10.緊張をほぐす方法
翌朝、集合場所である大迷宮の入り口から少し離れた広場に向かうと、既にかなりの人数が集まっていた。
そのほとんどが未だ成人になっていない子どもだ。
中には十歳にも満たない子どももいる。流石に十歳以下は不参加でいいだろうに。
これもバカ貴族の指示か?
子どもたちは全員緊張しているのか顔がこわばっている。
「おはよう、オルン。何でそんな離れたところにいるんだ?」
少し離れたところで待機していると、セルマさんが近づいてきた
「おはようございます。一応部外者ですし、みんなが似たような服装をしているところに俺が混じれば、更に新人たちの不安を煽ることになるかな、と」
《夜天の銀兎》に所属している探索者は、着ている服は様々だが色合いは黒と青を基調としたもので統一している。
流石に新人はロールごとに決まった服を着用しているが、以前見かけたこのクランのAランクパーティは個性を感じる服装をしていた。
目の前にいるセルマさんも、《夜天の銀兎》の紋章が刺繍されている黒と青を基調としたローブを着ている。
そういえば、新人の魔術士が着ている服は、この前ソフィアが着ていたものとは違うな。セルマの妹だからってことで特別に支給されたのか?
「ははは! 確かに新人は皆ガチガチに固まっているな。さて、新人の緊張をほぐすために早速力を借りるぞ。付いて来てくれ」
セルマさんが何かを企んでいるような表情をしながら、すたすたと歩いていく。
え、俺なにやらされるの!?
付いて行かないわけにもいかず、セルマさんの後を追った。
セルマさんが向かった先には他の探索者が三人いた。恐らく引率者だろう。
恰好から見るに男性二人はディフェンダー、女性の方は回復術士だろうか?
多分年齢は全員二十代前半だと思う。
「三人とも、おはよう」
「「「おはようございます」」」
セルマさんが三人に挨拶をして、三人もそれに応える。
「三人には先に紹介しておく、彼が昨日通達した協力者のオルンだ。実力は私が保証する」
「……セルマさんのお墨付きですか。それは期待できそうですね」
ディフェンダーの一人が俺に品定めするような視線を向けながらそう言ってきた。
セルマさんのことだから俺のことを元勇者パーティのメンバーだと言っていると思ったが、そんなことはないようだ。
「ああ、大いに期待してくれていいぞ」
セルマさんが煽ってくる。
そこまで期待をかけられても困る。
「ハードルを上げないでください……。初めまして。オルンです。ポジションは前衛アタッカー、宜しくお願いします」
俺が3人に自己紹介すると三人も自己紹介をしてくれた。
俺の予想通り男性の二人はディフェンダー、女性の方が回復術士だった。
引率者はバランスの取れた構成になっているな。
というより、俺が付与術士として参加してたら、誰が攻撃役をやるんだ?
中層までのフロアボスならAランクのディフェンダーでも、ダメージを与えられるけど、本職にはほど遠いだろうに。
本当にこの計画は不安しかない……。
可能な限りフォローしないとな。
「それでは、四人とも三日間よろしく頼む! さて、それじゃあ、新人たちにも挨拶しないとな」
俺たち5人は新人が集まっている場所へと向かう。
「諸君! おはよう! 以前より連絡をしていた通り、本日より大迷宮の五十一層を目指す!」
俺たちは一段高い石畳に登ると新人全員を見渡すことができた。
そしてセルマさんが新人たち全員に語りかける。
セルマさんの声を聞いた探索者たちは、全員がセルマさんを注目した。
さっきまで話していた子供たちもいるのに、ちゃんと教育されているんだな。
「ふっ、みんな表情が硬いな。やはりいきなり中層まで行くのは怖いか? だが安心しろ! 今回の全体の指揮を執るのは大陸最高の付与術士であるこの私だ。更に不測の事態に備えて強力な助っ人も用意した。紹介しよう、彼の名前はオルン。彼は私たちですら到達していない九十四層に到達している探索者だ! どうだ? 五十一層まで行ける気になってきただろう?」
黙ってセルマさんの話を聞いていた新人たちがざわめきだす。
緊張をほぐすってこういうことかああああ!?
ほら! 引率者の三人も口をポカンと開けてるし!
絶対面白半分で言ってなかっただろ!?
「彼は既に勇者パーティを脱退しているが、ここにいる誰よりも大迷宮に詳しい。では、迷宮探索を始めようか」
セルマさんの掛け声に新人たちは元気よく「「おお!」」と声を上げる。
「十分後に大迷宮へ移動する、各自パーティ単位で列になって待機していてくれ!」
セルマさんが『言いたいことを全部言った』と言わんばかりの満足気な表情で石畳を降りる。
勘弁してくれ……。
◇
「さて、引率者は最終確認をするぞ」
全員が石畳を降りて一か所に集まる。
「す、すいません。先ほどは失礼な態度を取りました」
さっき品定めするような視線を向けてきていたディフェンダーの人が謝ってきた。
「いえ、気にしてませんよ。それと俺の方が年下なので、敬語はいりません。普通に話してください」
「そ、そうか。わかった。それにしても勇者パーティの人間がうちの作戦に協力して大丈夫なのか?」
「元、ですよ。もう勇者パーティには所属していないので問題ありません」
「話しているところ悪いが、時間も迫っている。最終確認を始めるぞ」
セルマさんの一声で三人の雰囲気が緊張感のあるものに変わった。
最終確認は昨日教えてもらった内容と変わっていない。
俺が担当するのは第九班と第十班になった。
最終確認を終えて、引率者は自分が担当する新人パーティの元へと向かう。
俺も向かおうとしたところで、セルマさんに声を掛けられた。
「第十班は期待の新人たちだ。パーティとしての連携を磨けば、中層でも難なくやっていける実力を持ったメンバー達だ。指導をよろしく頼む」
そんな期待の新人をよそ者に託すなよ……。
「……わかりました。できる限りのことはやってみます」
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