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尾張帰宅部部長旭智之  作者: 全州明
第四章 「尾張高校帰宅部部長」
25/30

その二

「なんであんたがここにいるのよ!」

 立ち入り禁止の屋上にて。田中利香は大層驚いた様子で声を荒げる。

「透から聞いてきた」

「そうじゃなくて、どうやってここに入って来たのかって聞いてるの! 鍵かかかってたはずでしょ?」

「あぁ、あの扉か。ドアノブ回したら開いたぞ」

「なんでよっ‼」

 ちなみに田中利香たちは普段扉の横にある窓から侵入している。高い位置にあるため、かなりの重労働を要するのである。それが今、徒労へと成り変わった。

「それより臨時のミーティングをすることになった。すぐに二年一組に来てくれ。剛田久美は、……一緒じゃないのか?」

 智之がその名を口にすると、田中利香はすかさず背後の人影を隠し口を開く。

「あぁあ、あの子なら確か休みだったと思うわよ?」

「そうか、道理で見当たらなかったわけだな。さ、行こう」

「へ? ど、どこへ?」

「何を言っているんだ。さっき臨時のミーティングがあるといっただろう」

「あ、あぁあっ! そ、そう言えばそうだったわね。あはは……さ、先行ってて」

「どうした、顔色が悪いな」

「え、そう? ぜぇーんぜん、元気だけど……」

 言いながら、田中利香はクロールともストレッチともつかない謎の体操をする。

「そうか? ……まぁいい、それじゃあ先に行っているぞ。なるべく早く来てくれ」

「あ、あぁ、うん。すぐ行く――――」

 智之が扉の向こうへ消えて行ったのを見届けると、田中利香は安堵の溜め息をついた。

「もう、行きましたか?」

 背中からおどおどおした可愛げな声がする。

「えぇ、もう隠れてなくて大丈夫よ」

「ふぅ。心臓が止まるかと思いました」

 田中利香の背からすっと離れ、剛田久美は小さく安堵の息を吐く。そんな何気ない仕草でさえ今は愛らしい。特に一挙手一投足ごとに揺れ動く二つ結びの毛先と胸元に、田中利香は忌々しげに唇を噛む。

「あれは脂肪、あれは脂肪。……それと急に痩せたから皮が余っただけよ」

「利香さん、どうかしたんですか?」

 俯いてぼそぼそと呪詛のように何かを呟く田中利香に、剛田久美は首を傾げる。そのせいで肩から流れ落ちた艶やかな毛先が利香の視界に入り、より現実を突きつけることになっているとも気付かずに。

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