その六
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「――――は? 帰宅部を辞めるつもりはない!?」
月曜日の放課後。まだ少し騒がしい二年の教室に、透の素っ頓狂な声が響いた。
「違う。私はもうあのような黒魔術同好会(無益な部活)に入るつもりなど無いと言っているのだ。藤崎透(生徒B)」
竜ヶ崎雅人は中二病だった。オニクロと対峙した時以外は基本この口調だ。染めていた茶髪はオニクロの持参したスプレーによって黒く塗りつぶされたが、左手の魔法陣と包帯は今尚健在である。
「分かったら早急に立ち去るがいい。生徒A、B、C」
「どうする智之?」
「最近は成りを潜めているようだし、このまま放っておいてもいいかもしれないな」
「ダメッ! 絶対ダメッ!! こういうやつはどうせしばらくしたらまたやるのよ! それにここで引き下がったらこれまでのあたしたちの苦労が水の泡になっちゃうじゃない」
ゆずかのブログや事務所のスケジュール、電車の時刻表等を念入りに調べ上げた智之達に、唯一特に何もしていない田中利香が声を荒げる。
「しつこいぞ田中利香(生徒C)! これ以上私の邪魔をするつもりなら、命は無いと思え!!」
言って、竜ヶ崎雅人が天井に掲げたのは、登山用の発煙筒だった。その真上には大抵の煙に反応してしまいそうな旧世代の火災報知機がある。
「――――そうか。お前がそのつもりなら、仕方が無いな」
それを見た智之は、軽く肩を慣らしながら只ならぬ気迫で竜ヶ崎を見据えた。
「ふん。お前に何が出来る? 旭智之(生徒A)」
「……黙れ」
「ひっ」
智之の驚くほど低い怒声に、田中利香は青ざめ透の肩に隠れる。流れ出した不穏な空気を感じ取り、他の生徒たちは静かに教室を出て行った。
「貴様の様な異 端 者を、これ以上我部に留めておくわけにはいかない」
現実主義者の智之に、変なスイッチが入った。彼は透たちが思っているよりノリが良いのだ。
「ははっ、……それでこそ帰宅部部長だな。来いっ!!」
「帰宅時間!!」