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尾張帰宅部部長旭智之  作者: 全州明
第二章 「尾張高校黒魔術同好会」
12/30

その四


           *


 数日後の日曜。智之達は駅前のライブ会場の正面入り口にいた。そこから時折出て来る人々は、皆アイドルのファンのようで、二、三人程度のグループで固まっていた。アイドルに対する情熱には人によって大きな隔たりがあるようで、顔写真をでかでかとプリントしたうちわを掲げる人も入れば、首に巻いたタオルにさりげなくアイドルの名前がデザインされているだけの人もおり、一言で言えばあまり統一感が無かった。

「なんか、いかにも(ちまた)のーって感じね。悪いけど……」

 そう。ゆずかはまだまだデビューしたてのひよっ子アイドルなのである。そのためライブ会場へ行っても事務所の先輩アイドルの撮影会やサイン会に付き添う程度で、ファンも近隣の地方一帯、所謂(いわゆる)〝巷〟に留まっているのが現状だ。故に智之達はこうして入口で出待ちしていれば喜んで握手に応じてくれるのではないかと踏んだわけである。アイドルはいつだってファンの獲得に必死なのだ。

「それにしても遅いわね。黒田先生」

 人通りは少ないが、一応公共の場なのであだ名で呼ぶことは憚られた。田中利香とてその程度の良識はあるようだ。

「化粧とか、してたりしてな」

 そういう透も実はワックスで軽く髪を整えて来ている。

「なわけないでしょ」

 田中利香もほんのりとだが香水をつけており、服装も明るいトーンのワンピースで精一杯女の子らしさをアピールしている。時計も花の模様がついた少々値の張る品だ。それを褒める人物などこの場に居るはずもないが。

「いや、黒田先生のゆずかへの愛は本物だ。この日のためにいくつか新しい服を買い揃えているかもしれない」

 壁にもたれかかる智之は寝癖こそ見当たらないが、学校指定の靴に学校指定の靴下で、袖の短いシャツに裾が靴まで垂れた長ズボンという、なんとも適当な服装だった。

「なんたって日曜に学校指定の靴なんか履いてんだよ」

「しょうがないだろう。これしかなかったんだ」

「じゃあいつもそれ履いてるわけ?」

「悪いか?」

「いや、別に……」

 珍しくむきになる智之にたじろぎ、田中利香は視線を()らす。

「はぁ、――――待たせたな。お前ら」

 振り返ったまま石像の如く凍りつく三人。そこにいたのは、しかしメデューサではなかった。いっそのことメデューサであって欲しかったが、現実は、バスケ部兼化学・黒魔術同好会の顧問❘黒田だった。今は別の意味で異界の気迫を(まと)っている。

「ナンダ、ヨク見タラクロダセンセイジャナイデスカ」

「なんたってそうカタコトなんだ智之。俺まで緊張しちまうだろうが」

 巨大なまつ毛がカールした奇々怪々(ききかいかい)な瞳が、不安そうに萎む。

「ワァ、似合ッテマスヨ。スゴォイ……」

 田中利香はおもちゃのロボットのようにぎこちない動作で驚く。口元も目元もこれでもかというほど引きつり、麻酔を打たれて痺れているかのようだ。

「お前までどうした」

 朱色(しゅいろ)(ただ)れた(ほほ)を揺らし、紅に染まった狂気の唇をすぼめる。

「「「先生、もしかして女装してきたんですか?」」」

「なわけあるか」

 確かに、服装だけはいたって普通である。お高いブランド物ではないが、だからこそ自然体で着こなせている。が、それはあくまで服装に限っての話だ。それ以外、特に首から上は下手くそな女装と言うよりもはや危ない思想に染まった魔術師にしか見えない。なぜここに来るまでに職務質問のち連行されなかったのかが不思議でならない。警察の職務怠慢だろうか。そうに違いない。

「それじゃあ、その、それが普段の恰好……?」

 透が当たり障りの無いよう細心の注意を払って尋ねる。

「それも違う。今日のためにわざわざ気合いを入れて来たんだ。――――そうか、皆俺がいつにも増して恰好良すぎて気圧されていたのか。なら大成功だな」

「「「そうですね」」」

「どうして棒読みなんだお前ら。……そんなことより肝心のゆずたんはいつ頃ここを通るんだ」

「ゆずたんって……」

「それが、今日ここで先輩アイドルの撮影会があることはブログに書いてあったんですが、残念ながら詳細な時間帯までは――――」

「何? まさかもう帰ったってことは無いだろうな」

「それは心配ありません。ゆずかの事務所の撮影会はついさっき始まったばかりですから」

 腕時計を一瞥(いちべつ)し断言する。

「じゃあそろそろか?」

「いえ、ですからまだ始まったばかりで……」

「いつ来るんだっ!!」

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