川根ケ台 2
泣くことを思い出させてくれた彩ちゃんには、感謝しても、し足りない。号泣して、疲れ果てなければ、俺は立ち直れなかっただろう。
姉貴とミナミの体を横たえて、楽な姿勢にさせると、ほっと溜息が漏れた。見つかってよかった…。
強風が吹くたびにパラパラと破片をこぼす危険な岩盤の下に、あえて腰を下ろした。次に、彼女たちをあの世まで送ってやらなきゃならない。
その瞬間が来るまでの間、姉貴にいろんな話をした。
「カイさんが、姉貴を行方不明にしてごめん、って謝ってきたよ。あの人、気は弱そうだけど、姉貴に対してそれなりに責任感を持ってたんだな」
「お袋薄情なんだぜ。お前のこと、もう駄目かも、なんて言ってさ。あれ、親失格だよな」
「親父の自殺のこと、聞いた。…ん、でも、責めたかった気持ちはわかるよ。再三、飲酒運転だけは駄目だって、姉貴もお袋も言ってたもんな。あれは姉貴が殺したんじゃないよ。もう気にするな」
風のせいですぐに乱れる髪の毛を梳き分けてやると、心なしか、姉貴の顔が嬉しそうに綻びた気がした。
ここで死んだら天国に行けるのかな、なんて思って、空を見上げた。歪んだ大気の向こう側に、晩秋のような寂しい光を放つ太陽が見える。
「親父…ちゃんと迎えに来るかな…」
それぐらい、してほしい。俺も姉貴も、親父のことは大好きだったんだから。
「飲み過ぎで遅刻とか、するなよな」
寝起きの悪かった姿を思い出して、苦笑する。
風に押されて転がってきた小石が指先に触れた、そんな感触だった。
目を転じると、姉貴の手が、ゆっくりと、俺の手に寄り添ってきたのが見えた。
親父の葬式が終わってから、お袋が泣きながら言った一言を、今、思い出した。
「お父さんが最後に残したメモにね、『お前たちは当分こっちに来ちゃいかんぞ』って書いてあったの。3人で、ちゃんと人生がんばろうね」
姉貴の手を怖々握ると、強ばって冷たくなった細い指が、力強く握り返した。