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1-21 不敗の狼


「・・・死ぬまでって、言い方が穏やかじゃないな・・・」

「死ぬぅ言うてるんちゃいますで。・・・でも、帰ろうとするなら良くない事もあるかもしれんのでんがな・・・」

「良くないことって・・・結局死ぬかもって言ってるんじゃないのか?」

「・・・まあ、そうかもしれませんが・・・」

「どう言うことなんだよ・・・?」


俺はテンに詰め寄りたくなる気持ちを抑えながら、なるべく冷静に確認する。


「ゲンキはんはご存知ないみたいですけど、『上』から『下』へ行くためにはいくつか危険があるんでんがな〜。そのハードルが高すぎるから、帰ろうとするのは厳しいと思うんでんがな・・・」

「またそれか。うえした、うえしたって、一体何のことなんだ?」

「そのままでんがな〜。ここはものすごく高い場所にあるんでんがな〜。だから人間が住む場所はものすごく『下』なんでんがな〜」

「つまり、山頂と麓みたいな、高低差があるってことか?」

「まぁ〜、そうでんがな〜」


ここは見た感じ高地にあるような印象はなかったが、そう言うことなら話はわかる。

とはいえ、ギュードトンから逃げてる時に崖へ飛び降りたりもしているから、現実だったらそこまでの高低差のある地形はないだろう。


まあ、『クラフターズ』は現実世界の物理法則なんて関係ないのだから、気圧や気温も気にする必要はない。

だからさらに『下』がある事も可能なのかもしれないが、問題はそれがどれほど『下』なのかだろう。


「それなら頑張って下山すればいいってことだよな?」

「うーん、それが、そう言うわけにも行かないんでんがな・・・」

「何でさ?」

「理由は二つありまんがな。一つはここが『上』すぎるためです〜」


やはり相当の高低差があるのだろう。

だが逆に考えると、それなら大きな問題ではないとも言える。

ゲームに対する根気に関しては自信がある。


「それって時間を掛けて山を下れば解決できることだろ?なら大丈夫だ。こっちはそんなに急いじゃいないからな!」

「・・・まぁ、そっちはアテもお手伝いできるからええでっしゃろ〜」

「テンも手伝ってくれるのか?」

「乗り掛かった船でんがな〜」

「そっかサンキュー!」


俺はテンの頭を強引にガシガシと撫でる。


「で・で・で・でんがな〜っ」


俺が撫でる度になんとも言えない声を上げて喜んでくれた。

俺に話しかけてきたこともそうだし、今回も無償で手伝ってくれると言うあたり、テンは本当に優しい妖精なのだろう。


「それで、もう一個の問題っていうのは?」

「こっちがとびきりやっかいでっせ。下に行く道の途中には、とっっっっっても強いモンスターがおりまんねん!」

「そ、そうなのか・・・?」

「その名も・・・ゴドゥ!!」

「ゴドゥ・・・か」

「それはそれは身の毛もよだつ化け物でんがな」

「そうなのか・・・」

「あっ、なんか反応薄いでんがな?嘘じゃないでんがな?ゲンキさんなんて一発で殺されまんがな!イチコロでおまんがな!?」


特徴的な出っ歯が俺の顔に当たりそうなぐらいにぐいぐいと顔に寄ってくるテン。

迫り来るテンの体を押さえてどうにか距離を保つ。


「う、疑ってる訳じゃないって」


今更テンを疑うことはない。

だが、俺としても黄色い出っ歯の妖精に凄まれても、今ひとつ迫力不足というか、ちょっと面白要素入って真面目に受け止め切れないって言うか・・・。


「ほんまでんがな!?」

「本当だって」

「うーむ・・・ならええんですけど。正直ゴドゥは、ゲンキさんが1000人いても勝てない化け物でんがな〜。だから戦おうとしたら絶対にいけませんがな〜」

「そんなにか・・・?」

「そんなにでんがな〜」


俺の戦闘成績はまず半魚人との戦いで、訳もわからずボタン連打して辛くも勝利。

次はさっきのギュードトンとのエンカウント。

ギュードトンが戦闘形態にフォルムチェンジするも、急流の渓谷へと落下することによって見事に逃げおおせた。

以上。


つまり通算戦闘成績は1勝0敗1分。

この成績をさらに分析すると『勝率5割を超えてただの一度も敗北していない』ことになる。

ふむ、こうして見返すとかなりの強キャラ感が出てくるな、俺。

だがテンは『不敗の俺』が1000人いても勝てない程の化け物が出ると言う。

そう言われては不敗の名折れ。俺の歴戦の勘はスムーズに最適解を導き出す。


「そう言う奴は遭遇しないように逃げまわればいいんじゃない?」

「でんがな〜・・・!」


鋭い指摘にテンの出っ歯が冷や汗をかく。

クク、これが俺の慧眼よ。


「それも無理でんがな」

「あれ!?」


全然的外れだった。冷や汗をかいたような気がしただけだった。

まぁ、これが俺の慧眼よ。


「確かにやり過ごすのが一番いいんでんが、ゴドゥは感覚も鋭いんで誤魔化すのが難しいでんがな〜」

「すっごい忍足にしたらどうだ?」

「駄目でんがな〜。小さなネズミの足音にも気づくぐらいでんがな〜。更にある程度大きな生き物には襲いかかってくるので、本当に厄介な奴なんでんがな〜」


つまり絶対にエンカウントするってことか。


「ちなみにもし、もしもだけど、戦った場合は、どうなるのかな?」

「・・・・多分ゲンキはんの体、一欠片も残らないでんがな〜・・・」


マジかよ。

そんな危険と分かってしまうと、確かにフィーナを連れていくには二の足を踏んでしまう。

先日フィーナに協力すると言ったばかりだが、俺の意見が揺らぎつつあるのを感じた。

未知への挑戦と、無謀な挑戦は意味が違う。


「だからお勧めできないですし、アテもゴドゥに関しては協力できることがないでんがなぁ・・・」

「う、うぅーん・・・」


下を向いて考え込んでしまう。


「・・・とりあえずゲンキはん、時間もないことですし、後は移動しながら話しませんがな〜?」

「あ、あぁ、それもそうだな。頼む・・・」


テンに促してもらって、俺たちは再び森の中を移動し始める。


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