13.悪意ある報道
「やっぱり、こう来るか……」
教導探索二日目の朝、俺は日課である新聞を読んでいた。
その新聞の一面には、勇者パーティの付与術士が交代したことが書かれていた。
内容はこうだ。
『勇者パーティが昨日付与術士を交代させたという情報が入った。
独占取材をすることができた我々が、その時のインタビューで得た情報をこの紙面に書き記す。
まず、付与術士が交代となった最大の要因は、前任者であるオルン・ドゥーラの実力不足であった。
勇者パーティのリーダー、剣聖オリヴァーも付与術士が迷宮攻略に必要不可欠な存在であることは理解していたため、これまで付与術士としてオルン・ドゥーラをパーティに加入させていた。
しかし、剣聖オリヴァーはオルン・ドゥーラの実力が平均的な付与術士よりも更に低いことを知らなかった。
つまり、勇者パーティはそのような実力不足の付与術士をパーティに入れながらも、前人未到の南の大迷宮九十四層到達という偉業を成したことになる。
昨日より新たに加入したフィリー・カーペンターは西の大迷宮で活動していた探索者だ。
その実力は〝大陸最高の付与術士〟と謳われている、《夜天の銀兎》のセルマ・クローデルに迫るものであるらしい。
新たな仲間を加えた勇者パーティの更なる大迷宮攻略に、否が応でも期待が膨らんでしまう』
この記事を書いている出版社は、勇者パーティのスポンサーと太いパイプを持っているため、勇者パーティの情報はこの出版社が事実上独占している。
だからって、流石にここまで俺を貶めなくてもいい気がするんだが……。
他にも大手と呼ばれている出版社が二つほどある。
両社とも勇者パーティの情報は取り扱っておらず、他のクランやパーティの動向をメインに書かれている。
「せめて教導探索が終わるまでは、待ってほしかったな」
昨日の新人たちの俺に向けてきていた羨望の眼差しが、侮蔑に変わるだろうな。
特に第十班のローガン、今日から行く中層では俺が指揮を執ることになるが、自尊心の高いあいつが俺の指示に従ってくれるかどうか……。
「はぁ、考えても仕方ない。とりあえず、広場に行くか」
◇
「オルンさん!」
集合場所に向かって歩いていると後ろから声を掛けられた。
振り返るとそこには、腰まで伸びた藍色の髪が似合う美少女がいた。
彼女の名前はルーナ・フロックハート。勇者パーティに所属しているサポーターだ。
勇者パーティにいた頃、メンバーの俺に対する扱いが徐々に悪くなっていく中で、彼女だけは昔と変わらずに接してくれていた。
俺がパーティを追い出された時は実家に用事があったらしく、勇者パーティで借りている屋敷にはいなかった。
あの場にルーナが居れば、もしかしたら俺は追い出されていなかったかもしれない。
とはいえ、ルーナがいないあのタイミングだからオリヴァーも切り出したんだろうし、結果的には早いか遅いかの問題でしかなかっただろう。
なんかこんな言い方だと、まだ勇者パーティに未練があるみたいだな……。
もう割り切ってるはずなんだが。
「久しぶり、ですね。オルンさん」
「……そうだな」
実際にはまだ四日しか経っていないが、すごく久しぶりにルーナの顔を見た気がする。
「すいません、これから大迷宮に潜るというところで声を掛けてしまって」
どうやらルーナは俺が《夜天の銀兎》に協力していることを知っているようだ。
まぁ《夜天の銀兎》関連の情報ならすぐに集まるか。
オリヴァー辺りからいちゃもんを付けられるかもとか思っていたが、あの記事を見る限り俺なんか眼中に無さそうだし、余計な心配だった気がする。
「いや、大丈夫だ。それで何か用か?」
「その……」
ルーナが視線を下げながら一瞬言いよどむが、視線を俺の方へ戻す。
「オルンさん、私たちのパーティに戻ってきてくれませんか? 私たちにはオルンさんの力が必要なんです!」
なんとなくそう言ってくるんじゃないかとは思っていた。彼女は俺のことを高く買っていてくれたから。
「……それはパーティの総意か? 朝の記事を見る限りそうとは思えないが」
「私の、独断です……。でも! オルンさんが戻ってきてくれるなら、私が全力でみんなを説得します!」
彼女の目は真剣だった。本気で仲間を説得するつもりなんだろう。
――でも、もう色々と遅い。
「あんな記事が出回った時点で俺が戻るなんて不可能だろ。それに、俺自身もう戻る気がない」
「そんな……、約束したじゃないですか! 一緒に大迷宮を攻略しようと!」
「それは俺とお前とオリヴァーの三人で交わした約束だ。そのオリヴァーが俺を追い出したんだから、その約束はとっくに無効になってる」
「それは、そうかもしれませんが……」
「……悪いな。時間に遅れるから、もう行く」
少々強引ではあったが、これ以上食い下がられても面倒なため、ルーナに背を向けて広場へと向かう。
◇
広場に着くと新人たちが俺の方へ視線を向けてくる。
ただその視線は昨日の羨望のようなものではなく、戸惑いを孕んでいた。
昨日あれだけ期待感を煽られて、今朝の記事だもんな。
新人たちが戸惑うのも仕方ない。
「オルン、すまない」
いつの間にか隣にきていたセルマさんに謝られる。
「セルマさんが謝ることなんて何一つないでしょう」
「しかし、昨日あれだけお前をダシにして新人たちを煽ったのだ。彼らの反応はその反動によるものが大きいだろう」
いつも自信満々な姿を見せていたセルマさんが、弱っているような姿になっている。
相当気に病んでいるようだ。
「そんなんじゃ教導探索を失敗しちゃいますよ。きちんとサポートするんで、堂々としていてください。その方がセルマさんらしいです」
「……ふっ、言ってくれるじゃないか。お前にそこまで言われるとはな。では、私は今日もいつも通りにやっていく。サポートは任せたぞ」
調子を取り戻したようで、セルマさんから力強い声が発せられる。
やっぱりこっちの方がセルマさんらしいな。
「えぇ、お任せを」
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