Scene1224. 聖夜の魔女と魔法使い
「こっちの世界にもクリスマスなんてあるのね」
私はさっき物置から引っ張り出してきたクリスマスツリーを組み立てていた。
「言ったでしょ?この世界と君の世界はある一つの世界から分岐したって。だから同じ行事があってもおかしくないでしょ。
で、組み立てまだ終わらないのー?早く飾り付けたいんだけどー!」
ナイトがツリーに巻くキラキラのモールを振り回しながら言う。足元には大量のオーナメント。
「何、そのモール。ふざけたナイト君の首をこれで絞めていいよって事?」
私はモールを奪ってナイトの首に巻きつけ、絞めようする。
「やめて!殺さないで!分かった!生活費の限りごちそうの材料とかクリスマスの飾り買った事謝るから!」
生活費の限り=バイトフラグ……。
「私、またバイトするの!?」
「クリスマスイヴだからお客さん多いと思うよ。黒字目指して頑張ってね!」
私は黙って、モールをナイトの首にもう一度巻きつけた。
「ソフィアさーん!」
聖夜の『エルメール』はカップルやら親子連れやらで賑わっていた。
「あ、ナナさん!今日は特別にクリスマスケーキの販売やってるわよー!買ってく?買ってくよね?」
ソフィアさんが満面の笑みでケーキを売りつけにかかる。
「ナイトの書斎に『美味しいケーキの焼き方』って本が埋まってたんで自分で焼きます。今日はバイトしに来たんです」
そう言うと、ソフィアさんの笑顔がますます輝いた。
「それなら今すぐお願い!今日はお客様が多くて人手が足りないから!ほら早く!」
ソフィアさんにせかされて、私はクリスマス仕様の『エルメール』の制服に着替えた。
そして精一杯の営業スマイルを作って、クリスマスケーキを売りつけた。
イチャコラしてるバカップル共がせいぜい散財してくれる事を祈りながら。
こちとらアホな散財魔法使いのせいで聖夜もバイトなんだよ!
店のクリスマスケーキは四百個全て完売した。ソフィアさんはこれで明日安売りしなくても良くなったと上機嫌だった。
「ナナさんが入ってくれたおかげで一気に売れたのよ。人気者なのねえ」
ソフィアさんがしみじみ言うけどそれは恐らく違う。
だって私が恨めしそうに見つめたカップル共が「買わなきゃ魔女に呪われる!」と勘違いしたのと、酔っぱらいのサラリーマン達がノリで買って行ったのが主な原因だから。家族連れなんて寄りつきもしなかった。
まあ何にせよバイト代も入った。しかも『クリスマスイヴだから』という理由で時給二割増。これで赤字どころか黒字突入だ。
時計を見ればもう夜の十時。きっと考えなしのアホ魔法使いがお腹を空かせて待ってるだろう。
外を見れば雪。来た時よりもめっきり寒くなってる。早く帰らないと……。
「いやー、見事なホワイトクリスマスだね。これだけ降れば明日には積もってると思うよ」
ナイトが暖炉のそばで丸くなっていた。部屋の隅には飾り付けられたツリー。そういえば屋敷の周りにも電飾がつけられてた。
「美味しいケーキ焼いてあげたんだからちゃんと座って食いなさいよ。だらしない子にサンタさんは来ないわよ」
「それは大変だ!せっかく煙突掃除した意味がなくなってしまう!」
……
つーか煙突掃除してもそれから暖炉に火つけてんだからサンタさんはこない気もするが。
「……久しぶりに独りじゃないクリスマスイヴだったな……まさか、こんな事言った次の朝に消えてるとかないよね?」
とナイトは笑っていた。だけど、瞳は真剣だった。
私が来るまで、ナイトは独りぼっちだったのだろうか。聖夜にも、この静かな広い屋敷で。
自分の他誰一人いない、冷たく薄暗い屋敷でナイトは独りきりだったのか。
人となれ合うのが好きな奴ではないけど、平気な顔してても……やはり寂しかったのだろう。
「……私、まだまだ向こうに帰らないから。帰りたくないから。だから、絶対に消えたりしない」
窓の外で、雪は静かに積もっていった。
十二月二十四日――平行世界でも全国的にクリスマスイヴ。
To Be Continued → Scene1225.