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ドライヤー旋風

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/09/27

むかしむかし、桃から生まれた一人の少年の物語は、昔話として広く語り継がれていますが、その果実がなぜ流れてきたのか、なぜ桃だったのかを知る者は多くありません。

本作は、お馴染みの「桃太郎」の裏側に隠された、果実を送り出した側の運命と、桃に秘められた古の力を紐解くもうひとつの冒険の記録です。

ドライヤー旋風』

「……これで世界は、オレの髪型……いや、オレの掌(てのひら)の上だ」

科学者・乾(いぬい)は、怪しく光るドライヤー型の実験装置を掲げて不敵に笑った。

彼が長年の研究の末に開発したのは、ただのヘアドライヤーではない。「ハイパー・サイクロン・フォース3000」——出力を最大にすれば、局所的な大型台風をも発生させられるという恐ろしい超兵器である。

彼が目指す世界征服の第一歩は、この町を「ドライヤー旋風」の恐怖に陥れることだった。

「見よ! この風圧を!」

乾は公園の真ん中で、狙いを定めてスイッチを『MAX』へと叩き込んだ。

ボオオオオオオオオッ!!!!

凄まじい爆風が吹き荒れ、乾の白衣が激しくなびく。街路樹が大きくしなり、ハトたちが一斉に飛び立った。勝利を確信した乾が「ハハハハハ!」と高笑いを上げた、そのときである。

「うわあぁぁぁ! 髪が! 髪が乾いちゃう!!!」

ベンチに座っていた男性が頭を押さえて叫んだ。

「ちょっと! 私のせっかくのブローが、思ってたよりふわっと完璧に仕上がっちゃったじゃない!」

通りがかった女性が鏡を見て声を上げる。

「何……?」

乾が困惑して周囲を見回すと、風を浴びた人々が次々と自分たちの頭を触り始めていた。

「なにこれ、根元の立ち上がりがすごい! サロン帰りレベルじゃない!?」

「濡れてた折りたたみ傘が、一瞬でカラッカラに乾いたぞ! すげえ!」

「うちの洗濯物も持ってくればよかった!」

「待て! 違う! これは恐怖の旋風だぞ!」乾は慌てて叫んだ。「お前たちを吹き飛ばすための——」

「お兄さん! 頼むからうちの犬にもその風かけてくれ! シャンプー後で乾かすの大変なんだ!」

「私にも! 朝のセット時間短縮したいの!」

「俺の生乾きの生乾き臭を消してくれえぇ!」

気づけば乾のまわりには、すさまじい行列ができていた。人々は恐怖するどころか、輝くようなツヤ髪と満面の笑みで乾に押し寄せてくる。

「ち、違う……オレは世界をひざ伏せたいんだ……! 髪をサラサラにしたいわけじゃない……!」

抵抗虚しく、乾はその日、日没まで人々の髪を乾かし続ける羽目になった。

現在、世界征服の計画は一旦休止中である。

乾がオープンした爆風ドライサロン『旋風』は、完全予約制の大人気店として毎日大盛況を迎えている。

『ドライヤー旋風』をお読みいただき、ありがとうございました。

「世界征服を目指す超兵器が、うっかり生活を豊かにしてしまう」というギャップを描きたくて筆を執りました。

悪の天才科学者・乾の野望が、人々の「朝のブロー時間を短縮したい」「生乾き臭を消したい」という切実な日常の悩みに敗北するマぬけな姿を楽しんでいただけたなら幸いです。

彼は今もサロンの店主として忙しい日々を送っていますが、きっと裏では「ハイパー・サイクロン・フォース4000」の開発を企んでいるはずです。次回作(?)があるなら、今度はどんな便利機能(本人は超兵器のつもり)が搭載されるのか、ぜひご期待ください!

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