赤い芝生
この小説は2002年に書いたものです。日時説明の曜日は2002年のものです。
短編推理小説《大和太郎事件簿/赤い芝生》
赤い芝生1;事件発生
埼玉県東松山市の比企ゴルフ倶楽部、4月10日(水)午後5時頃
山が近いため、太陽が外秩父連山の向うに沈むまでにはあと20分くらいしかなかった。ここ比企ゴルフ倶楽部のコースを周る最終組もすでにクラブハウスに戻ってきていた。平日でもあり、少し早い目の終了である。埼玉県内には多くのゴルフ場があり、この比企ゴルフ倶楽部を中心とした半径5キロ以内にも6件のゴルフ場がある。日曜日の早朝、東武東上線東松山駅の隣の高坂駅前には名前が異なる5台の送迎マイクロバスが行列して来場者を待っている。比企ゴルフ倶楽部は名門コースとして有名である。特に、グリーンの水はけの良さは定評があり、かなりの雨でも支障なくゴルフボールが転がっていくらしい。電動カートに乗ったグリーンキーパーが各コースの見回りを始めたその時、ゴルフ場のフェアウェーに大きな音が木霊した。
『パーン』という爆発音であった。
クラブハウス内のロビーでは、風呂あがりのゴルフ客がテーブルを囲んでくつろいでいる。
しばらくして、グリーンキーパーが息せき切って、クラブハウスに入ってきた。
「支配人、大変です。2番グリーンで人が死んでいます。警察に電話してください。」
この声を聞いたゴルフ客の反応は二つにわかれた。
クラブケースを抱えて駐車場に急ぐ群れと、2番グリーンの方に向かって飛び出していく群れの二つの人間集団であった。
赤い芝生2;事情聴取
東松山警察署の林刑事が支配人から話しを訊いている。
「本日ご来場の会員様は、ほとんどが国会議員さんとその秘書の方々でした。議員会ゴルフコンペで3人一組でコースを回られていました。参加者は全員で27名でした。その内訳は、国会議員の方が12名、議員秘書が9名、議員の後援会の方が6名でした。自殺された荒井勝景議員の秘書の方は参加されていませんね。でも、ピストルでご自分の頭を撃つなんて、小説の世界だけの話と思っていましたが、私の身の回りで発生するなんて、思っても見ませんでした。」と支配人が、コンペ参加者名簿を見ながら、話した。
「このコンペは比企ゴルフ倶楽部が主催で行なったのですか?」と林刑事が訊いた。
「いいえ。議員秘書の方から依頼を受けて、当クラブの事務員が参加者募集から参加者名簿の作成、詳細運営まですべてを取り仕切っています。あくまで、主催は議員会です。毎年の恒例ですから私共がお手伝いさせていただいております。」
「荒井議員は良くゴルフに来られましたか?」
「年に5〜6回くらいですかね。会員になられて10年くらいです。確か、議員に当選された翌年から会員になっていただきました。私が当クラブの支配人に任命された年でした。」
「本日、荒井議員と一緒にコースを廻った人の名前を教えてもらえますか?」
「はい。高浦良成秘書と木内善明議員です。高浦秘書は大泉議員の秘書です。すでに、お二人とも帰られました。」
「大泉議員とは、以前、大臣をしておられた民自党の大泉新次郎さんですか?」
「ええ、そうです。今回、大泉議員は参加されていません。」
林刑事は、その後、いくつかの質問をした後、夕闇迫る2番グリーンに戻っていった。
真っ赤な夕焼け雲がゴルフ場の上空に広がっていた。
赤い芝生3;調査依頼
池袋駅西口広場の弁慶寿司; 4月19日(金) 午後1時頃
東武東上線池袋駅かJR池袋駅の北口改札を出て地下道を通り池袋西口広場に上がると正面にマクドナルドの看板が目にはいる。そこから、右方向に目を移していくと、極上ネタ・格安会計『弁慶寿司』の看板が掛かる間口4メートルくらいの小さなすし屋がある。このすし屋の看板には、もうひとつの案内が書かれている。
《大和探偵事務所 よろず相談、調査を安価にお請けいたします。当すし屋にお尋ねください。》
北辰会館での午前の部の空手稽古を終えて、大和太郎が昼食として、握り寿司2人前を食べながら、板前と話している。そこに、40歳くらいの女性が入ってきた。
「大和探偵事務所は東松山にあると聴いてきたのですが、どこにあるか教えていただけます?」と女性が言った。
「大和探偵事務所に何かご用件でもありますか?」と大和太郎が聞いた。
「ええ。チョット、調査依頼をお願いしようかと思いまして。」と遠慮がちに女性が言った。
「私が、その大和探偵事務所の大和太郎でございます。ご用件をお聞きしましょうか。板さん、テーブル借りますよ。」と太郎は言って、カウンターから4人掛けのテーブルに女性を案内した。
女性からの依頼内容は以下のことであった。
『女性は、先日、東松山市内のゴルフ場で自殺したとされる荒井議員の奥様で、自殺に関して疑問がある。すなわち、誰かに殺されたのではないかと夫人は考えている。その確証と、犯人を見つけて欲しいと云う依頼であった。夫人の話では、一ヶ月くらい前、荒井議員に対する脅迫らしい電話があったとの事であった。これまでも、度々そのような脅迫的な電話が有ったが、議員はあまり取り合わなかった。しかし、今回の脅迫電話には、荒井議員がかなり神経質になっていたとのことであった。いつもと違う雰囲気があったとのことである。東松山警察では、荒井議員の秘書の話から、自殺と断定して、捜査は打ち切ったとのことである。自殺当日の昼過ぎ、ゴルフ場にいる荒井議員から秘書に電話があり、東京都内の都市再開発にからむ政治問題に疲れた旨、今後の解決見通しがないことに悩んでいる旨の話をしたとの事から自殺と断定したようである。自殺に使った拳銃の入手経路も後援会に関係した企業経営者を通じて暴力団関係者から購入したらしい証言が得られているとの事であった。しかし、夫人ととしては、脅迫電話が気に掛かるとの事であった。暴力団を紹介した企業経営者の名前もはじめて聞いたとのことであった。夫人に対応したのは東松山警察署の林刑事とのことであった。』
荒井夫人の話を聴きながら、大和太郎は10年くらい前のことを思い出していた。
「下宿のあったJR中央線の西荻窪駅からS電気に通勤していた時、毎朝、駅前で街灯演説していたのは、確か、荒井勝景議員だったな。あの時はまだ、議員になっていなかったが、1年半後に国会議員に当選したのを覚えている。俺も、荒井議員に一票を入れた記憶がある。まじめで誠実な人と云う印象が残っているが、現在でもあの時のままだったのだろうか?議員になって、いろいろな事があっただろうから、自分を見失わずにやってこられたのだろうか?自殺しなければならない原因があったのだろうか?それとも、夫人が考えているように、何者かに殺されたのだろうか。本腰を入れて調査する必要があるな、この事件は。」
赤い芝生4
東松山警察署;4月20日(土) 午前 10時ころ
大和太郎は荒井夫人の代理として、林刑事から議員自殺事件の調査内容を聞いていた。
「自殺に用いた拳銃の入手経路は暴力団関係者の証言だから信憑性に乏しいが、警察としては税金を使って不必要な証拠固めをする訳にはいかない。本事件の状況証拠から、あきらかに自殺と判断し、捜査終了となった。ただ、一点だけ疑問点があった。議員の上着のポケットに有った小さなメモ手帳のスケジュール日程なのだが、事件当日の午前11時に談山神社でミスターAに会う事になっている。この手帳には政治に関するスケジュールなどは書いてなかったが、プライベートスケジュール帳のようだったな。ミスターAとはどういう名前の人間なのか、秘書も知らないらしい。嘘を言っている可能性もあるが、警察としては、取りあえず、秘書の言を信用している。その後、12時過ぎには比企ゴルフ倶楽部に車で到着しているのを支配人が目撃している。コンペはハーフコースでの競技だったので午後1時スタートで3時半には全員終了していた。俺たちの知っている範囲では、談山神社とは奈良県にある藤原鎌足の墓がある神社と認識している。神社本庁に問い合わせたが、この比企丘陵に談山神社があるのかどうか判らないとの事であった。奈良県から比企丘陵まで1時間半では戻ってこれないので、ミスターAとは会っていないと判断している。」と林刑事が話した。
「いや、その神社なら比企ゴルフ倶楽部から車で30分くらい行った都幾川町の山麓にありますよ。一般には多武峯神社と呼ばれていますが、藤原鎌足公の墓があることから、現地の人で談山神社と呼ぶ人がいます。荒井議員も、政治家であるなら、古代の大政治家である藤原鎌足公のことはご存知でしょうから、談山神社と呼んだのではないでしょうか。以前は大型乗用車では登れなかったのですが、最近では、別の道から行けるようになっています。私は愛車のホンダ・リード80で3回くらい行きました。スクーターなので狭くても登れましたよ。私は奈良県の出身ですから、チョット懐かしくて、気に入っている場所です。以前、埼玉県の教育委員会が遺跡調査している場所らしいですよ。藤原鎌足公の墓と思われる石塔がありました。埼玉県指定『多武峰瓦塔遺跡』と呼ばれているようです。藤原家系の関係者が奈良時代に鎌足公の分骨を埋葬して祭ったのではないでしょうか。」と太郎が言った。
「それがほんとうなら、事件を見直す必要がでてくるな。その場所に案内してくれるかな、探偵さん。」と林刑事が言った。
赤い芝生5
都幾川町の武州多武峯神社;4月20日(土) 午前 11時ころ
東松山警察署から武蔵嵐山を通り、旧玉川村から都幾川町役場に抜ける県道172号線を車で走って、都幾川町建具会館近くの信号を左折すると萩日吉神社がある。この神社の200メートルくらい手前を右折して道なりに進むと西川原バス停に至る。ここを右折して山道を登っていくと多武峯神社がある。石造りの鳥居の近くに車を停めて、太郎と林刑事は徒歩で社に向かった。細い山道を5分くらい歩き、急峻な階段を登ると2メートル四方くらいの小さな社に出た。この小さな社は6本の柱に支えられた屋根の下あり、雨に濡れないように配慮されている。社の透かし彫りには藤原鎌足と思しき人物が彫られている。社の裏手に藤原鎌足の墓と思われる石塔がある。神社に参拝してから、その周辺を調査し、二人は話しあった。
『はるばると 登りて聞けば 百鳥の 声もみのりも かたらひの峯』
・・・多武峯御詠歌・・・
神社の床下を見ていた林刑事が何かを見つけた。
「捨ててから、それほど日が経っていない煙草の吸殻が落ちているな。鑑識にチェックしてもらう事にしよう。」と呟きながら、林刑事はポケットから出したハンカチで吸殻を包むようにして拾った。
「こんな辺鄙なところで、ほんとうに荒井議員とミスターAが密会をしていたのだろうか?」と林刑事が言った。
「聖徳太子の子で次期天皇候補の山背大兄皇子を殺害し、太子一族を滅亡させ、天皇をないがしろにして国政を専横している蘇我蝦夷・入鹿親子の暗殺や、暗殺後の『大化の改新』の計画を藤原鎌足公と中大兄皇子が奈良の多武峯にある談山神社で談合したのに習ったのでは?いわば、謀の聖地が談山神社であるという事でしょうか。」と太郎が言った。
「へえー。探偵さんは博識だね。」と林刑事が感心して言った。
「ははは、知人の大学教授から聞いた話をそのまま言っただけです。荒井議員は、根がまじめな人だから、今後の政治改革計画の話でもしていたのでは?鎌足公の成功にあやかろうと思って、地元では談山神社と謂われているこの場所を密会の場所に選んだのではないでしょうか。」
「しかし、荒井議員は、この場所を誰から聞いたのだろうか?こんな辺鄙なところに、藤原鎌足ゆかりの場所があるなど、最初から知っていたとは思えないが。」
「やはり、地元の人間から聞いたのでしょう。ミスターAなる人物が地元の議員かどうかですね。そのほか、ゴルフ場の地元関係者であるグリーンキーパーやキャディなどから聴いた可能性が考えられますね。」
「そうか、グリーンキーパーが第一発見者だったな。もう一度、比企ゴルフ倶楽部に行って、話を聴いて見るか。」と刑事が言った。
「しかし、なぜ荒井議員はミスターAとメモしたのでしょう?ミスターAが日本人なら、○○氏と書くと思うのですが。ミスターと書いたところから想像すると、Aなる人物は欧米人である可能性がありますね。」と太郎が言った。
「外国人?どういった種類の外国人だ?」と刑事が言った。
「判りませんね。とにかく、比企ゴルフ倶楽部に行って、話を訊き直しましょう。それと、自殺現場の2番グリーンも見ておきたいですね。」と太郎が言った。
赤い芝生6
比企ゴルフ倶楽部クラブハウス前;4月20日(土) 正午前
派手な装飾ペイントで《石窯パン工房・ムーンメリー》と車体に書かれたワンボックス車が駐車場に停まっている。ゴルフ場の支配人に案内されて、グリーンキーパーのいる管理棟へ行く為にクラブハウスを出てきた林刑事が、駐車場を見ながら言った。
「あの車のパン屋は毎日来るのですか?」
「ええ。毎日、クラブハウスの軽食喫茶用にサンドイッチを配達してもらっています。坂戸市にあるパン工場から持ってきます。ゴルフ会員の方の昼食用です。パンを運搬してくるのがアルバイトの外国人の青年なのですが、日本語が少し喋れる人です。なんでも、比企丘陵にある古代遺跡の研究の為、東松山市内にあるD大学に留学中らしいです。」と支配人が行った。
「へえー。外国人のアルバイトですか。荒井議員自殺事件当日も来ていましたか?」と太郎が訊いた。
「ええ、来ていました。しかし、いつもは11時過ぎに来るのですが、あの日は12時前くらいでしたね。軽食喫茶のマネージャーが、『パン屋が来るのが遅い』とイライラしてましたね。当人曰く、車のタイヤがパンクしてタイヤ交換のために遅くなった、とか言っていたらしいですね。」と支配人が言った。
大和太郎はパン工房の車に近づいて、車内を覗いた。ドアーのロックは開いていた。
ドアーを開けてニコチンの臭いのする車内のシガーケースからたばこの吸殻を抜き取って、林刑事に渡した。
赤い芝生7
比企ゴルフ倶楽部2番グリーン周辺;4月20日(土) 12時30分ころ
「この垣根の外の道は一般道ですか?」と太郎が、グリーンから15メートルくらい離れた垣根の向こう側にある未舗装の山道について、グリーンキーパーに訊いた。
「ええ、そうです。ゴルフ場入り口から500メートルくらい行ったところからこの道に入れます。私たちの居る管理棟にも、この道から出入りできます。時折、山菜取りの人が通るくらいです。車の通行は禁止されています。ここから道路の入り口までは150メートルくらいですかね。」と第一発見者のグリーンキーパーが言った。
「事件当日、この道を通っている人は居ませんでしたか?」と太郎が訊いた。
「私は見ていませんが、グリーンキーパーの仲間がある人を見かけたと言っていましたね。」
「ある人とは?」と林刑事が訊いた。
「軽食喫茶にくるパン配達の外国人に似ていたと言ってました。夕方近くだったそうです。普段は昼頃しか来ないのに、夕方に居たから、不思議がっていましたね。」
「その目撃者は、今、管理棟に居ますか?」
「今は外出中で居ませんが、3時頃に戻ってくると思います。」
その時、二人の中年女性キャディが大声で話しながら、2番グリーン横の通路を歩いてきた。
「そうなのよね、政治の話なんか国会議事堂の赤じゅうたんの上でやったらいいのよね。ゴルフ場のグリーン上でやるな、って言うのよ。芝生は赤じゅうたんじゃないのよね。疲れちゃうわ、ほんとに。ご自分たちも疲れを癒しに来ているのだから、もっと楽しめばいいのにね。」
「そういえば、この前、2番グリーンで自殺した議員がいたでしょ。先月、あの人のキャディをしたのよ。今回のゴルフコンペの練習とか言っていたけれど。一緒に周っていた人と取っ組み合いの喧嘩になったのよ。『お前は売国奴だ。そんな事をしていいと思っているのか。』なんて、一緒に周っていた相手に怒っていたわ。それで、ラウンド中止よ。二人ともそのグリーンからクラブハウスへ戻って行ったわ。キャディとしてはいい休憩時間が出来たけれどね。」
その話を聴いていた林刑事がキャディたちを呼び止めた。
「すいません。今の話、荒井議員ともう一人の名前は判りますか?」と林刑事が訊いた。
「議員さんではなくて議員秘書の方でしたよ。お名前は忘れました。クラブハウスで支配人からラウンド記録を見せて貰えば判ると思いますよ。」とキャディが言った。
赤い芝生8;事件解決
東松山駅前の大和太郎探偵事務所; 5月 1日(水) 正午過ぎ
事務所内のTVにNHKお昼のニュースが放送しているメーデー集会の映像が映っている。
林刑事が、太郎に事件の顛末を説明していた。
「一昨日、大泉議員秘書の高浦良成が警視庁に自首してきた。荒井議員のポケットにあったメモ手帳は高浦のものだった。コンペでコースを周っていたときに落としたか、荒井議員に盗まれたらしい、と高浦は言っていた。事件当日の第二グリーンに荒井議員を呼び出し、頭に拳銃を突きつけ時、荒井議員に盗まれた可能性もある。いずれにしても、メモ帳が無いのに気づいたのは翌日だったようだ。拳銃はミスターAこと、パスポートに記載されている名前ダニエル・ポトロフが暴力団から購入して、高浦に渡したものらしい。ポトロフから荒井議員の殺害を命令されていたようだ。結局、高浦は拳銃の引き金を引けなかったようだ。ポトロフが荒井議員を殺害したと高浦は話しているが、ポトロフがいない今は、真実は不明だな。高浦は秘書というポジションにあるので、大泉議員をはじめ、他の議員たちのスキャンダル情報をいろいろ知っていたようだ。その情報をポトロフに流していた。その事を荒井議員に知られてしまったようだ。荒井議員は高浦には好意的で、何とか穏便に事を収めようとしていたらしいが、ポトロフは殺害の方針を崩さなかったようだ。ポトロフは、留学生を装っていたが、欧州にあるA国の諜報員だったようだ。先週すでに、自国に逃げて帰っている。高浦はA国の謀略による女性問題を抱えていたようだ。多分、A国は、自国のためにならない日本の政策を国会の議題から排除する為、議員のスキャンダル情報を利用していたようだ。スキャンダルを公表すると議員を脅かして、その議員が政策反対するように仕向けていたようだ。場合によっては議員辞職に追い込んだりしていたようだ。公安警察でも政治家の周辺に出没するポトロフをマークしていたが、諜報員である証拠は掴んでいなかったらしい。公安調査庁では、A国内のポトロフの経歴を調べたらしいが、問題なしとなっていた様だ。東松山警察署が、高浦の出身地が都幾川村であることを突き止めて、事情聴取に動き出したので、高浦は逃げ切れないと思ったらしい。自殺で処理していたら、真の事件解決になっていなかったところだ。探偵さんには礼を言うよ。」
「いや。東松山署の捜査姿勢の成果でしょう。すぐに再捜査に踏み切ったことが真実究明に繋がったという事でしょうか。しかし、政治家も脇が甘いと売国奴になってしまう危険がありますね。謀略は今に始まったことではないでしょうが、現代のような情報社会では、身辺を潔白にしておかないと政治生命は簡単に絶たれてしまうと云うことでしょうかね。荒井議員の秘書の方も大丈夫ですかね。どこかの諜報員に誘惑されていないといいのだが。」と太郎が言った。
『赤い芝生』 ―完―