きつねの恩返し
ある村の外れに幸之助という青年が一人で暮らしていました。幸之助は早くに両親を亡くし、残された畑を両親に代わり大切にしていました。
季節は秋、人々は冬を越すためにたくさんの食べ物を準備します。そんな中、幸之助には不安がありました。今年の畑は不作で全然野菜が採れなかったからです。このままでは冬を越すことができません。
ですが、悩んでいても仕方がないと今日も畑を耕しにいくことにしました。
その途中。
「ん?あれはなんだろう」
数人の子供たちが道端に集まっているのを見かけ、声をかけることにしました。
「君たち、なにをしているんだい」
「きつねをやっつけているんだよ」
「きつね?」
「そうさ、きつねは人を化かす悪いやつなんだ。だからやっつけるんだ」
子供たちの足元を見ると一匹の子ぎつねがケガをしてうずくまっていました。
「きゅう……」
「この子ぎつねが君たちのことを化かしたというのかい」
「そうじゃないけど……」
「ならやめるんだ。かわいそうだろう」
幸之助が注意すると、子供たちは村へ帰っていきました。
そして幸之助は子ぎつねを家に連れて帰り、ケガの手当てをしてあげることにしました。
ケガをした足に包帯を巻き、残り少ない食べ物を分けてやると、子ぎつねは日に日に元気になってきました。
そうして一週間がたった頃。
「よし、もう大丈夫だろう」
「こん、こーん」
子ぎつねは走り回れるくらいにすっかり元気になり、幸之助は子ぎつねを山へ帰すことに決めました。
山の麓までいくと、そこには一匹のきつねがなにかを探しているようにうろうろとしていました。その姿を見た子ぎつねは幸之助の腕の中から飛び出していき、そのきつねに駆け寄っていきました。幸之助は思いました、あれは母ぎつねなのだと。
「元気に暮らせよ」
と言って幸之助はそこを離れました。去り際に一度きつねの親子の方を振り返ると、母ぎつねと目が合いました。その時、幸之助には母ぎつねがお辞儀をしたように見えました。
数日がたったある晩、幸之助が寝ていると戸を叩く音がして目が覚めました。
「こんな夜更けに一体誰だ」
戸を開けてみると、そこには親子と思われる子連れの女性が立っていました。二人の額にはなぜか葉っぱがついていて、子供の方は腕に包帯を巻いていました。幸之助は不思議に思いましたが口にはしませんでした。
「この間は息子を助けて頂き、ありがとうございました」
「お兄ちゃん、この前は助けてくれてありがとう」
「えっ……?」
いきなりのことで幸之助は戸惑いました。人の子を助けた覚えはなかったからです。
「どうぞ、これを受け取ってください」
女性は両手いっぱいに抱えていたキノコや山菜といった山の幸を差し出してきました。幸之助がわけもわからず受け取ると、親子は一度深くお辞儀をしてから、背を向けて帰っていきます。
「あっ!」
その時、幸之助は見ました。二人のお尻のところに、きつねのようなフサフサとした尻尾がついているのを。そして気づきました、さっきの親子は自分が助けたきつねの親子だということに。