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1-5 金髪ロリ女神と聖なる泉


「水、汲んできたよ!」


半魚人に注意しながら汲んだ水入りのバケツの一つを、囲炉裏の近くで待機しているフィーナに渡す。


「・・・すいません」


出会ってからまだ半日だが、フィーナは今までで一番元気がない状態だった。


「あの、ゲンキさん、お怪我は・・大丈夫でしたか」

「あぁ、あんなの全然平気だよ。楽勝楽勝」


モンスターと取っ組み合いをしているから無傷ってことはないけれど、減ったライフは既に回復していた。


「本当に、ありがとうございます」


彼女は深々と頭を下げる。


「だからそんな気にしないでいーんだって」

「気にします!命を助けて頂きました。このご恩は何に変えても、必ず返させて頂きます!」


こんなに恩に感じてもらえるなんて、助けた甲斐があるというものだ。

でも、女の子が気軽に何でも、と言うのは感心できないなぁ。


「そんなに気にしないでいいんだって。もともと手伝い頼んだのは俺なんだから」

「いえ・・・それでも・・・」

「そういうのは本当大丈夫だからさ。俺、隣の部屋にいるから、なんかあれば呼んでよ」


俺は片足を上げて、両腕を振って駆け出しているポーズを取って宣言する。


「すぐ!駆け付けるからさ!」

「・・・はい」


フィーナは少しだけニコリと笑顔を見せてくれた。

その笑顔が見れたなら、ちょっと奇行をしてみた甲斐があるってもんだ。

ほっこりとした気持ちで隣室へと移動する。


隣室は暗かった。

このログハウス内の光源はフィーナの近くにある焚き火だけだから、当然といえば当然だ。

ただこの暗闇でも俺自身の視界は特別悪いわけではなく、むしろ良好でさえある。

色や細かいパーツなどは見分けられないが、どこに何があるかはわかるから視界不良のストレスはない。

しかしこの暗さが先ほどのモンスターの襲撃を許してしまった可能性は否めない。

フィーナに対して、申し訳ない気持ちが湧いてくる。

俺のアイテムウィンドには焚き火の予備がいくつかあった。

つまり俺が最初に室内の各所に火を掛けておけば、回避できた惨事だったかもしれないのだ。

アイテムを手に持ち、俺は遣る瀬無い気持ちで部屋に焚き火を設置する。

パッと部屋が明るくなり、よく見えるようになる。

モンスターが襲撃してきた壁の場所。

その時に散らばった壁の破片。

そしてもう少し手前に、女神の泉。


「・・・・」


女神の泉。

それは古い伝承の中で実しやかに語られる伝説の泉。

女神様が地上に降臨される際の僅かな間に湧き出す、奇蹟の雫。

曰く、万病を直し、どのような傷も立ち所に癒す妙薬であり、

曰く、老人にも幼子のごとき活力を与え不老不死とする生命の塊であり、

曰く、数多の賢者や錬金術師が求めた至高の聖なるアイテムである。

らしい。


今・・・・・。

今・・・・・。

その伝説が俺の目の前に・・・ある・・・だと・・・!?

・・・・俄かには信じ難い。


全身フサフサの狼男だが、頬に冷や汗が伝う気がする。

そんなレジェンドランクのアーティファクトが、俺の作りかけのログハウスの中でエンカウントできるだと!?

いやいや、落ち着け、落ち着け、落ち着くんだ俺。

落ち着いてよく考えろ、よく考えろよ。

こういう時はまず何をする!?

俺の心の中の名探偵がパイプを片手にキリリと閃く。

まずは・・・。


「まずは・・・現場検証・・・か?」


ひょっとしたら俺の脳細胞は死滅して全て灰色になっているのかもしれない。


だが本当に本物の女神の泉なのかを本気で本確認することは本来おかしくないハズですのだ!

それにこれはゲーム内の出来事だ。

確かに現実であれば御用となって警察に後ろ手に縛り上げられる案件であろうかもしれない。

だが仮想空間であるからこその無秩序的な開放感。

それに好奇心と知的探究心が三位一体悪魔合成を果たし、検証できる謎が目の前にあるのだからやはり人間は前に進まなければならないのダです!


俺は恐る恐る、ふらふらとした足取りで泉に近づいていく。

それはまるで一つの神秘に迫る探検家のように。

いやさ、たった一つの真実見抜く名探偵のように。

俺は片膝をついて泉をじっくりと凝視する。

貼り付けたばかりの床は水を弾いているようで、まだ泉は十分な水量を讃えている。

こんな時、俺の知る名探偵は何をした。

そうだ、青酸カリかどうかを確認したんだ!

確認方法?

そんなの決まっているだろう。

神秘を解き明かすために、俺は右手を伸ばしーーー。


「な、何をされてるんですか・・・!」

「え・・・!?」


振り返ると隣の部屋から半身を出して俺を見つめている半裸の女神様。いや、フィーナ。

その表情はどこか信じられないものを見るような抉るような視線。

一部の層には実に受けの良さそうなキツイ目線で、いやぁ、本当にdreamsの豊かな感情表現には驚かされてばかりですね。


「何をされてるんですかっ」


少し語気を強めて同じ質問をされる。

俺は冷や汗がドワっと出て、目線が定まらなくなる。


「あー、いや、その、なんていうかその・・・そ、掃除?掃除しようと思って?」

「私が後でやります!それにゲンキさん、タオルも持ってないのに掃除とか変じゃないですか!?」

「えーっと、あーっとぉ・・・」


うーん、痛い所を突いてくる。

確かに俺は手ぶらだ。

これで掃除というには無理があるだろう。

だが、探究心だけは誰よりもあるつもりだ。

つまり俺は自分の頭の中にある疑問を掃除するためにだねお嬢ちゃん。


「それに今、その、さ・・・触ろうとしてませんでしたか!?それって変態ですよね!」

「うぅ〜んっとぉ・・・」


素晴らしい。

確かな洞察に基づく鋭い指摘。

完璧だ。

私は譲るべきだろう。

もう、君が名探偵で俺が犯人です。

はい、そうです。自首します。


「ご、ごめんなさい・・・!ちょっと、触ってみようとしていました・・・」

「信じられないです!最低です!そんなの触ってどうするつもりなんですか!」


やめるんだフィーナくん。

それ以上先は君が踏み込むべき領域じゃないんだ。

いくら君が名探偵であろうと、こんな世界を垣間見てはいけないんだ。


「ごめんフィーナ!ほんの出来心なんだ!」


俺は床に頭を擦り付けんばかりの勢いで謝罪を表明して、微妙に論点をズラした。

わかってくれとは言わないが、これがフィーナのためになる!


「で、出来心なら何しても良いんですか!それってゲンキさんは出来心次第で私を食べてしまうかもしれないってことですか!?」


それは!?

性的な意味で!?

いや、ダメだ、流石にまだ若すぎるよ。

もう少し大きくなったらもう一度今のセリフをお願いします。


「どうなんですか!」


俺の思考が飛んで黙り込んでいる間に追撃が来てしまった。

やばい、会話のスピード感がリアルじみてて半端じゃない。

元々会話がそんな得意じゃないからいつもシングルプレイで遊んでるのに、クラフターズってこんなに対話スキルが求められるものなの!?


「そんなことしないよ!俺は紳士だから!」

「・・・?紳士でも狼さんだから人を食べるんじゃないんですか!?」

「違う。狼でも紳士だから、変態でもないし人間を食べるなんてことは絶対にしないよ!」

「?でもさっきは変態でしたよねっ?」

「う・・・はい」

「つまり紳士は出来心で変態になるということですかっ?」

「あ・・・はい・・・」

「それって紳士と変態とで何か違う所ってあるんですかっ!?」


何も何処も違いませんね!


「うわぁああ、もう勘弁して下さい金髪ロリ女神様ァァァ!」

「金髪ロ・・・!?何ですかその呼び方はー!!!」


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