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05.無表情の騎士

 夕食は部屋まで運んでくれたので、待っていて問題はなかった。

 今は、食事を終え、先ほどの新聞に再び目を通している。

 給仕にやってきたメイドは雑談などはせず、丁寧に食事を出してすぐに部屋から出て行ってしまった。片付けに来たときも同様だった。


 やっぱり、あの話をしたメイドの子が特別だったのね。みんなと楽しく話せたらよかったのに。

 でも、今まで話しかけていないなら、突然話しかけるわけにもいかないよね。

 新聞の内容は戦争の話と魔王軍の悪口、国内の内乱など、暗いニュースばかりで、見続けるのが少し億劫になってきた。

 うとうとしてきた頃、力強いノックの音で目を覚ました。


「……はい」

 目ぼけ眼のまま返事をしたが、ドアは開かない。

 開けた方がいいのかと、ドアに近づく。

 ノブに手の伸ばした瞬間、こちら側にドアが開いた。


「わっ……」

 ゆっくり開いたのでぶつかることはなかったが、バランスを崩し尻餅をつく。

 ドアの向こうにいた者が私に駆け寄り、跪いて手を差し出した。


「申し訳ありません。姫様、お怪我はありませんか?」

「え、ええ。大丈夫」

 相手は軽装の鎧に、腰には剣を差している。

 今の言葉、すごく騎士っぽいなぁ。騎士かな。

 騎士は私の腰を両手で支え、持ち上げるように立たせた。


 近っ!

 緊張で寝ぼけていた頭が覚醒し、脈が激しくなってくる。

 立たせてもらった後、改めて騎士の姿を眺めた。

 身長が高く、体格が良い。剣はファンタジーに出てきそうな太く大きいもので、かなり重そうだ。肌は白く髪も白い。こちらを見つめ返す眼は紅色だった。


「姫様、なぜドアの前に?」

「開かなかったから、開けた方がいいのかと思って……」

 無意識に声が小さくなる。

 会話するにしては距離が違すぎるので、緊張が解けないままだった。

「失礼いたしました。ドアの前で他の者に話しかけられまして」

「そうなのね」


 互いに顔を見合わせながら、数秒の時間が流れる。

 騎士は無表情で、何かを話し出す様子もない。


 気まずい。何しに来たの、この人。

 不用意なことは言いたくなかったが、空気に耐え切れず口を開いた。


「何か、御用かしら?」

「就寝中の護衛をしに参りました」

 そういうことか。

「入浴はお済でしょうか」

 身長差のせいで見下ろされる形になり、威圧感を覚えて、敬語で話しそうになる。

「……いいえ、まだよ」

 緊張していることを悟られぬよう意識しながら返した。

「失礼いたしました。私はドアの前で待っていますので、お済になりましたら、お声がけください」

「分かりました」

 騎士は一定の歩調で歩いて廊下へ出て、ドアを閉めた。

 閉まり切ったのを見届けてから、胸に手を当て深呼吸をする。


 緊張したぁ。結局、敬語で話しちゃった。全然表情が変わらないし、身長高いし。ものすごい威圧感だった。

 お声がけください、とか言ってたけど、まさか部屋の中に入ってきて護衛するわけじゃないよね、ドアの外だよね。あんな人が部屋にいたら絶対眠れない。


 シャワー室とトイレは部屋の中にある。

 背中で閉めるタイプのワンピースを脱ぐのに少々てこずってから、シャワー室に入った。シャワーは慣れ親しんだ使い方と同じで、ボディソープやシャンプーも用意されていたものを使用した。得体が知れないので角付近は避けて洗う。


 シャワー室を出て、クローゼットの中に入っていたネグリジェに着替えた。

 他にパジャマみたいなのはないし、これでいいんだよね、多分。

 ドレッサーに入っていたドライヤーで髪を乾かしながら思う。

 乾かし終わったら、あの騎士を呼ばないといけいないんだよね。雰囲気怖いし、気が進まないなぁ。


 髪を乾かし終え、一度小さくため息をついてからドアの前に行き声をかけた。

「入浴が終わったわ」

 ドアが開く前に、踵を返しベッドに向かう。

「承知しました。失礼します」

 足音はしないが、カチャカチャという鎧が当たる音で騎士がついてきていることが分かった。


 何でついてくるの?

 走って逃げたいくらいの気持ちになったが、同じペースで歩きベッドに入った。

 騎士はベッドのすぐ傍で、私を見下ろしている。


「おやすみなさいませ、姫様」

 怖い怖い怖い、無表情こわい。


「……ええ、おやすみ」

 彼が離れていくので安堵したが、電気を消した後、再びこちらまできて、私に背を向け腰かけてしまった。


 もしかして、一晩中そこにいるの?

 確かに、天井から狙われたらそこにいないと守れないけど。そもそも、城の中にまで敵が入り込んでくることってあるの?

 普段は寝つきがいい方なのだが、眠れそうな気配がまるでなかった。


 一時間は経過しただろう。何度目になるか分からない寝返りを打ち、騎士の後頭部を眺めた。

 寝てるのかな。全然動かないけど。

 そんなことを思っていると、ふいに騎士がこちらを向いた。


「眠れないのですか?」

 鼻が触れそうになるほどの距離で、目が合う。

「っ!」

 慌てて布団を頭からかぶった。

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