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1-20 肌艶の良いプリッとしたモノ


テンが言うにはホワマリンは非常に希少性の高い魚らしい。

そしてその希少性ゆえ、当然生息している場所は限られており、この近辺では一つの湖にしかいないとのことだった。


確かフィーナも最初にホワマリンを見せた時、なんかよく分からないことを宣ってそのまま腰を抜かして屈服していたのを思い出す。

驚きのあまりにおしっこも漏らしていたような気がする。

いや、漏らしてないっけ?ちょっと記憶があやふやだ。

でも多分きっと漏らしていただろう。そんな気がする。

うん。そうだろう。

フィーナは漏らしていた!

ヨシッ!!


兎にも角にも、ホワマリンという魚のおかげで俺は帰るための道筋がついた。

秒で釣れるものだからちょろい魚だと思っていたけれど、今後は感謝して食べることにしたいと思う。


「こっちでんがな〜」


テンが中空に浮きながら先導して、森の中を道案内してくれる。

俺は肌艶の良い黄色いプリケツを追いかけて、大人しく跡を歩く。

先ほどまでいた川辺からすぐ近くにある森に入ったが、周囲は前後左右どこを向いても同じような木々が生えて鬱蒼としている。

道とは到底言えない木の根の隙間を縫い歩くが、見通しの悪い景色に方向感覚がおかしくなってくる。

もし俺一人でこの森に入ればたちまち遭難していたことだろう。

(まあ、既に遭難していたけど!)


一方案内役のテンは、目的地をしっかりと理解しているのかその進行に迷いがない。

テンがどこまで信用できる相手なのかもわからないが、今は頼れる相棒として信じるしかない。

もし俺を裏切るようなことあれば、お前の目の前で自害してやるからな。


「それにしてもゲンキはんも人が悪いですわ〜。ホワマリン見せてくれれば一発で答えが出ましたのに〜!」

「そんなこと言われてもなぁ。そういうの俺、全然知らないんだわ」


何が希少で、何が普通なのかの判断がつかない。

攻略サイトでも見ればいいのかもしれないが、俺は初回プレイではそういうのはしない主義だった。


「えぇー、そうなんでんがな〜?そんな下からの迷い人でもあるまいし〜」

「下?なんだそりゃ?」

「そりゃ下は下でんがな〜。人間のみなさんが住んでるとこでんがな〜」

「人間・・・!」


人間が『下』に住んでいる?


話の文脈から察するにここは『上』なのか。

そして人間はある程度の人数が『下』に住んでいるのだろう。


俺は『クラフターズ』で、人間をたった一人しか知らない。

故郷に帰りたがっている赤いずきんの女の子だ。

だが帰る方向もわからず手詰まりだったが、ひょっとしたらテンなら何か手掛かりになることを知っているのではないだろうか。

1000年以上の経験の中で得た知見をフィーナのために授けてもらえないだろうか。


テンは相変わらず木々の合間を縫って、前へと進んでいる。

黄色くてプリプリとしたケツを眺めながら、俺はテンに話しかける。


「なぁなぁ、さっき『下』に人間が住んでるって言ってたじゃないか」

「でんがな〜」

「それでな・・・実は、俺の家に今、人間の女の子が一人いてさ、その子が家に帰りたいって言ってるんだよ」

「がな〜・・・」

「でもさ、その子、帰るにしても・・・」


俺がそこまで言うとテンは進むのを止めて、くるっと回転して俺と向き合った。

俺も立ち止まって、言葉が少し途切れてしまう。


「帰る場所が分からないってわけでんな〜」


その切れ目を引き継ぐようにテンが発言する。


「そ、そうだ!?そうなんだよ!なんでわかるんだテン!?」

「時々いるんです。迷い人ってやつでんがな〜・・・」

「迷い人?」

「でんがな〜。来れないはずの人間が、ここに来てしまうことですわ〜」

「んん?人間がここに来れないって、どういうことなんだよ?」

「そのままの意味でんがな〜。本来ここには来る事も、そして帰る事もできないでんがな〜」


話が飛躍し過ぎててよく理解できない。


「テン、俺にもわかるように説明してくれないか?上だ下だ、来るも帰るもできないって、別に空に浮いてる島ってわけでもないだろ?」

「あー・・・まぁ、そりゃーそうでっけど〜・・・」


テンは俺の言葉を認めると、腕を組んでまた考え込んでしまう。

そして、少しの間を置いて、意を決したように顔を上げた。


「ゲンキはん、とりあえず先に、要点だけお伝えしまんがな〜」

「う、うん・・・」

「その女の子は帰ろうとしたらいけません。死ぬまでここで暮らす方が幸せです」


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