夜が苦手なドラキュラさんと、朝が苦手なお姫さま。
森の奥深くにポツンと一つそびえ立つ、やけに古臭い屋敷にはドラキュラが住んでおりました。
夜な夜なお城から誘拐したお姫様の血をすすり、声を高らかにして恐怖を植え付けているのです──
「……吾輩眠い」
「だーっ! 起きろ! 寝 る な ー !! さっさと私の血を吸って元気出せー!!!!」
お姫様の首筋に齧り付いたまま眠っているのは、屋敷の主、ドラキュラ様です。
「ちょっ! ヨダレ! ヨダレ垂れてる!!」
そして今齧られながらとても元気に騒いでいるのは、遠く離れたお城のお姫様であります。
「……Zzz」
──バシバシッ!!
「む~……あと5分…………」
「起きろォォ!!!!」
お姫様がドラキュラ様のみぞおちに拳をめり込ませると、その痛みでようやくドラキュラ様の目が覚めました。
「ぐぐ……痛い。痛いが目が覚めた」
「まったく、毎日毎日起こす方の身にもなってよね!?」
「すまない」
目覚めスッキリなドラキュラ様がマントを格好良く靡かせてポーズを決めました。
「では、早速其方に恐怖を差し上げよう」
「ほいきた!」
お姫様は大理石のテーブルにノートと鉛筆を置き、ふかふかの椅子に座って『気合』と書かれた鉢巻きを締めました。
「7×6=?」
ドラキュラ様が渾身の悩ましいポーズでお姫様を指差しました。するとお姫様は眉をひそめて悩ましいポーズで答えました。
「よんじゅうぅぅ……に!!」
「んー…………ふぁいなるあんさぁ?」
ドラキュラ様が両手を広げ最後に問い掛けます。
「ふぁいなるあんさー!」
お姫様は迷いが吹っ切れたのか、清々しい顔で答えました。
「正解!!」
「ウシッ!」
ビシッとお姫様を指差すドラキュラ様と、ガッツポーズを決めるお姫様。そうです、二人は夜な夜な勉強をしていたのです。
正確には壊滅的に勉強が苦手なお姫様に、ドラキュラ様が頑張って勉強を教えているのですが…………。
話せば長くはなるのですが、ドラキュラ様がお城で一番美しいお姫様を誘拐し、お姫様と引き換えで国宝である宝玉を要求したら、なんと「アホの子なので要りません。そのままお持ち帰り下さい」と断られたのであります。
それを知ったお姫様は大激怒。一生懸命勉強してお城の人達を見返してやろうと言う訳であります。
「よしっ、次よ、次!」
「…………Zzz」
「寝るなー!!!!」
しかしこのドラキュラ様、どう言う訳か夜が苦手でして、夜な夜な無理矢理お姫様に起こされて勉強に付き合わされているのであります。
──コケコッコー!!
「む! ヤバいわ! もう朝よ!」
「Zz……。む! 朝か!?」
ドラキュラ様の目が完全に覚めて活動の時間が始まりました。
「おい! 起きろ!! 血を吸わせろ!!」
ドラキュラ様が大理石のテーブルに突っ伏したお姫様の肩を揺さぶりますが、お姫様はまるで起きません。
「……だめ……朝は低血圧で死にそうなの…………」
ドラキュラ様がお姫様の首筋に齧り付きますが、低血圧故に血が全然出て来ません。
「ぬおー!! 腹が減って死にそうだァァ!!」
「あー……頭痛いから耳元で騒がないでよ…………」
こうして、ちぐはぐな二人は、今日も仲良く屋敷で暮らしておりましたとさ♪