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1-19 テン②


「でわ〜!迷子の迷子のゲンキはんをー!おうちに帰すためのー!作戦を!練りぃぃ!まんがなー!」


割と小太りで微妙に大きくてあまり可愛くない黄色い妖精テンが、元気よく言葉を細切れにして叫んで宣言してくれる。


「おーぅ」

「ゲンキはん!あんたの命のかかったことでんがな!?もっとやる気出さんと!!」

「おー、まぁ、そうなんだけど。こうあまりに高すぎるテンションを前にすると置いてけぼりになっちゃうっていうか・・・」

「もー、そんな調子じゃ困りまっせ〜?じゃあ、とりあえず帰る場所の特徴とか教えてくんなまし〜?」

「特徴か・・・えーっと・・滝の注ぐ湖があった」

「ほうほう、他にはどうでっか?」

「あと、すぐ近くに小川も流れてた」

「ほうほう」

「周囲は森に囲まれてて、夜になると半魚人も出てきた」

「ほほーん!」


そのまま俺は家の周囲のめぼしいものをひとしきり挙げて、更にはギュードトンとの顛末も伝える。


「ははぁー、ギュードトンの群れに突っ込んで狩りをするって、ゲンキはん、命しらずにもほどがありますわぁ!」

「知らなかったんだからしょうがないだろ・・。で、その時に崖下の河に飛び込んで、気づいたらここに流されてたって感じなんだ」

「ははー、なるほどー・・・つまりそれはー・・・・!」


両手を組んで考え込むテン。

それを見て俺は身を乗り出してテンに迫る。


「どうだ、何か心当たりがあるか!?」

「いやー、さっぱりでんがなー!お手上げでんがなー!」


テンはケラッと笑って両手を挙げた。


「おい!頑張れよ!」

「いやー、アテも何かお役に立てるかと声を掛けたんですが、何もわからんではどうにもなりませんわ〜」

「俺の流れてきた河の上流方向とかわからないのか・・・?」

「ゲンキはんが流れ着いたこの川は、上に行くといくつもの支流が合流してますねん〜。だから候補は絞れますけど・・・どれかってなるとー・・・」


時間があれば潰していける。

だが俺にはタイムリミットが課せられているからそうはいかない。


「俺の命がかかってるんだ。頼むよっ」

「やー、それなんですけど、よくよく考えたらゲンキはんの命がどうこうしてもアテは関係ないのではとも思いましてやなー」

「そりゃ確かにそうだけどねっ」


畜生、確かに死ぬとか俺が勝手に言ってるだけだしな!

それにしたってさっきと温度の落差が凄まじく違うぞ!

もうちょっとやる気出してくれてもいいだろ妖精畜生っ。


「せめて何か、もう少しなんとかならないのか?」

「う〜ん、アテも別に意地悪してるわけちゃうんでんがな〜・・・」


テンは少し困った表情をして俺を見上げる。


「滝の注ぐ湖も、森も小川も半魚人も、ギュードトンの群れも、この辺りではそこら中にあるんでんがな〜。だからゲンキはんのくれたヒントはヒントちゃうんでんがな〜・・・」

「・・・そっか。・・・それも、そうだよな」


例えば現実世界で迷子がいたとして、帰る家の特徴を聞いたら都会でマンションとコンビニがあると言われるようなものか。駐車場もあるし、向いには他に住んでいる人いる。

そう言われたって、確かに絞り込み様がない。

ましてや夕暮れまでのタイムリミットもある中で、正解を見つけ出すのは不可能だろう。


「困ったな・・・・」

「でんがな〜・・・」


俺とテンは黙り込んでしまう。

何か気持ちを切り替えようと俺はテンに関係のないことを尋ねる。


「・・・お前はこの辺、結構詳しいのか」

「もちろんでんがな〜。生まれた時からずっとこの辺りで生きてまんがな〜!」

「生まれた時って、お前生まれてどれくらいなの?」

「うーん・・・わからないけど、1000年くらいちゃいまっか〜?」

「1000・・・・」


生命体として大先輩じゃねぇか。

・・・いやいや、ゲームの中の設定なんだから1000年でも1万年でも好きなように調整できるのだ。驚くようなことじゃないはずだ。

だが、設定通りのキャラであるならこのよくわからない妖精に出会えたことは幸運とも言える。

何か明確な目印を伝えることができれば、俺を家まで導いてくれる可能性が高いのだから。

と言っても、それがないからお手上げ状態なんだけどね。


俺は他の手がかりを探そうとして、色々なウィンドを開く。

すると、普段よりメモリの減った満腹度のゲージが目に入る。

普段よりも早い腹の減りに一瞬疑問に思うが、さっきのギュードトンとの戦闘で逃げたり走ったり転げたりしてダメージを受けたので、その体力回復のために満腹度を消費していたのだろう

『クラフターズ』は満腹度を消費して体力が回復するシステムで、健康と満腹が直結している。


この先またモンスターに遭遇するのも困るから、今のうちに満腹度を回復しておこうと考えて魚の燻製を取り出す。


「あれ、ゲンキはん・・・それ・・・」


俺がアイテムボックスから魚の燻製を取り出すと、テンが凝視してきた。


「なんだ?欲しいのか?」


ふふふ、いやしんぼめ。

だが善意で俺に声をかけてくれたお礼もしたかった。

フィーナが山ほど釣って、俺が出かける度に大量に持たせてくれるこの魚。

欲しいのならテンにも分けてあげよう。


「お前も腹減ってるんだな。ほら、まだたくさんあるからこれ食べなよ」


俺は手にした魚をテンに差し出す。

味はフィーナの即堕ち保証付きだから、テンも美味しく食べてくれることだろう。

俺はアイテムボックスから追加の魚の燻製を取り出す。


「いや、これ・・・」


魚を両手で抱えるようにして受け取るテン。

魚の燻製はテンよりも大きなサイズだからちょっと大変そうだった。

魚の顔を間近で見つめるテン。


「この魚、ホワマリンですやん」

「んん?」


俺はフィーナが乱獲して煙で燻したホワマリンを齧りながら、テンを見返した。


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