『六話』
この世界には魔力を持った動物は二種類存在する。元から魔力を持ち、自然に生まれる動物を魔法生物。そして、魔人によって造られた生物を魔物と呼ぶ。
基本的には魔法生物は人間に無害だが、それとは逆に魔物は有害なものが多い。
そのため魔法騎士団には魔物を駆除する依頼が後を絶たない。
アトラス国辺境の村『ルポラ』。その周りにある森に彼らは住んでいた。
背丈は一メートル前後、頭には一本の角があり、緑の肌と赤い目を持つ。彼らは通称小鬼<ゴブリン>と呼ばれている。
この森は彼らにとって住みやすい場所だった。食糧は村から奪い、欲望のままに人を襲った。
しかし一ヵ月前、突如彼らの前に旅行用の黒色のマントを着た二人の男が現れた。
その男たちが現れてから彼らの生活は一変することになる。
男たちはゴブリンたちが村を襲うのを阻止し始めた。
それだけでなく、ゴブリンの住処に男たちはやってきたのだ。
男たちはゴブリンに何か話かけていたが、彼らは本能のままに男たちを攻撃した。
それからゴブリンと男たちの戦いは続いている。
マコトは今、森で一人で戦っている。すでにマコトの周りには十対以上のゴブリンの亡骸が転がっている。
それでも、マコトはまだ五、六体のゴブリンに囲まれていた。
「はじめ来た時も言ったし、先も言ったけど、村を襲うのやめろよ。」
しかし、マコトの呼びかけは通じなかったようだ。
ゴブリンたちは鋭い爪と牙をギラつかせている。
「やっぱダメなのね。」
マコトは剣を構え直し、再びゴブリンと戦い始めた。
「お前、一ヵ月前に比べれば強くなったな。」
イズモが食事をしながら言った。
マコトとイズモ、二人はゴブリンを駆徐する任務でルポラ村に来て村長の家に泊まっている。
「ええ、おかげ様で。」マコトの言葉には皮肉がこめられていた。
実は初めて森に入り、ゴブリンと戦ったとき、イズモはマコト一人で戦わせたのだ。
ゴブリンは意外にも強い魔力を持っており、新人が駆除の任務をすることはない。
言うまでもなくマコトは重症を負い、もう少しで死んでいるところだったのだ。
「イズモ隊長代理も来てくださいよ。」
「誰かが村を守らないとな。」イズモがシレッと答えた。
「実は、マコトさんが森に行っている間に村にゴブリンが来ましてな。イズモさんが守ってくれたんですよ。」
村長がにこやかに言った。白いひげをたっぷり蓄えており、とても優しい印象の老人だ。
「本当になんとお礼を言ったらいいのか・・・」
「規定の料金を払ってくれれば結構です。」
イズモはこういうときは隊長らしい。
「大丈夫です。村中から集めて必ず払いますので。」
マコトは知っていた。イズモも知っているのだろう。
この村はアトラス国でもっとも貧しい村であることを。
そして、依頼料を払えたとしても、それからの生活していくことが不可能であるということも。