲間なんだ。図々しいお願いであることはわかっているが、傷つく前には助けてあげて欲しい。精神的なフォローはこちらでするから。頼む」
正直ローガンが死のうがどうでもいいが、セルマさんにここまで頼まれれば断れないな。
「……わかりました。ただ、戦闘は自由にやりたいみたいなんで、勝手にやらせます」
「……あぁ。それでいい」
セルマさんとの会話も終わったため、帰ろうとしていると、
「よぉオルン、ちょっといいか?」
声を掛けられ、声のあった方を向くと、引率者であるディフェンダーの二人がいた。
次はこの二人にいちゃもんを付けられるのか、と思い辟易する。
「……何ですか?」
「……なんかお疲れだな。いや、夕飯でも一緒にどうかな、と思ってな。どう? 飲みに行かないか?」
いちゃもんではなく、食事の誘いだった。
今は一人でいてもあまり良い状態ではないだろうし、行くのも一興かと考えて、一緒に食事に行くことになった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で構いません。
また、ブックマークもしていただけると嬉しいです。
是非ともよろしくお願いします!