序章 願い
世界が滅べばいい。
少年は血にまみれた自身の手を見てそう思った。
少年は生まれながらに、周囲の人間に忌み嫌われ、迫害された。両親に虐待され、親戚一同には存在しないものとされた。体中には、虐待でつけられた傷の跡があり、所々にはタバコによる火傷の跡も見られる。誰からに愛されず、生きているだけで攻撃の対象になる生き方は、少年を壊すのにそう時間はかからなかった。いつしか少年の目には光が消え、この世の全てを憎み恨んでいるかのような暗い闇のように変わっていった。目から光が消えると、周囲の人間は、少年を一層気味悪がり、攻撃を過激にさせていった。それがいけなかったのだろう。周囲に嫌われ。まともな教育を受けてこなかったために、少年は周囲の人間を殺していった。少年は人間になることも、獣に戻ることもできない半端者であり、そのことに少年は気づいていない。気づいていないために、少年はいつか自分を愛してくれる人間が現れると信じているが、神様はそんなことを許すわけがなく、少年は殺人鬼と言われ、指名手配もされるようになった。少年はただ純粋に無邪気に誰かから愛されたかっただけであり、その方法が殺人であっただけなのだ。少年は生まれてなお人間として不完全であり、完成することもない。それが少年の罰かのように、世界は少年を忌み嫌った。だから少年は願う。自分を壊した世界を、迫害してきた人間を滅ぼすだけの力を、その身は狂気に呑まれようとも、復讐の化身に堕ちようとも。
世界が滅べばいい。そう願うことは間違っているのだろうか、傲慢なのだろうか。
少女は、目の前の自分を祭り上げる両親を見ながら、冷めた目で思っていた。
少女は生まれながらに、周囲に人間に愛され、祝福された。これだけならば、少女は普通の少女でいられたが、神はそれを良しとしなかった。神は少女に祝福という名の呪いを与えた。少女には不思議な力があった。それは関わった人間に幸福を訪れさせる力があった。幸福ほしさに多くの人間が少女の元を訪れた。万人が、少女に作り笑いを浮かべ褒めちぎる。言葉には欲望が見え隠れし、両親はお礼として送られてくる金に目が眩み、実子を神かのように祭り上げる。誰も少女を人間として見ず、欲にまみれた視線に晒される。皮肉な話だが、周囲の人間に祝福されて生まれたはずなのに、誰も少女を人間として愛していなかった。そのことに気づいている少女は願う。
世界g滅べばいいのにと。