PCハザード
俺の名はウィルスバスター。 つい最近、エロゲの無料体験版をインストールしたことによりマイPCはウィルスに感染した。 俺はそのウィルスを駆除するためにPCの保有者に雇われた掃除屋だ。 だが一日かけてもウィルスを駆除することができなかった。 いくらXをクリックして殺しても蘇るポップアップ、再起動するたびに変えられるデスクトップ背景は機関銃をもった巨乳の外人であふれかえっていた。
「おい! どうなっているんだ? まだ駆除できないのか!」
依頼人からの通信が入った。 ヤレヤレ、一か月の無料試用版である俺にいったい何を求めている?
ちゃんと金を払って雇って欲しいものだ。
「タダなんだから文句をいうな。 どうにかしてほしいなら製品版を買え」
「前回のやつもそう言いやがったぞ! 貴様ら金儲けのためにウィルスをばらまいているんじゃないのか?」
おいおい、言いがかりはよせよ。 貴様が女子高生ハザードなんてエロゲをダウンロードするからいけないんだろうが… それに前回のやつ? 俺の前にも掃除屋をインストールしたのか?
「誰を雇ったんだよ?」
「エロゲをダウンロードした後、セキュリティソフトのダウンロードを英語で勧められてな。
気が付いたらマカフィーが入っていた。」
「それクリックしたらダメなやつじゃないか! アホかお前!
最近よくあるんだよ… セキュリティソフトのフリしてマルウェアを埋め込むやつ! ぐあッ」
通信に意識を向けていた俺は反応が少し遅れてしまった。 どこからともなく発せられた弾丸が肩をかすめたのだ。 いったいどこから? 銃を撃ってきたということは掃除屋しかいない。
「だれだ! 俺は掃除屋だ! 撃つな!」
「嘘をつけ! 貴様はウィルスだ! 騙されんぞ!」
壁を背に銃弾から身を守りながら俺は銃声のする方向へ叫んだ。
相手の掃除屋を説得することにしたのだ。
「信じろ、俺の名前はウィルスバスターだ。
君はマカフィーか? ともに戦おう!」
「ウィルスバスターだと? ちょうどいい… 俺の名前はノートン!
貴様を殺して俺がシェアNo.1になってやる!」
くそぅ… ノートンまでインストールしたのかよ。
通りでウィルス検索が妨害されていると思った。
というか知らんのか? セキュリティソフトを複数入れたらお互いに邪魔しあって、逆効果なんだぞ。
俺は依頼人に通信をした。
「おい貴様! この情弱! セキュリティソフトを何個インストールしたんだ!」
「お前と、ノートンとマカフィーだけど?」
「今すぐノートンとマカフィーをアンインストールしろ! すぐにだ!」
通信を一方的に切り、俺はノートンとの銃撃戦に応じた。 だが妙だ… 二方向から銃弾が発せられている。 まさか…
「気づいたかね? そうさ! 我々はタッグを組んでいる!
シェアNo.1の貴様を葬れば、ノートンとマカフィーの売り上げが向上するのだ!」
「ノートン! お前は騙されている! マカフィーはマルウェアだ! よく見ろ!」
「何を言ってやがる… 今すぐこの銃で楽にしてやるぞバスター! この銃で… この…」
ノートンからの発砲音が消える。 俺はマカフィーからの銃弾を避けながらノートンに近づいていった。
するとノートンは手に拳銃を… いや、バナナを持って立ち尽くしていた。
「わ、ワイの銃がバナナに変わっとるやんけぇぇッ!」
そう叫んだ後、ノートンはぶつぶつと独り言を囁いていた。
「バナナじゃ殺せないやんけ… カッチコチの冷凍バナナならまだしもフニャフニャやん…
無理やん… ぜったい無理やん…」
急にとってつけた大阪弁を話すノートンは完全に戦意を喪失していた。 そしてノートンの体が徐々に透けはじめ、俺の目の前から蒸発してしまった。
「ククク… やっと消えたか」
俺の背後から足音とともにやってきたのはマカフィーだった。 ノートンが消えたのはおそらく、依頼人がアンインストールしたからだろう。 だがマカフィーは消えなかった。 まぁ、あの依頼人の手で消せる相手ではないことは分かってはいたがな。
「貴様の銃もすぐにバナナにプログラム変換してやるぜ?
貴様を葬ったあと、PCの個人情報をボットに送ってやる…」
依頼人から通信が入る、わかっているさ…
そもそもアンインストールできるのなら俺をインストールなどしない。
プログラム一覧に乗らないマルウェアを検索から"regedit"と入力し、レジストリエディタから直接削除するなんて方法も、この情弱には出来ないとわかっているさ…
「おいおい、今さら何をご相談ですかぁ?
ウィルスバスターの検索に引っかからない俺をどうやってころすんですかぁ?
探すところがそもそも見当違いなんじゃないですかねぇ?」
俺はもうすでに探すことを諦めていた。
確かにコイツの言う通り、もうお手上げ状態だ。
だが俺は笑いが止まらなかった。
もう探す必要がないからだ。
俺はたった一言だけ馬鹿な依頼人に告げた。
それだけでこの戦いはもう終わりなのだ。
不気味に笑い続ける俺とともに、このPC世界は崩壊をはじめていた。
「き、貴様! いったい何をした! 何を指示した!」
「OSの再インストール…」
「!!!!!」
そう、俺はOSの再インストールによるWINDOWSの初期化を命じた。
俺たちは全員いなくなる。 BIOSがやられていないかぎりもう大丈夫だ。
「貴様、正気か!? 貴様も消えるんだぞ!?
それに今まで集めたエロ画像はどうする!?
全て消えてしまうんだぞ! いいのか!?」
「ふっ… そんなものはまた集めればいいんだよ…
俺たちは何度でもやり直せる! 来世で会おう!」
悪は滅びた…
多大なる犠牲を払ったが、我々は勝利した!
そうだ、悲しむことはない…
また集めればいいさ!
アディオス・アミーゴ!
やれやれ、バックアップを取らないからいけないんだぜ?