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世界ノ迷イ子  作者: 勿忘草
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一章 役割

世界は何色なのだろうか?

少年は、目の前に転がっている親戚の姿を冷たく見下して思った。自分をいない者とした人間が、自分の目の前に無様に転がって命乞いをしている。それなのに、少年の心は微動だにせずに、虚しさだけが心を呑み込んでいく。おかしい、昔のように満足感や復讐心がどこにも存在していなかった。自分がやりたかったことは、こんなことなのかわからなくなっていた。少年の頭に疑問が浮かんでは消えて、また別の疑問が浮かんでくる。あったはずの復讐心は消え、虚しさだけが心を満たし世界から色彩が消えていく。復讐によって、少年の手は赤黒く血に染まっているはずなのに、少年の目には無色になっていた。色彩を失った世界に生きるようになった少年は世界の色を忘れてしまった。綺麗だったのか汚かったのかさえ思い出せない。それだけ、少年は世界から逸脱したからなのか。少年は考えることをやめ、無様に転がっている親戚の息の根を止め、解体をしていく。豚を捌くように人間を捌き、人間としての死さえも蹂躙する。狂気の事件として、後世で猟奇殺人事件として語られることを、少年は知る由もなかった。

少年は闇夜に紛れて人を殺す、さながら、切り裂きジャックのように。

地獄に堕ちる所業だとしても、少年の中にある唯一の感情が少年を突き動かす。いつかは自分を愛してくれる誰かが現れることを願い、少年は闇と共に生きる。生きているか死んでいるかもわからない中途半端な生き方をしながら。それが少年に許された生き方であり、世界を滅ぼす贄となるための儀式でもある。


どうやら、最近巷を騒がせている切り裂きジャックなる人物が、連日のように殺人を犯しているらしい。報道されている情報では、現場は少女の住む町の近くで起きていること、被害者はバラバラにされていて身元がわからないことが現在判明している。信者たちが顔を青くして噂している姿を目撃している。なんでも、切り裂きジャックの正体は、指名手配されている少年であるらしい。そんな話を聞きながら、少女は違和感を覚えた。少年一人では、人間を解体することは不可能に近いこと、現場に指紋が残されているわけではないのに警察の動きが活発化していることを考えると、共犯者がいることを容易に想像がつくが少女はそれを疑っていた。少女は考えをまとめたかったが、部屋にはなにも置かれていない。牢獄のように窓もない真っ白な部屋しか少女は自由に移動できない上に、その部屋には布団しかない。最低限度の物すらない部屋は、まるで自分の立場を嫌でも自覚させる。人権なぞなく、人間としてではなく、神の依り代になることが少女に許された生き方であり、それが全てだ。信者の悩みを聞き、必要とあらば懺悔を聞く毎日に、少女の心は摩耗していく。生きているのか、生かされているのか少女にはわからないが、死ねない細工がされてることはわかっていた。つまりは生かされているのだ。摩耗していく心は、いつしか壊れていく。少女の心は壊れていくのか、最初から壊れていたことを自覚するのどちらかしかない。生きながらの死であり、生きる意味は存在しない。自由は許されず、他人の願望の捌け口になることが少女の役割であり、破壊されるのを待つだけの人間なのだ。だからこそ、少女は願った。世界が滅ぶことを。

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