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君を想う



 ディーネの激しい泣き声で、長い物思いからはっと我に返った。


 乳母が懸命にあやしても小さな手を空に伸ばし、全身全霊で泣き続けるディーネを覗き込み、ゆっくりと手を差し出す。

 ディーネはにわかに泣きやみ、紫水晶(アメシスト)の目で私をじっと見つめ、小枝のような頼りない5本の指をめいっぱいに使って、私の指を握りしめた。


――私のぶんまで、この子を愛してあげて。


 沁みていくささやかなぬくもりに、耳の奥に蘇るマリーの声に、溢れる涙を堪えて空を仰ぐ。


――あなたはなにがあっても生きて、この子を幸せにしてあげて。

――この子に私のような思いをさせないで。


「……ディーネ、ありがとう……」


 縋るようにディーネを抱きしめ、涙を胸の中に止める。


「………生まれてくれて、ありがとう………」


 ディーネが手を伸ばしていた空に向かい、声をかける。


「マリー……この子を遺してくれて、ありがとう……」


 この子を守らなければ。

 この子に、伝えなければ。


――幸せになることが、抵抗だとは思わない?


 どこからか聞こえる風の音に乗って、マリーの声が聞こえたような気がした。


 いつまでも悲嘆に暮れていては、マリーに怒られてしまうね。


「ディーネ、すまなかったね……」


 風がふんわりと揺らす銀色の猫毛を、そっと撫でつける。

 あの時、迷わずに魔女を斬り殺していれば、少なくともこの子を救えたかもしれない。マリーはそれを望んでいたのに、私はそれをできなかった。


 約束、したのに。


 この子を抱いてあげたいという望みも、絵の中でしか叶えてあげられなかった。



――だけど。



 涙で喉が詰まって声にならず、強く念じた。

 マリーがいるかもしれない空を見つめて。



――だけど、今度こそ誓うよ。

 君のぶんまで、この子を幸せする。

 君にあげるつもりだった想いも、してあげたかったことも、君がこの子にあげたかったことも、全部まとめてマリーがもう一度生まれたみたいにそっくりなこの子にしてあげよう。


 たとえこの子が呪いに殉じても、それまでに一生分の幸福を得たと思えるように。

 願わくば、苦しくても辛くても、あの魔女に(あらが)って生きられるように。


 何があっても生きたいと強く願えるほどの幸福を。


 そして毎年必ず、この言葉を贈ろう。


       Happy birthday to you……














 まずは、この最後までひたすら暗くて痛いお話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 「妖精の湖」本編のヒロイン・ディーネの出生秘話――圧倒的な魔女の力に微力ながら必死に抵抗したマリーと、ロランの決意を描いたスピンオフ作品となっております。独立しつつも本編と併せて読んでいただけると嬉しいです。


 当初短編賞に送った時は1万強、こちらでいったん完結させた時が1万5千字程だったと記憶しております。途中、何度か数話削除したりしてご迷惑をおかけしましたが、最終的におよそ4万4千字にまで膨らんで完結となりました。

 個人的にはマリーが不憫で結末を変えてあげたいと何度も思い筆が迷ったのですが、これが精一杯でしたね。そしてやはりスピンオフの域を出ていない感も拭えず……。本編未読の方は読んでいただけるとありがたいです。

 本編完結後のロランの短いエピソードがあって、それがこのお話のもうひとつのエンディングなのですが、蛇足になりそうな気もするので、しばし封印しておきます。


 感想などいただけたら今後の参考にさせていただきます♪


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