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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 桐生ことは


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第8話 王国は、まだ何も知らない

 王都は、いつも通りの朝を迎えていた。


 鐘の音。

 忙しなく行き交う馬車。

 市場に並ぶ品々と、人々の喧騒。


 ――何も変わっていない。


 少なくとも、表向きは。


「おかしいな……」


 王城の一室で、アルベルト・フォン・ルーゼン王太子は、机に広げた書類を睨みつけていた。

 眉間に深く皺を寄せ、何度も同じ行を読み返している。


「今月分の物資が、まだ届いていないだと?」


 側近が、恐る恐る頷く。


「はい……魔道具用の触媒と、医療用結晶が一部滞っておりまして」

「商会に確認したところ、“契約の再確認中”との返答が……」


「再確認?」


 アルベルトは、苛立ちを隠さず鼻で笑った。


「こちらは王家だぞ」

「向こうの都合で止めていいものでは――」


 言いかけて、言葉が止まる。


 胸の奥に、嫌な感覚が広がった。

 理由は分からない。

 だが、思考の端に、どうしても一人の顔が浮かぶ。


 ――レティシア。


 冷静で、感情を表に出さず。

 いつも、契約書や帳簿を整えていた令嬢。


(……いや、関係ない)


 彼女は追放された。

 もう、王国に影響を及ぼす立場ではない。


 そう、思い込もうとした、その時。


「殿下」


 別の側近が、慌てた様子で入ってくる。


「南部の商会からも、同様の報告が」

「物流が滞っており、原因が分からないと……」


 アルベルトは、椅子から立ち上がった。


「……まとめて、商会を呼べ」

「直接、話を聞く」


 その背中を見送りながら、側近たちは視線を交わす。

 だが、誰も口にしなかった。


 ――“本当に、契約を把握しているのか”という疑問を。


 一方、別の部屋では。


「問題ありませんわ」


 セラフィナ・リュミエールは、柔らかな微笑みを浮かべていた。

 祈りの間。

 光に包まれた、聖女の居室。


「神は、私たちをお見捨てになりません」

「必要な奇跡は、必ず与えられます」


 侍女たちは、安堵したように頷く。


 だが。


 セラフィナが一人になると、その表情はわずかに歪んだ。


(……変ね)


 最近、祈りの感覚が鈍い。

 以前のような、はっきりとした“応え”がない。


 奇跡は起こせる。

 だが、疲労が残るようになってきた。


(たまたまよ)

(少し、緊張しているだけ……)


 そう、自分に言い聞かせる。


 彼女は、まだ知らない。

 自分が“奇跡を起こしているつもりでいた仕組み”が、どこから供給されていたのかを。


 ――同じ頃。


 辺境ヴァルデンでは、朝の光が集落を照らしていた。


 簡素な集会所。

 人々が集まり、自然と役割分担が生まれている。


「今日は、畑の拡張だ」

「資材は、こっちに――」


 誰かが命令したわけではない。

 だが、誰も迷っていない。


 ミレーヌは、集会所の一角で、魔導式の調整をしていた。

 以前よりも、環境は整っている。


「……効率、上がってる」


 ぽつりと呟く。

 誰に聞かせるでもなく。


 私は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


「順調ですね」


 グラントが、帳簿を手に報告する。


「王都の商会から、再三問い合わせが来ています」

「条件次第では、かなり譲歩する姿勢かと」


「まだ、早いですわ」


 私は、首を横に振る。


「“困る”には、段階があります」

「今は、まだ“不便”なだけ」


 人は、不便では動かない。

 本当に動くのは――困った時だ。


「それと……」


 グラントは、少し声を落とす。


「聖女関連の資材も、滞り始めています」

「王都は、まだ気づいていないようですが」


 私は、小さく微笑んだ。


「でしょうね」


 誰も、仕組みを見ていなかった。

 結果だけを、信じていた。


 私は、手帳を開く。

 そこには、すでに次の計画が書き込まれている。


 ――第二段階。

 ――流通の再設計。


「焦る必要はありませんわ」


 私は、辺境の空を見上げる。


「王国は、まだ何も知らない」

「ですが――」


 一瞬、視線を細める。


「必ず、気づく日が来ます」


 その時、彼らは理解するだろう。


 追放した悪役令嬢が、

 ただ去ったのではなく――


 **静かに、王国の外側に“別の世界”を作り始めていた**ことを。


 そして。


 それが、どれほど致命的な意味を持つのかを。


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