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佐賀のやばい嬢ちゃん

佐賀のやばい嬢ちゃんepisode.2 彼女の義手

作者: 川里隼生

 二〇一九年、佐賀は世紀末的治安悪化に苦しんでいた。『新世紀新撰組』と名乗る巨大犯罪組織の活動によるものである。前年に壊滅した国際テロ組織『世界統一委員会』の残党も加わり、東京オリンピックを前にして、佐賀は弥生時代から続く佐賀史上最大の苦境に立たされていた。


 さて、そんな佐賀には民間人が単独で、時には複数人のグループで、犯罪者を捕え、警察に突き出す賞金稼ぎの制度がある。新地しんち輝夜かぐやという中学二年生の少女もその一人。大量殺人犯の西崎にしざき泰斗ひろとを捕まえ、賞金一千万円を手にした。賞金稼ぎに味をしめた輝夜は、今日も元気に獲物を探している。


 町中で腕を組み、反射的にすぐ離した。左腕が熱を帯びていたからだ。彼女の左腕は義手で、鉄でできている。明らかに義手とわかる彼女の腕には、太陽光だけでなく通行人の奇異の視線も突き刺さる。実用性の高い機械の義手と、一目見ただけでは普通の腕と変わらないマネキンの義手という二つの選択肢を突きつけられた両親が前者を選んだ。


 輝夜本人は捻くれた性格なので、他人の目線は気にしない。両親、特に母親は上手く産んでやれなかったと輝夜に申し訳なさそうに言うが、実のところ輝夜は自分の体が嫌いではないし、むしろ自分好きなほうだ。生んでもらってありがたいと感じている。小学校の卒業式の日にそのことを告げ、三人で泣きあった。輝夜としては気恥ずかしい思い出ができた。


 義手のことより太陽にこれ以上見つめられるのが嫌だったので、偶然見つけた喫茶店に入った。

「……アイスミルク。ダブルで」

 店主から「メニューにない」と返され、渋々注文したカフェオレを飲み始めた。ミルクもあるじゃないか、と内心思いながら。


 一時間くらいで店を出た。意外と言うべきか、蝉の声が聞こえない。猛暑の影響だろうと輝夜は考えている。次の避暑地を求めて図書館へ向かった。今日が海の日であることを輝夜が思い出した頃、輝夜の前方から悲鳴が聞こえた。ひったくりだ。どけ、などと威勢の良い声で迫って来る。すれ違う瞬間に、男の鳩尾を右腕で突く。悲鳴も出さずに倒れこんだ。こんな突発的な窃盗犯なら、賞金はせいぜい千円くらいだ。


 せめて二十万円は貰わないと、賞金稼ぎとしては割に合わない。鞄だけ被害者に手渡し、再び図書館を目指す。まだ佐賀は昼にもなっていない。平和なようで全くそうではない、輝夜の一日はこれから始まる。

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