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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 桐生ことは


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第3話 すべては契約通りですわ

 王都を離れて三日目。

 街道沿いの宿場町で、私たちは一夜を過ごすことになった。


 辺境へ向かう途中の町は、どこも似たようなものだ。

 人の出入りは少なく、物資も潤沢とは言えない。

 それでも、この町には――“使える”場所があった。


「こちらが、帳簿になります」


 簡素な宿の一室。

 卓の上に並べられたのは、数冊の書類と契約書。


 差し出したのは、元王都商会の支配人だった男――グラント。

 灰色の髪に疲れの滲む顔。

 だが、その目はまだ死んでいない。


「……本当に、すべて解除なさるおつもりですか」


「ええ」


 私は即答する。


「王家との取引」

「王都商会との独占契約」

「貴族院への資金提供」


 ページをめくりながら、淡々と告げる。


「すべて、本日をもって終了です」


 グラントは、息を呑んだ。


「そ、それは……王国経済に、大きな影響が――」


「でしょうね」


 私は微笑む。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 彼が混乱するのも無理はない。

 これらの契約は、王国の“裏側”を静かに支えていた。


 医療用魔道具の供給。

 貴族向け嗜好品の流通。

 遠方領地への物流網。


 どれも表には出ないが、欠ければ困るものばかり。


 そしてそれらはすべて――


「レティシア・フォン・ヴァルクレイン個人との契約ですわ」


 私は指先で、署名欄を軽く叩いた。


「公爵家でも、王太子殿下でもありません」


 グラントの顔色が、みるみる青ざめていく。


「……まさか、王家はそのことを……」


「知りませんわ」


 だからこそ、価値がある。


 私は、最初から理解していた。

 破滅ルートに入った悪役令嬢が、地位や名誉を守ろうとするのは無意味だと。


 ならば、何を守るべきか。


 答えは簡単。

 **“契約”**だ。


 人は裏切る。

 権力は移ろう。

 だが、契約は裏切らない。


 グラントは、しばらく黙り込み――やがて、深く頭を下げた。


「……それで、私は?」

「あなたは、自由です」


 私はそう告げる。


「王都に戻ってもいい」

「それとも――私と来るか」


 カイルと同じ問い。

 だが、彼は即答しなかった。


「……もし、あなたにお仕えすると?」


「立場も、報酬も、能力に応じて用意します」

「年齢も、出自も問いません」


 嘘は言わない。

 甘言も弄さない。


 ただ、条件を提示するだけ。


「必要なのは一つ」

「契約を、守れること」


 長い沈黙の末、グラントは苦笑した。


「……王都で、あなたほど“正直な貴族”を見たことはありません」


 そして、静かに言った。


「お供いたします、レティシア様」


(これで、二人目)


 人は、数ではない。

 “要所”を押さえればいい。


 その頃――王都。


 王太子アルベルトは、苛立ちを隠せずにいた。


「おかしい……なぜ、物資が届かない」


 側近が慌てて答える。


「商会側が、契約の再確認を求めてきておりまして……」

「今まで通りだと言っているのですが、どうにも動きが鈍く……」


「そんなはずはない!」


 アルベルトは机を叩いた。


「契約は――」


 そこで、言葉が詰まる。


 契約書を、読んだことがない。

 署名した覚えも、内容を確認した記憶もない。


 代わりに脳裏に浮かぶのは、一人の令嬢。


 冷静で、感情を表に出さず。

 いつも、静かに書類を整えていた姿。


「……レティシア?」


 だが、その名はもう、口にすることすら忌々しい。


 一方、王宮の一室では。


「大丈夫よ、アルベルト様」


 セラフィナが、柔らかく微笑む。


「神は、私たちを見守ってくださっています」

「奇跡は、これからも起こりますわ」


 その笑顔に、アルベルトは安堵する。


 ――まだ、この国が“何に依存していたのか”を知らないまま。


 その夜。

 宿の窓辺で、私は帳簿を閉じた。


「第一段階、完了ですわね」


 小さく、独り言のように呟く。


 王国は、まだ気づいていない。

 だが、確実に歯車はズレ始めている。


 すべては――


「契約通り、ですわ」


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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