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The story of junk box

Original Work : Shibosym『Junk box』& sakanaction『endless』


 続く続く、何処までも続く。


 誰かが悲しくて泣いていて、それを見た誰かが可哀想に思って泣いていて、それを見た誰かも可哀想に思って泣く−−。それはお伽話の世界の物語。

 誰かが悲しくて泣いていて、それを見た誰かが哀れだと思って笑っていて、それを見た誰かも哀れだと思って笑う−−。それがリアルの世界のお話。


 *


 がたん、と音を立てて、空が一気に狭くなった。と、同時にもろくなっていた部分がはずれた。幸か不幸か、痛みは感じないが、しかし、不便だし、なにより不格好である−−と考えてもうすでにそんなことを気にすることは無いのだと思い出す。

 もうすでにこの空には自分の居場所はないのだ。そんなこと気にする意味すら失った。

 昔は、それこそ皆から賞賛されるほどだったというのに−−今はだうだ。最早存在さえも捨てられた。過去の名誉にいかなる意味があるだろう。

「ほんとに……っ!」

 自分がぼろくなったからと言って、なにもこんな場所に入れなくても良いいはずだ。それに、一番のお気に入りだったはずじゃないか。

 愚痴をこぼして、ふと、じーっ、と視線を感じた。

「……−−っ!?」

 じーっ、と。じーっと無音の何かを訴えかけているのは明らかにおかしな方向を向いた顔だった。口元が無機質にこう告げた。

「 よ う こ そ 」

 不安定なごみ屑の足場によろめきながら、首から下が両手を広げて迫ってくる。

「ち……近づくなぁ……っ!!」

 理性が悲鳴を上げながら悲鳴を上げる。

「ようこそようこそようこそようこそようこそようこそよウこソヨうコそヨウコソよウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウコソヨウ」

「う、うるさい!黙れ黙れ黙れ!!」吐くように、そのノイズと化した歓迎を掻き消すように叫び、暗い視界を閉じる目もないくせに目をきつく閉じて更に漆黒で塗りつぶす。


「ヨうコソ、ゴミ箱のそコへ」



 *


 去年の今頃は何をしてたっけ。あぁそうだ、彼女と水族館に行った。そこで魚の群れを撮ったりしたんだ。

「楽しソうダネ」

「楽しかったけどその前に首をどうにかしろよ、気持ち悪い」

「レデぃに気持チ悪いなンて言ッチゃ失礼でショ」

 彼女のシルエットで首が無いのだから、気持ち悪いのは仕方ない。

 定期的に空から降ってくるのは汚い(ほこり)と彼女の黒い髪の毛で、此処に落とした彼女の手は伸ばされそうにないようだ。

 落ちなければよかったのだ、彼女の手から。一昨日だって、そうすればこうももう一度手から滑り落とされる羽目にはならなかったはずだ。

「ワタしも……昔ハ綺麗な人形だッタのニ……」

「……」

 こんな首の取れた不気味な人形がか。人間の美的感覚は解らないものだ。

「どウいウコとヨ……。昔ハ首くらイ繋がッテテ、沢山ノ友達がイタのニ」

 リカだとか、ぽぽだとか、メルだとか、沢山の名前があがる。

「あんたは」

「ワタしはメりー。ふらンす人形ノメりー」

 メリーはそう言い握手を寄越したが握手を一体どこでどうしろと言うのだろうか。

「手がないんだ、残念ながら」


 *


 また、彼女と水族館へ行って魚の群れを撮る――そんな幻を見た気がした。

 目にはどんどん埃が積もっていき、どんどん視界が悪くなっていく。視力を失っていく様はこんな感じかもしれない。

「……」

 空からは光さえも漏れず、まだ夜なのだろう。基本的に、常に暗い此処には関係がないといえばない。結局は昼も夜も、時間さえも人間が勝手に作ったものなので、ゴミ箱に落とされたこちら側には関係のない話だ。

 とにかく――暗く、静かである。メリーも寝ているのだろうか、身じろぎ一つしない。人形が寝るかどうかはともかく。

 静寂に包まれたここは、ひどく不気味である。なにせ、静寂なのだから、音がない。暗い。真を移す目に何か、本当は映り込んではいけない何かが映り込んでしまうような気がしてならない。そして瞬きをしてしまえばそれはあったものとして残ってしまうのだ。

 早く目を閉じろ、そして暗闇に身をゆだねて、眠ればいい。そうすれば、きっと目を覚ましたときには少し明るくなっているはずだ。

 そう、瞬きせずに、目を閉じればいい。


 *


 天井からは確かに一筋の曲線を描いた光が漏れており、確かに灯りが点いているか、太陽が昇っているのだと確信する。

「メリー」

「なニ?」

「ここにいるのは、結局は彼女の扱いが雑だったせいじゃないか。なんでこんな所に放り込まれなくちゃいけないんだ」

「きみハ、死ト生につイテ、どウ思ウ?」

 死と生について。

「どんナモのモ、いずレ死ぬンだよ?きみニ彼女がいル様ニ彼女ニモ神様がいルんだヨ」

 彼女が神様?神様というのは万人を作って万人を救う、そういうものじゃないのだろうか。

「作ルダけデ、救わナイ。人間ハ、無責任ヨ。人間ノ妄想ノ神様も、無責任」

 無責任。確かに無責任だ。落ちたのは彼女のせいで、僕に何か欠陥があったわけではないはずだ。

「人間は幻覚に縋るのか」

 ありもしないのに、縋る。その馬鹿馬鹿しさ。自分達を神と呼び崇めるその自惚れ。

「なンデ自分タちノ幻ヲ信ジらレルンダロウネ、解ラナいヨ。精神構造ガ」


 *


 昨日あった事を、一瞬にして見た。


 *


 明るかった。暗い天井などなくて、代わりに彼女がこちらを覗き込んでいた。

「あ……」

 視線がメリーに注がれ、次にぼくへ注がれる。久々に見た彼女の顔はどこまでも憎たらしく見えたし、気持ち悪いほど空は明るかった。

「メリーさん、首取れてる……。カメラもズーム機能壊れちゃったし……」

 誰がそうしたのだ。メリーも別に好きで首を取ったわけでもないし、ぼくを壊したのも君なのだ。

「まぁいいや。ごみに出してきちゃおう」

 カメラのお話です。

 ごみはちゃんと分別しようね!

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