その一
――――数週間後のある日。智之はST終了とともに連絡し損ねた部員たちを一刻も早く徴収すべく教室を飛び出し、南館二階を駆けていた。 そんな時、階段で透に出くわし、智之は足の裏全体で急ブレーキをかける。
「よぉ、なんか久しぶりだな。智之」
「あぁ透、良い所に。田中利香と剛田久美を見かけなかったか?」
「ん? 二人なら屋上だと思うけど、……どうかしたのか?」
「今日、臨時でミーティングをやることになってな。昼放課のうちにほとんどの部員たちに声をかけて置いたんだが、二人だけ姿が見当たらなかったんだ」
智之は実は田中利香たちがこのところどこで何をしているのか知らない。剛田久美と何かやってるらしいくらいの認識である。――――智之は数週間前の田中利香と剛田久美のやり取りをもう覚えていなかった。ちなみに彼はどうでもいいことは一瞬で忘れるタイプだ。
「あぁ、最近は昼放課も潰してやってるからな」
「確か、お前も参加していたんじゃないのか?」
「なんか今日はサッカー部の緊急ミーティングがあるらしくてさ。幽霊部員も全員来いって」
「そうか、引き止めてすまなかったな。じゃあ」
智之は透の返事を待たないうちに駆け出して、南館の屋上へ向かった。こちらもこちらで緊急なのだ。




