その七
「――――俺が部長になる」
やがて教卓の中にあった書類の海からばっと決め顔で現れたのは、藤崎透だった。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
「透? サッカー部のミーティングに行ってたんじゃないのか?」
「いやーそれが、幽霊部員一同、クビになりました」
「まだなってなかったんだ」
「それで、ちょうど放課後までに帰るだけでいい楽な部活を探してたところだったんだよね。そしたら、北館二階の掲示板に帰宅部のポスターを見つけてさぁ。さっき転部届け出してきた」
「……残念だったなぁ卓上遊戯会。もうお前に、あのポスターを剥がす権限はない」
言いながら、智之に人差し指を突きつける透。肩で息をしていることを差し引いても、どこか落ち着きがないように見えるのは気のせいではないだろう。
「――――いや、ある」
「なんだと? お前、何者だ――――」
透は人差し指を智之の眼前に突きつけたまま、芝居がかった挑戦的な口調で問う。
「俺か? ……俺は、尾張帰宅部部長、――――旭智之だ」
それに対し智之は、同じようにして人差し指を突き立てると、その指で透の突き出した指先を押し返し、にっと歯を出し笑って見せた。
「行こうぜっ」
「あぁ、任せろっ!!」
「ち、ちょっと、……意味わかんないんだけどぉ!!」
競うように飛び出していった、二人分の背中に叫び、田中利香は、転部届をくしゃりと握り締めた。
「……やっぱり、兼部にしようかな」
母親からのお小遣いは、当分もらえそうにない。
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